第78話 果てさせるは豊満爆裂オッパイか、小生意気パイオツか。それが問題だっ!

「あ、ソーレ! オッパイワッショイオッパイパイ♪ オッパイワッショイオッパイパイ!」

『あ、ありがとうございました。のちのツアーでお会いできるのを、た……楽しみにしていますっ』


 怒涛の怒涛の怒涛の物産てぇぇぇぇぇぇんっ!!!


 最終日の出だし。初日や二日目とは比較にならない程のお客さんが押し寄せていた。


 特に《委員長》が頑張ってくれている。


 店の看板を、高らかにうたいながら、上下させてアピールする俺の隣で、何とか笑顔を作りながら、いつも通り優しい女の子女の子した雰囲気で、お客さんに応対していた。


 ハハッ。今、《委員長》から手ずからお釣りをもらったお兄さんなんてだらしない顔しちゃって。


「ハイ、オッパイ! オッパイなんです! 今ならこのオッパイがたったの1万! 一万ですよっ!」

『もう、もうお嫁にいけません。お母さんやお姉ちゃんにも見られて……もう家にも帰れない(泣)』


 え? 泣き言が漏れているんじゃないかって? 

 何言っているんだ。俺の耳にはフィルターなんてないんだぜ? 

 来たもの拒まず。声はすべて拾うスタイル。


 さっきだってご家族の方がいらっしゃって、お母様(絶対に嘘だと思う。超絶綺麗な幼女だったから)とお姉さま(これが、ホンマにお姫様じゃないかレベルのふつくしさ)が笑顔で(コメカミひきつってた気もするけど)で「富緒を宜しく」と言ってくださったしな。


 少し残念なのは、お二人が向けてくれる笑顔に、俺と《主人公》に対するものとで違いが感じられることだが。


『俺たちの学校のこと、もっとよく知ってほしい。だからツアーを申し込んでくれて嬉しい』

『は、ハイ♡(カァァァァッと顔を真っ赤にして俯いている)』


 《縁の下の力持ち》も上々だった。

 普段から存在感は強い方でないし、正直言っては地味な方だが。

 文学的なもの静かそうな女性から高評価で、すでに50名のツアー客の申し込みは決まっていた。


(お、おいおい……コイツァ……)


 というか……ちょっとウチの物産展が、凄いことになっていた。


『綾人様ぁ♡』

『鬼柳きゅぅん♡』

『壬生狼先輩♡』

『牛馬頭くぅん♡』

『ネコネたぁぁん!』

『灯里ちゃぁぁん!』


 入る。どんどんお金が入ってくる。


 売り上げは別に、今日ガイドを務める二人にだけ集中する形ではなかった。


 ウチのクラス全員イケメン美女。さながら「会えるアイドル的」感じなのか。 

 一目見ようとする者。すでにこれまでの二日間で訪れていたリピーター客。


 今日の最終日が終わってしまったら、会うことも話すことも難しくなることを予期しているのか、これまで以上に溢れかえっていた。


「まて! まて♪ 待ってくれ♡ 開店一時間でこれ……」

 

 そしてそんなお客さんたちに対し、初日二日目は不特定多数に媚びることに抵抗を感じていたクラスメート全員、今日だけはプライドを掻き捨てたのか、本気を出していた。


「450万円って!」


 残り……目標3000万円に向けて150万円である。

 これは、今日凄いことになってしまうかもしれない。


「一徹! この商品の補充を頼もう! 他にもいろいろ……」

「ハハッ! 来たな!?」


 そんなころだった。トリスクトさんが呼びかけてきたのは。


「凄いね売れ行きが!」

「あぁ、これはとんでもないことになりそうだよ。やれやれ!」


 まさに売りの戦場となった模擬店を視界に収めながら、携帯端末を耳に当てた。


 人間とは学習する動物。

 初日のような売り切れによる出荷停止、および売り上げの停滞などは起こさせないのだよ!


