第409話 ナミの言葉②

 

 すると青山先輩はこう言った。

「沙織は、君に助けを求めているような気がするよ」

 速水沙織が僕に助けを? それはおかしい。

「それはおかしいですよ、速水さんは、僕に『私のことは放っておいてちょうだい』と言っていたんです」

 速水さんの言葉をそのまま伝えると、青山先輩は少し笑ったような声で、

「バカだな、君は」と言った。

「えっ、だって・・」僕が困惑の声を上げると、

「人に助けを求める時、恥ずかしげもなく正直に言うはずがないじゃないか。それに、沙織のことだ。人よりプライドがあるから、猶更正直には言えないだろう。少なくとも私にはそんな話はしないよ」

 青山先輩はそう言った。少し口調が寂しそうだ。僕なんかより、青山先輩の方が速水さんとは付き合いが長いはずなのに、自分には何も言ってくれないと暗に言っているようだ。

 

 いずれにせよ、青山先輩の言いたいことは分かった。青山先輩の言うことも一理あった。

「わかりました」僕が応えると、

「だが、鈴木くん。仮に沙織がそう思っていたとしても、あのヤヨイという女は危険だ」

 青山先輩はそう言って、

「沙織のことを『助ける』ではなくて、寄り添うだけではいけないのかい?」と続けた。

 寄り添う・・

 それはダメだ。速水沙織に寄り添うというのは、交際している男の役割だ。僕はその位置には立っていない。

「ダメなんです。それじゃ何の解決にもならない」

 僕が強く言うと、青山先輩は「話を戻そう」と言って、「鈴木くんと沙織は、ただ部長と部員の関係だ。何かの行動を起こす必要はないと思うが」と言った。

 

そして、更にこう続けた。

「君は、本当に大事な人の為にだけ、その身を差し出せばいいじゃないか」

「大事な人・・」

「そうだよ。普通は大事な人を守るためにそうするものだ。鈴木くんの場合、その相手は水沢さんのはずだよ」

 鈴木くんが守るのは、水沢純子のはずだろう? という青山先輩の言葉。

 その問いには僕は返事をしなかった。それを言えば、自分の行動を制約することになる。

 僕が応えないでいると、

「そう言えば、君は沙希ちゃんの時も必死だったな」

 青山先輩はあの性暴力教師、早川のことを思い出した。小清水さんが無理矢理に早川に抱きすくめられた事件だ。その後、僕は早川に対して、小清水さんの復讐のような行動をとった。

 青山先輩は小清水さんの件を思い返した上で、「相手が誰であるか問わず、その領域に踏み込むのが君なのかもしれないな」と言った。その言葉に雰囲気が和らいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る