第410話 ナミの言葉③

「青山先輩、ありがとうございます。なんだか、モヤモヤしていた心が綺麗に整理された気がします」

 僕が話を綺麗に締め括ろうとすると、青山先輩はそれを遮るようにこう言った。

「けれど、君の公平さが人の悲しみを引き起こすこともあるのだよ。特に女の子の場合はね」


 電話を終えると、リビングのソファーにドッカリと座り込んだ。

 目の前にはまだナミがいた。その目線は音量を下げたテレビに向けられている。

「ナミ、悪かったな。声が大きかっただろう」と僕は言った。

「大きかったけど、内容までは分からなかったよ」ナミはそう言った。

 内容を聞かれていたら、恥ずかしい。子機を部屋に持って上がればよかったと後悔した。

 だが僕は二階に行かなかったし、電話が終わってもナミのいるリビングに戻ってきた。

 どうしてか?

 それは一人きりになると、泣きそうだったからだ。取り乱したくなかった。泣いてしまうと、負けのような気がした。

 そして、ずっと思っていること・・

 速水沙織の重い人生を背負うには、僕は、あまりにも弱すぎる。


 ナミは僕と目が合うと、急に明るい顔になり、

「それにしても、青山さんて、格好いいよねぇ。私、憧れちゃうよ」と大きく言った。

「ナミは今日、青山先輩に会ったものな」

「私が電話に出ると、『やあ、君か』とか言われちゃったよ。めっちゃ格好いいじゃん!」

「青山先輩は、いつもあんな話し方なんだよ」

「私も青山さんの言い方を真似してみることにするよ。『やあ、兄貴、元気かい?』とかね」

「似合わないからやめておけ」僕は即座に返した。


 少し沈黙が続いた後、ナミは、

「兄貴、なんだか大変みたいだね」とボソッと言った。

 やはり、ナミは電話の内容を聞いていたのだろう。廊下だから聞こえて当然だ。

 だからと言ってナミに話してもどうなるものでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る