第103話 「鈴木くんだけが、私を好きじゃない」①

◆「鈴木くんだけが、私を好きじゃない」


 僕は水沢さんに尋ねた。

「それからもあったの? 水沢さんの頭の中に、声が入ってくることが」

 僕の問いかけに、水沢さんは、

「時々だけど、あったわ」

 女性同士の嫉妬とかの声も聞こえそうだ。

「クラスメイトが、私の悪口を言っているのが聞こえたこともあったわ」

 それ、辛いよな・・陰口が伝わってくるだけでも気分が悪いのに、実際に頭の中に入ってきたりしたら・・僕だったら耐えられないかもしれない。

「でもね・・高校に入って、ゆかりと知り合ってから、少し楽になったわ」

 加藤ゆかり・・それで水沢さんと加藤は仲がいいのか。タイプが全然違うのにいつも一緒だな、と思っていた。そんな理由があったのか。

「他の子は、打算的に私に近づいてくるのがわかるの・・けど、ゆかりは純粋に私と向き合ってくれた・・だから、私の不思議な体質のことも少し話したのよ」

 そうだったのか・・

「ゆかりは大事な友達よ」

 水沢さんは「いい友達が出来たのはよかったのだけど・・」と言って、少し顔を暗くし、

「次第に・・クラスの男子の視線が・・声が・・頭の中に」

 そう水沢さんは声を落として言った。何か、厭な物の蓋を開けるように。


 ぎくっ!

 男子って・・もしかして、僕の心が・・

 これはちょっと、まずいぞ。まずすぎる!

 現に今だって、僕の心が伝わっているかもしれない。

 なんてことだ、今頃、それに気づくなんて!

 気づくのが遅すぎる! 心を閉ざしたりすることはできないのか!

 だが、今のこの状況下では、僕は話を続ける水沢さんに向き合うことしかできない。


「思春期を迎えた頃になると、今度は男の子の声や心が頻繁に聞こえたり、伝わってくるようになったの」

 予想通りだ・・どうしたらいい?

「気がついた時には、クラスの男の子のほとんどが、私に好意を持っていることがわかったわ・・変でしょ、自分でそんなことを言うなんて」


 普通の女の子が言ったら、どこか自慢しているようなセリフだが、水沢さんの言葉には信憑性がある。だってそれが本当だと、僕は知っているからだ。

 

 まずい・・これはまずいぞ。

 以前、僕は水沢さんを思う気持ちは誰にも負けない、とさえ思っていた。

 それがこんな所で暴露されたりしたら、

 それも、この際、好都合か?・・じゃないっ!・・

 僕はこの思いをずっと心の奥深く仕舞っておこうと思っている。それなのに、ばれてどうするんだよ!


「中には、私の体を舐め回すような、厭らしい心や声もあったわ・・」

 いるいる、そんな男子を何人も僕は知っている。

 けど、僕はそんなことは思っていない・・

 いや、それも自信がない。なくなってきた。

 そんなことを言われたら、逆に気になってきた。

 そう思わなくても、水沢さんの胸元とかに視線がつい行ってしまう。

 まずいっ!

 こうなったら、水沢さんに指摘される前に、言っておこう。

「水沢さん・・僕は・・」

 僕がそう言いかけた時、


「でもね・・」

 そう言って水沢さんは今日一番の笑顔でこう言った。

 でも?

「鈴木くんだけが、私のことを見向きもしていないことがわかったの」

 えっ・・

 えーっ!

 水沢さんは姿勢を直し、髪に指を入れて無造作に梳きながら、

「私、嬉しかった・・すごく」

 嬉しかったって・・僕が水沢さんのことを見ていないのが嬉しいのか?

 一体どういうことだ? わからない・・

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