第67話 伊澄瑠璃子しかいない②
「さっき、君島さんが言ったように・・佐々木と松村の体から、あれを取り出すんだ」
神城は眉をしかめて「そんなことができるの?」と言った。「それができるんだったら、あの二人だって、とっくに出してるんじゃない?・・それに・・」
「それに?」と僕は神城に言った。
「あれが、体の外に出たら、さっきのファミレスの男みたいに、死ぬんじゃないの?」
「僕もそう思っていた・・けれど・・」
「違うの?」神城は不安を隠せない。
「『あれ』・・あれが小さいうちだと、外に出しても、宿主である人間は死なない・・」
そう僕は言った。確証があるわけではない。
あの屋敷の男女やファミレスの男が、どれくらいの期間、あれを体の中に入れ続けていたのかは不明だ。
だが、松村は言っていた。松村と佐々木の体の中には血がある。しかし、あいつらの体の中には血がなく、ただの「あれ」を入れている器に過ぎない・・と。
あいつらの体は、ほとんど「あれ」の意識で動かされている。だから、体の中に「あれ」が無くなっていまうと、血のない体は生命力を維持できなくなり、死んでしまう。
ならば、まだ体の中に血がある松村や、佐々木は、「あれ」を取り去っても死なない。
だから・・
「早くしないといけないんだ・・体の中のやつが大きくなる前に」
そう僕は大きく言った。「大きくなってからでは遅いんだ」
「でも、どうやって?・・奈々は、そんなこと、自分でできないでしょ」
「自分ではできない。僕もそう思う・・けれど」
「けれど?」
「・・伊澄瑠璃子なら、それができる」
「伊澄さんが?」
「伊澄瑠璃子しかいない。佐々木や松村を元の体に戻せるのは・・」
これは矛盾なのかもしれない。
元々、松村の体や、体育の大崎、そして、白山あかねと黒崎みどりのコンビに「あれ」を入れたのは、伊澄瑠璃子だ。そう推測できる。
そして、佐々木奈々に入れたのは松村だ。それは松村が言うには「佐々木を救うため」だろう。だが、あれを入れることによる血への欲求を抑える効果は一時的なものだ。
「あれ」に体中の全てを侵食されれば、ただの容器にすぎなくなり、誰かの血を吸い始める。
それが、体育の大崎や、ファミレスの男、屋敷の男女だ。
そのような現象の根源であると思われる伊澄瑠璃子に、松村や佐々木の「あれ」を取り除いてくれ、というのはお門違いかもしれない。
「だがな、神城。僕はこう思うんだ・・」
「どう思うの?」
「入れることができるんだったら、取り除くこともできるんだろう・・ってな」
そう僕は言った。無茶な考えかも知れない。
伊澄瑠璃子は僕の中に「あれ」を入れようとしていた。
そんな彼女にお願いをする・・無茶苦茶だな。
「無茶苦茶ね」と神城は呆れるように言った。
「けれど、他に方法が見つからない」と僕は言った。
そう言った僕に力添えするように君島律子が、
「私も協力しますわ」と言った。「あの女・・前から気に入らないんですもの」
君島さんは伊澄瑠璃子のことを「あの女」と言った。
君島律子は、伊澄瑠璃子が転校してくる前までは、男子生徒の注目を浴びていた。だが、彼女の登場によって、君島律子の高嶺の花の位置はあっという間に奪われてしまった。
そして、伊澄瑠璃子のおかしな点をいつもチェックしていた。
神城も伊澄瑠璃子のことを快くは思っていない。全ての原因は伊澄瑠璃子だと思っている。
だから神城も、
「仕方ないわね、私も協力するわよ」と渋々意見を合わせた。
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