第411話 ナミの言葉④

 僕は母が用意したコーヒーを有り難く頂きながら、テレビのリモコンを取り、ボリュームを上げた。

 そして、テレビの音に消されて聞こえてないだろう、と思って、

「なあ、ナミ。俺って弱いよなあ・・」と呟くように言った。

 別にナミの返事が欲しかったわけじゃない。これまでの僕の反省を誰かに言いたかったのかもしれない。


 すると、ナミはテレビに目線を合わせたまま、「そうだねぇ、兄貴は弱いよね」と強く言った後、

「兄貴は、弱いのにさぁ、私が幼稚園の時、近所の子にイジメられている時、わざわざ出てきて、『ナミをいじめたのは、どこのどいつだ!』とか、息巻いちゃってさ」

とそこまで言うと、その時のことを思い出したのか、「プッ」と噴き出すように笑って、「その後、相手の強いお兄さんが出てきてさ、兄貴、思いっ切り、その子に殴られてたよね」と言った。

「そうだったっけ? もう忘れたよ」

 僕は、照れ臭くなって、コーヒーカップに手を付けた。

 憶えているけど、そんな時の勇気はもう無くなったよ。


 ナミも思い出を話すのは恥ずかしいのか、テレビに目を走らせたまま、

「でも、あの時は、すごく嬉しかったよ」と小さく言った。そして、

「ねえ、兄貴」と呼びかけた。

 えっ、と僕がナミを見ると、

 ナミが僕の顔をじっと見ている。

「なんだ?」

 顔に何か付いているか? という風に訊くと、ナミはこう言った。

「兄貴は、兄貴のやりたいようにやればいいと思うよ」


「ありがとう、ナミ」

 僕はそれだけ言うと、二階に上がった。

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