第61話 (閑話)夕餉「ばんごはん」
ちくしょう嘘つき
確かにごく内輪だが、とても
給仕がついた立派な
しかも。
シズルは、
シズルは今、どこからどうみても
勿論、普段だっていつも女性なのだが、夕餉の前にルカと連れていかれた控えの間で、城の侍女たちに取り囲まれたかと思ったら、あれよあれよという間にひん剥かれ、ドレスを着せられてしまったのだ。
どうやら女児を持たないオルタンシアの望みで、着替えさせられたようだ。
しかし借り物とはいえ、着用したドレスは
この世界の女性はどうなってるんだとシズルの眉間に皺が寄ったが、そういえばあの女魔導士もやたら発育がよろしかったと思い出した。
そのままでいい、というミゼンの口車にまんまと乗せられ、お城の食事に釣られ、ほいほいついていった結果がこの有様だった。
シズルはミゼンという『
さて、席の配置はこうだ。
オルタンシアの右隣にジークハルト、左隣にシルベスタ。テーブルを挟んでオルタンシアの正面にバシレウス。その左隣にルカ、右隣にシズルとシズルの隣にザカリ、となっている。
ザカリが若干涙目なのは、おそらくジークハルトたちと入った別の部屋で、シズルと同じような目に遭わされたのだろう。彼もいつものシャツとズボンではなく、上着を着せられ胸元はクロスタイで、いつもの
うん。私も恐ろしかったよ、とシズルは心の中でザカリを慰めた。
そして何故か今現在、シズルはオルタンシアの怒涛の
「まぁあ、この方が噂の方なのね、ジーク、あなたの話から想像していたよりもずっと可愛らしいわ」
一体何を話したのか、シズルはジークハルトをぎっと睨んだ。
「シズルと呼んでも構わないでしょう? 構うと言っても呼ぶけれど」
オルタンシアそう言って、少女のようにころころ笑っている。
これはルカとは違ったタイプの
「初めてお目にかかります、オルタンシア殿下」
「今は気取った貴族の晩餐会ではないのよ。堅苦しいのは嫌だわ。シアでよろしくてよ」
いやいやいやいや。
仮にも、この国の女性第一位の王妃殿下を、そんな気安く呼べるわけがない。
シズルが悩んでいると、隣に座るバシレウスがオルタンシアに声をかけた。
「シア、それはいけないよ? その呼び方は私だけのものだ」
ジークハルトとシルベスタの主従は、悔しいことに慣れているのか、微笑ましいものを見るような視線を向けているだけだった。
ルカは恥ずかしそうに頬を染めぽおっとしている。
自分だけ周囲と違う
「それはそうとシズルあなた、とても綺麗な瞳だわ。これは生まれつきなのかしら?」
「いえ、これは」
「ザカリイッショ」
シズルの隣に座っていたザカリが、オルタンシアに向けてひょいと顔を突き出した。
シズルは更なる混乱の予感に頭痛がした。
「まあ、同じ瞳の色なのね、全然似ていないけれど、あなたはシズルの兄妹なの?」
「キョウダイチガウ、ナカマ。シズルザカリ、イッショ」
「あのですね、このこはザカリといいまして、一応私の使い魔で」
「まあ! 魔物なの? でも人だわ、どうしてなのかしら」
「本当は魔狼なんですが、体が大きいので周囲の人間が怖がっていたんです。それで」
「あら、今も大きいわよね」
「ザカリ、ジークハルトウエ、オオキイ、エライ」
ザカリがいつものように、胸を張って得意そうに言った。
「まあそれは困ったわねぇ、ジークもバシレウスも大きくて、話をする時に見上げなくてはいけなくて首が痛くなるし、それに一緒にいるとやたらと場所を占領してしまって、ときどき本当に鬱陶しいと思うのに、ザカリあなたもなの?」
「シア、酷いよ」
「姉上、酷いです」
「それとシズル、貴女
オルタンシアの両隣が咳き込んでいる。
「姉上、シズルは元から
『ああいう』とはどういうことか。大体の想像はつくが、否定できないところが尚更腹立たしい。
「まあ、そうなの? ジークはそれでいいの?」
「いいもなにも。姉上、シズルは私の護衛官ですよ? 仕事ができれば体型など関係ありません」
「まあ、つまらない子ね。こんなに素敵なお嬢さんが、四六時中側にいるのにそんな反応しかできないなんて。そんなだからお嫁さんが見つからないのですよ」
「姉上、勘弁してください」
困ってる困ってる。
シズルは、オルタンシアに頭の上がらない様子のジークハルトを見て、普段からの拳骨や
「シズルもこちらでいい人を見つけたら、ちゃんと捕まえるのよ? 大丈夫よ、着飾って
補填・・・。何を? どこを?
シズルは再びダメージを受けた。
「それはそうとルカ、あなたは本当にルークでいいの?」
「えっ? あの、それはどういうことですか?」
「だって、母親のわたくしがいうのもなんだけど、あの
お母さんが
わかった。
魔力なんて関係ない、この国で一番強いのはこの人だ。
そもそも
傍若無人? マイペース? いやもっと簡単な言葉がある。
どこの世界も『母は強し』だ。
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