「あ、どうも! 3組の山本です。そちらから提供いただいた商品売れ行きが凄くって。えぇ、えぇ。補充を大量に、かつ速やかに……届けていただけませんかっ・・・・・・・・・・・・?」


 一日目に売れすぎて品切れを起こした。

 二日目は、不慮の事態を想定して三日目分も合わせて在庫を用意した。


 そして俺たち三組は……さらなる出荷を予期して、あらかじめ協賛商店にいつでも在庫を追加補充させてもらえるように、そして届けてもらえるように取り付けていた。


「いま話はまとまったよトリスクトさん。三十分以内に届けてくれるらしい」

「良し。私は改めて在庫状態を確認しておく。状況に応じて、クラスの皆に出せるアイテム出せないアイテムの情報を共有しておこう」

「注文を受けてからの欠品発生リスクの回避か。トリスクトさんが俺のサポートについてくれてよかった」

「全力をもって協力する。婚約者として当たり前だろう?」


 なんか、また恥ずかしいこと言われた気がするが、好調すぎる売り上げに興奮してあまり聞こえない。


『『キャァァァッ!』』


 そんな時だ。二筋の悲鳴がこの場の空気を切り裂いた。


「悲鳴? この声は……」

「富緒、そして灯里っ!? 一徹、見てくれ!」


 大わらわで騒がしかった物産展も静まり返ったことで、何か良くないことが起こったんじゃないかと直感。


(おいおい、もしかして『オッパイ』連呼したのが仇となったんじゃあるまいな……)


 トリスクトさんの提案を聞くまでもなく、悲鳴の方に振り返った。



『あ……あん♡ そんな強くしては、い、痛いです……♡』

『ん……ふ……お願……い鉄。見ない……んっ! 変なトコ……クリクリしちゃ♡』

「ズコォォォォォ!」


 よくあるだろ? 

 熱闘高校野球で選手たちが見せるヘッドスライディング。

 

 悲鳴を聞いて、全力で振り返った俺は、その遠心力のまま、何もつまづくくものはないはずなのに、前にズッコケた。


「おっほぉ♡! この重量感はたまらんの。にしてもやはり若さとはいい物じゃて。こっちも形がよくて感度も抜群じゃ♡」


(な、なんだこの状況は……)


 あの悲鳴と、俺のオッパイ連呼。そのことから想起できたトラブルは、実際に目の前で起こってしまった。


『お嬢ちゃんは……今後に期待じゃの。あまり気にすることもあるまいて。乳のない娘好きな男も多いでの。それに主はどちらかというと、具合の良さでハメ……ハマらせるタイプじゃろうし』

『ん、身の危険を察知。私を見ないで』


 だが、想定とはちょっとだけ違う部分もあって、それが俺が固まる理由だった。


「良いじゃろう? ここはスペンス腺とゆうてなぁ、わらわもこちらの世界の書物でしったんじゃが……」

『んんっつ♡ 嫌、鉄の前で……♡』

「おお? 娘も……良くなってきたようじゃな。少しずつ際立ってきておるこの突起は、一体なんじゃ? エィッ!」

『ひぅっ! 摘まんじゃ……ラメッ♡!』


 やべぇ(パクパクパク)。開いた口がふさがらねぇ。


「いんやぁ、にしても随分攻めた商売もあるもんじゃのぅ。白昼堂々、乳揉み一揉み一万円とは。じゃがその価値はありや。娘たちは瑞々しいほどに若く、美しい。ホレッ!」

『ハァッ♡』

『んくぅっ♡』

「どうじゃぁ? もう辛抱たまらんのかのぅ? あと何揉みすれば、果てるかのぅ」


(というか……うっ、俺も前かがみにならないと、立てなくなってきた)


