三六 智羅教道場
今、道場内には信者二六名が集まっている。彼らはただの信者ではない、潜在的に霊力を持っている者たちだ。
彼らは玄馬に力を与えてくれる。スサノオを
その報いは受けてもらう。
本来、鬼多見とは争いなど望んでいなかった。しかし、
とは言え、鬼多見悠輝だけなら多少脅してやればなんとかなったはずだ。輔の霊力は惜しいと言うほどではない。布施も家族から望めない以上、大した価値はなかった。法眼が動く前なら、輔を取引材料にして智羅教に手を出すのを防げたかも知れない。
現実には、悠輝に輔を奪還され、更に
警告までしたのに、愚かな娘が単独でこちらに向かっている。
迦楼羅を打って迎えたが、残念ながら真藤遙香に大した怪我は負わせられなかった。さすがは法眼の娘というところか。
噂をすれば、か。
この敷地内に遙香が足を踏み入れた。
昨日のようにはいかぬぞ。
智羅教本部と戌亥寺は一五〇㎞以上離れている、これだけ距離があると式神の能力も落ちるのだ。
呪術者と近いほど、式神の能力は発揮され、さらにこの敷地内ならスサノオは無敵だ。
案の定、数分もすると二体のスサノオが左右から真藤遙香を挟むようにして、道場に連れてきた。
遙香は口の端から血を流し、眼に涙を浮かべながら玄馬を上目遣いに睨んだ。
「素直に手を引けば良かったものを」
「何、言ってんのッ? そっちが先にあたしの娘に手を出したんじゃない!」
この期に及んで、まだこの女は強気だ。
「いや、お前の弟の方が先だ」
「悠輝は信者を家族の元に返してくれって言いに来ただけよ!
それにあんたの息子はあたしの娘だけじゃなく、あたしが担当している声優も傷つけたッ」
「だからどうした。どちらにしろすでに
本来なら鬼多見法眼との取引のために生かしておくところだが、お前は危険すぎる。
これで終わりだ」
玄馬は遙香に背を向けた。
「ナニッ? イヤッ、やめて! いやぁあぁあぁあああぁああああッ!」
遙香が断末魔の叫びを上げた。
振り返るとスサノオが剣で遙香を串刺しにしていた。
改めて遙香の死に顔に眼をやる。
美しい、
まぁいい、いつ法眼が娘が殺られたことに感づいて、姿を現すか判らんからな。
尊にはああ言ったが、鬼多見と全面対決は避けられない。ならば、何としても勝つまでだ。
ふと、玄馬はスサノオが遙香の亡骸を持ったままでいることに気付いた。いちいち命じなくても、遺体は処分するように組み込んである。
玄馬は遙香を処分するよう念じた、これでスサノオたちは遙香を処分する。
「む?」
スサノオは彫像の様に動かない。
改めて遺体の処分を命じるがやはり反応がない。
このように動かなくなる事などあり得ない。
「その女を片付けよ!」
今度は念を込めるだけでなく声に出して命じた。
ピクリ、と二体のスサノオが同時に動いた。
真藤遙香が死に際に、悪あがきをしたのかもしれない。
だが、
どうした……?
スサノオは動き出したが遙香の亡骸をそのままにして、玄馬に近づいてくる。
「何をしておるッ、真藤遙香を片付けよ!」
彼の命令を無視し、なおもスサノオたちは玄馬に近づき彼に向かって腕を伸ばした。
玄馬は印を結び式神の
何ッ?
今まで感じていた己の霊力が感じられない。
ばかな……
自分に何が起こったのか考える間もなく、スサノオは両脇から遙香にしていたのと同じように玄馬を押さえ付けた。
「は、放せッ、放さぬか!」
両腕の骨が軋む。
「やめろぉおおぉおおおぉおおおお!」
両腕から嫌な音がして激痛が走る。
「ヒッ」
今度は一体のスサノオが彼の頭を鷲づかみにする。
「あッ、あぁああぁああああああ!」
頭蓋骨がギシギシと音を立てる。
「ギャァアアァアアアァアアアアッ!」
眼の前が真っ暗になった。
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