第405話 青山先輩からの電話①

◆青山先輩からの電話


 頭を様々な思考が渦巻いていた。僕は、今日あった出来事を思い返しながら家路についた。

「兄貴、おかえりぃ~」

 帰宅すると、珍しくナミが「おかえり」と言った。いつものようにリビングでくつろいでいる。手にしているのはおそらく母が入れたコーヒーだ。

「お、おう・・ただいま」僕は変な声を出した。

 疲れているせいか、ナミの顔をまともに見れなかった。

 いや、体が疲れているのではない。精神的に参っている。今日一日で色んなことが起こり過ぎた。そのほとんどが衝撃的な事ばかりだ。

 石山純子との再会や水沢さんとの会話は、一つの思い出として心に仕舞い込めた。

 だが、キリヤマの娘のヤヨイは、僕の中で消化しきれない。

 そして、速水沙織に「君を放っておけない」と豪語しながら、小清水さんを抱擁しているかのような場面を見られた。

 もう無茶苦茶だ。頭が混乱して整理がつかない。

「兄貴・・変な顔をしているよ」ナミはスナック菓子をむしゃむしゃしながら言った。

「そ、そうか」

 返事をしながら、ナミの声に安らぎを覚えている自分がいた。

「で、兄貴、合同読書会とかいうのは、どうだったの?」

「それなりに・・」僕が気のない返事をすると、

「それで、あの綺麗な人・・青山さんとのデートはどうなったの?」と明るい口調で訊いた。

 デートじゃなかった、と本当のことを説明するとややこしくなる。

「あれから、すぐに別れたよ」と僕が素っ気なく言うと、

 ナミは、コーヒーカップをテーブルに置き、

「それ、おかしいじゃん。だったら、こんな時間まで何をしていたんだよ」と言った。

「部室でな・・色々とあったんだ」

「ふーん」ナミが腑に落ちない顔を見せた時、リビングの電話が鳴った。

 ナミは跳ねるように電話に向かって、「はい、鈴木です」と応えた。

 そしてすぐに「ああっ、こ、こんにちは! じゃなかった。こんばんは」と言って、すぐに「今日はお世話になりました」と相手もいないのに、ペコペコとお辞儀をした。

 誰だろう? と思っていると、ナミは僕を見て、

「その青山さんからお電話だよ!」

 と言って、電話の子機を持ってきて言った。

「青山先輩?」


 何の用だろう。と思いながら電話に出ると、

「やあ、鈴木くん。私からのプレゼントは受け取ってくれたかな?」いつもの男性口調が流れてきた。その言葉遣いは日に日に本物の男性に近くなっていくようだ。

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