 盛大に、乳が揉まれている光景がそこにあった。


 予想と違うのは、乳をもんでいるのが男ではなく、女性であったことだ。

 それも、ゴイスーに美人。

 両手それぞれ。

 左掌は《委員長・・・》をこねくり回し、右手というか指は、《ヒロイン》のモノ・・をキュッとつまんでいた。


「50揉みか? ミツグ君A」

『にゃっ♡』


 楽し気なゴイスー美人が聞いた瞬間。

 驚いたように、《委員長》は目を見開き、口が開いた。

 それと同時に、ゴイスー美人の後ろに控えていたオッサンが、おもむろに革財布から札束を取り出した。


「それとも100揉みじゃろうか。ミツグ君B」

「んっ♡」


 恥ずかしさが極まったのか、《ヒロイン》はギュッと目をつぶって声を押し殺していた。

 さらに後ろから、もう一人オッサンが出てきて……《ミツグ君A》と呼ばれたオッサンより、さらに厚い紙幣束を取り出した。


「これでも足らんか? 金ならまだあるでな。それともこういうことは、同じ分だけ返してやるのが適当か?」

『ダメ……ですぅ♡ これ以上はぁ♡』

『いやぁ♡ これぇ♡ 何か……来ちゃう。来ちゃうぅ♡』


(あぁ、これもう無理だ。しゃがみ込むの不可避)


「なら小娘二人には、妾の乳を弄ぶ許しを与えようか。口いっぱい吸立てるもよし。ねぶるもよし。舌先で転がすもよしじゃ♡」


 トンデモ光景に、男なら誰だって反応しないわけがない。


『おい、神光景ktkr……』

『うらやま……け、けしからん。まっことけしからんですな!』


 客の男達は皆、その光景に凝視していた。見事に前かがみになっていた。

 その中でも俺については、もはや立つこと敵わず(勃つこと叶ってしまったから)。


『ふふん♪ 果てる直前の表情が一番そそるの♡ おい、そこの剣術小僧?』


 と、そんな状況でゴイスー美人が《主人公》に語り掛けた。


(って、あれ? 状況についていけていないのか。お兄さん固まってない? 白目剥いているし)


『小僧の意見を聞こう。どちらの乳を先に果てさせるのが良いと思う?』

『へっ?』

『もうすでに、双方のモノとも堪能したのであろ?』

『へぇぇぇぇぇぇっ?』


 おいぃぃっ! 俺と同じく童貞ディフェンスタックルとはいえ、その反応は初心すぎるだろぉ!


『この《豊満爆裂オッパイ》をいただきに押し上げるか、《小生意気パイオツ》に気をやってもらうか。それが問題じゃ』

『いや、お、俺は……』

『なんじゃまだなのか。小娘共二人には、小僧に対するメスの匂いを感じるからの。ついでに言うとそこの貧乳娘もじゃ』

『えぇっ!?』


(あぁ、これは……《主人公》でも駄目そうだわ)


『ふぅむ、にしても三人が三人ともに、プンプンと小僧に向けて匂わせるから、まさかとは思うのじゃが、正妻はまだおらんの? いや彼女か』

『あ……俺は……』


 普通、こういう場なら真っ先にやめさせようと声を掛ける奴なのに。女の子同士というイレギュラーに圧されたらしい。


『まさか同時攻略か! さ、昨今の若者は精力旺盛じゃのぅ』


 で、遊んでるよ、ゴイスー美人。

 自分で言ってみて、自分で恥ずかしそうに顔を赤らめちゃったよ。

 言いたい放題言われた《主人公》が反応できないのを楽しんで、一層イジっているなこりゃ。


『ハッ! それとも小僧の好みは、体も顔も完璧な妾のようなお姉さんかえっ? それは困ったのぅ。妾は、バリバリ一途ゾッコンラブなのじゃが』


 徹底的にこの場を荒らしまくってれるお姉さんは、そこまで言うと、両腕の中の二人を開放する。

 《委員長》はその場で膝を地面につき、四つん這いになってうなだれながら、ハッハッと、息を切らしていた。

 《ヒロイン》はものすごい勢いで《主人公》の胸に飛び込み、抱き着いた。


 あぁ、二人とは関係ないが、《猫》は自分の身体を抱きしめ、恥じらう表情と共に俯いていた。


「それについてはどう思うかのぅ? わらし?」


 と、そこでだ。

 どんな話の脈絡かは分からないが、ゴイスー美人さんが俺に笑いかけてきた。


「ところで、その顔面をグルグルにまいた包帯は一体なんじゃ? 隣の彼女との何かしらのプレイかえっ? そこな娘も……いじクリ甲斐がありそうじゃ」

「ぷれっ!」


 一緒にこの場に駆けつけた、隣に立つトリスクトさんは、驚きとともに、サッと俺の背中に隠れてしまった。

 なんだろう。クールな彼女がここまで取り乱す。ちょっとかわいい。


(って……アレ? この人って、もしかしてあの時の……)


