第330話 初恋対決!①
◆初恋対決!
「えっ、あの子って?」と僕が訊くと、
「石山さんと」水沢さんはキッパリと言った。
水沢純子が石山純子と?
「どうして?」
驚きの声を上げた僕に水沢さんは、
「だって、鈴木くんを振った相手だから」と少し微笑みを見せ、
更に、水沢さんにして珍しく悪戯っぽい目と口調で、
「鈴木くんは、彼女が負けるのを見たいんじゃない?」と言った。
まるで自分の勝利を確信しているかのように言った水沢さんの表情は、明るく楽しそうだった。ゲームをする前のワクワクする時の顔みたいだ。
はっきりと分かるのは、学校の裏庭で、自分の父親の浮気を打ち明けた時の水沢さんではなかった。
僕は、今の水沢さんの気持ちを大事にしたい。
水沢さんの言葉を聞き逃がさなかった真山さんが、「水沢さん」と声をかけ、
「石山と対局ができるよう、私が言ってきてあげるよ。将棋部の部長は私の知り合いなんだ」と積極的に将棋部の部員たちの方に向かった。
なんか頼もしい後姿だと思っていると、真山さんはすぐに戻ってきて、
「石山とすぐに対局ができるよ」と水沢さんに言った。
水沢さんが僕の初恋の人と将棋を!
冗談のような状況が本当になった。思ってもみなかった展開に僕の心は浮き足立った。
「鈴木くん、行ってきてかまわない?」水沢さんが言った。
「僕、見ているよ。気にしないで楽しんできて」僕は快く言った。
そして、石山純子に勝って!
どっちが強いのか分からないし、勝敗の予想もつかないが、
僕は水沢さんを応援する。
僕の心が伝わったのか、水沢さんは「うん」と笑顔で言った。
「私たち、ここで見ているよ」真山さんが言った。
「水沢さん、頑張ってねぇ」茶髪の榊原さんが手を振った。
他の部員たちも見学席に腰掛けて対局を見ることに決めたようだ。僕も部員たちの横に座らせてもらった。少し離れているが、対局の模様はボードで分かるようになっている。
長時間かかると思っていたが、学祭用に特殊な制限を設けてあるので、一つの対局に要する時間は平均で一時間ほどで、二時間もかからないらしい。とは言っても読書会並みに長い時間だ。
水沢さんは僕たちに見送られ、ローファーの靴を脱ぎ、石山純子の迎える盤に向かった。
石山純子と水沢さんが向き合うと、見学者全員の目がそこに引き寄せられた。
我が校の制服と神戸高校の制服、かつ、それぞれの高校を代表するような美少女二人。
人の目を奪うには充分過ぎるほどの舞台だ。
見学席にいた当校の男子生徒も「水沢だぜ」と口々に言った。
「水沢さんって、将棋が得意なんだっけ?」と言うと、「中学の時から有名らしいぜ」と誰かが答えた。
「水沢もいいけど、あの神戸高校の女の子、可愛いな」と我が校の男子が言った。
どちらの女性もこの場の男性陣の心を奪っているみたいだ。
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