第364話 克服⑤

「さっき、鈴木くんは彼女に嫌われている、って言ってたけど、本当にそうなの?」

 詳しくは話せない。

 けれど、水沢さんに訊かれている。どう説明すればいいのだろうか。

「告白するのに、夜、突然、彼女の家に電話をしたから」

「突然?」

 詳しくは言えないけれど、それくらいは話してもいいと思った。

「近くの公衆電話から電話したんだ」と言うと、

「夜・・遅い時間に?」と水沢さんは訊いた。

「たぶん、9時頃だったと思う」

 時間はハッキリと憶えている。

 すると水沢さんはこう言った。

「彼女、怖かったんじゃないかしら? 遅くに電話がかかってきて」

「えっ・・怖かった?」

 9時が、遅い時間だった?

 意外な言葉だったけれど、よく考えればそうかもしれない。相手は女の子の家だ。9時だと遅い時間なのだ。

 僕は告白する時間もその手段も全て間違っていたのだ。

「でも、もう終わったことなんだ」

 中学生にしたら夜遅い時間、クラスの男子から電話がかかってきて、怖かったかもしれないと言われても、もうどうしようもないし、振られた事実には変わりはない。

 おそらく昼間に電話をかけたとしても同じだろう。


「終わった」という僕の言葉を聞いて水沢さんは、

「鈴木くん、すごくショックだったのね」と言った。

 水沢さんは、秋の風に少しだけ髪を揺らし、

「今はそうでもないの?」と訊いた。

「え?」

「もう彼女のことは思い切ったの?」

 僕は頷いた。

 完全に思いを断ち切ったのか、と改めて訊かれると自信がない。

 けれど、今は僕の前にあるのは、水沢さんといるこの素敵な時間だ。

 ずっとこの時間が続けばいい。そう思っている。


 更に僕は思った。

 今日、こうして水沢さんと話すことができたこと。

 そして、初恋の人と水沢さんとの対局を観戦することが出来たこと。

 更に、水沢さんが自分の能力をコントロールできるようになったこと。

 その機会を与えてくれた青山先輩にひたすら感謝した。


 この夢のような時間はいつまで続くのだろう。すごく心地良いし、顔が赤らむほど胸が高まる。

 けれど、そろそろ終わりなのかな? と思っていると、

 じゃりじゃりと土を踏みしだく音が近づいてきた。

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