第287話 水沢純子の能力①
◆水沢純子の能力
「おいっ、鈴木。私たちに何か用があるのか?」
そう言ったのは、不良めいた女子の浜田だ。話し方が乱暴だし、髪も校則に反して染めている。浜田の横には似たタイプの安藤がいる。二人とも悪い話しか聞かない女子だ。
少なくとも、水沢純子という可憐な女の子の雰囲気とはそぐわないし、縁もないはずだ。
足が少し震えた。
あまりこの手の女子とはまともに話を交わしたことがないからだ。最近、女性に慣れはしたが、やはり不良の類いは苦手というか、嫌いだ。
こんな時、何て切り出せばいいんだ!
僕は、「話し中のところ、ごめん」と言って一呼吸つき、
「僕、水沢さんに用があるんだ」と強く言った。
すると浜田が、
「鈴木みたいな影が薄いのが、クラス一の美人さんに用って・・」と笑うと、
安藤が、
「ウソだろ、鈴木の顔、話を誤魔化してます、って顔だ。本当は違うんだろ?」と決めつけるように言った。
確かにその通りだ。
僕はただ水沢さんが素行の悪い女子に囲まれているのがイヤなだけだ。水沢さんが困っている場面は見たくない。
「悪いけど、水沢さんと二人きりにさせてくれないか?」
僕は言い方を変えた。
「まさか、鈴木も水沢に告白するってか?」そう言って浜田は「ぷっ」と噴き出すように笑い出した。つられるように安藤も笑った。
水沢さんは笑っていない。それに不良娘に囲まれても全く動じた様子もない。凛として佇んている。
「僕が告白したら、おかしいか?」と僕は強く言った。
どの道、変な噂が立っているんだ。これ以上は悪く展開しないだろう。
「お前みたいなモテない男は、関係ないんだよ」浜田がそう言うと、
安藤が、「水沢は、あの正木くんも振ったんだ。その女がどうして、鈴木なんかの申し出を受けるって言うんだ」と強く言った。
正木には「くん」を付け、僕は「鈴木」
そんな違いより、水沢さんの「その女」という言い方の方が許せない。
だんだん腹が立ってきた。
透明化の失敗で、一旦は治まっていた怒りが突き上げてきた。
「どっちだ?」と僕は静かに訊いた。
「あん? どっちって何のことだよ?」安藤がふてぶてしく言った。
「さっき、水沢さんの制服を掴んでいたのはどっちだ? 浜田か、安藤か!」
自分でも信じられないくらい大きな声が出ていた。どこにこんなエネルギーがあったのだろう。
僕の声に、浜田が「ちっ」と舌打ちして、
「それ、私だけど、何か文句あるのか?」と凄みを利かせて言った。
「許さない!」
僕が叫ぶように言うと安藤が、
「こいつ、教室では全然目立たなくて影が薄いのに、何を張り切ってやがるんだ?」と言った。
「いっちょう、懲らしめてやるか。誰も見てないことだしな」と、浜田がぐいと詰め寄った。
すると、それまで黙っていた水沢さんが耐えかねたように、
「浜田さん」と声を上げた。
「何だよ? 水沢」浜田が水沢さんと向き合うと、
水沢さんはこう言った。
「浜田さんは、正木くんに振られたのね?」
一瞬で、浜田の顔が険しくなるのが分かった。
同時に、安藤が「えっ」と小さく言って、浜田の顔を見た。
水沢さんは、今度は安藤の方を見て、
「そして、安藤さん、あなたは自分が男子に人気がないのをひがんでいるのね」と言った。
安藤が言い返す暇も与えず、水沢さんは続けた。
「それに、安藤さんはこうも思っているわね・・『水沢の奴、デカいマンションに住みやがって、お陰で私の家は日当たりが悪くなったじゃないか』・・と」と安藤の心を見透かすように言って、
「安藤さんにそう思われても、私のマンションの後に、安藤さんの家が建ったのよ。文句を言うのは筋違いよ」と続けた。
水沢さんにしては珍しく強い口調だ。それに顔が少し怖い。
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