 そんなことを思いながらゴイスー美人お姉さんと対峙する形となったところで、ふと思い出した。


 後ろに控える、どう見ても催眠術を掛けられたとしか思えないうつろな顔したアッシー君メッシー君ミツグ君のオッサンたち。

 古風話し言葉。

 享楽にふけ、まじめさからほど遠い性格。

 シャリエールやナルナイたちのような褐色の肌。腰まで伸びた、黒曜石が如く輝くロングヘアー。

 万人を虜にする、見事にエッロイ体と美貌。


「あの、以前一緒に鶴聞までついてきてくれたお姉さんじゃないんですか?」

「なぁんじゃ。二世代も前のナンパ常套句をふるってくるものじゃのう。もう少し口説き文句を磨かねばの?」


(あれ、このセリフ何処かで……)


「……童とは今日初めて会ったがのぅ?」

「え? いや、ですが……」

「きっとどこぞの、同じくエキゾチックスケベ肌のナイスバデと勘違いしているんじゃ」


(確かに、あの時俺を迎えに来てくれたシャリエールと、特徴は似ているけれど……)


「妾はただ、女を引き連れた童が、この光景におってているのが見ていて楽しかったから声を掛けただけじゃよぉ~♪」

「い、一徹。君が反応するのは、灯里や富緒たちのあられない姿の方なのか……」

「うわぁぁぁぁああ! や、やめてくれっ!」


 駄目だ。

 考えるのはよそう。

 少しでも隙を見せたら、とんでもないこと言われる。

 しかもトリスクトさんの前で……というのは、実によろしくない。


「初めましてじゃよ。祓希止水バラキシスイじゃ」


 ……絶対に嘘だよね! 日本人顔じゃないし。


「国際化の進んだ昨今、それは差別じゃよ~?」

「だから、人の心を読まないでくださいと何度も……あれ?」


 止水さんの発言に反応して……俺は息を飲んでしまった。

 それに対し、止水さんはニィッと目を細めた。


「……さて? 年端も行かぬ未成年の学生たちをからかうのは、同じ大人として感心いたしませんわね」


 そんな、違和感に首を傾げた時だった。


 新たな声が、静かに響き渡った。


(って……え?)


 瞬間で、傾げた首の確度は、さらに傾いた。


 他のお客さんたちに特段の反応はなかったが、《主人公》を始めとしたクラス全員が目を見開き、声の主の方を見て絶句していたからだった。


『一体何の騒ぎかと思ってきてみたが、なんとも下衆な話をする。英雄たちを前にこれだけは思いたくなかったが、正直失望を禁じ得ないな』

『あ、あのっ……そのぉ……申し訳ありませんっ。こんなはずじゃ、なかったんですけど……』

『クックック、私もおごってみたいものですねぇ。流石は《人魔の暁》。きっと彼ら英雄にとって、すでに訓練生としての自覚はなく、学院生活面も、余裕で退屈なのでしょう』

「少佐もその辺に。滅多にない文化祭だからこそ、日々厳しい訓練に励む学生が少しハメを外すのは自然なことではありませんか」


 俺も声の方に振り返ってみる。


 身長170前半で、ゴリラみたいにガタイのいい、冗談も通じなさそうな眼鏡かけた堅物のオッサンが、三人に囲まれて立っていて、こちらを見下みくだしていた。

 

(ハハッすっげ、この女性ヒト……止水さんレベルに……)


 堅物ゴリラを囲んでいる三人の中で、まず目を引いたのは、パツキンのお姉さんだった。

 目ん玉飛び出るぐらいにキレーな、世界レベルモデルでもめったにお目に掛けられない程の美貌を誇っていた。


 二人目に囲んでいるのは……ま、こいつはどうでもいい。

 《蛇塚なんちゃら》だから。


 三人目は、我が三縞校の生徒会長。ブラウンカラーの髪を後ろに纏めた清潔感際立つ美少女。

 小学生か中学生にも見まごう身長と幼い顔立ちながら、巨乳と。

 反則的なトランジスタグラマーロリータであることから、俺も含めて学内の男子からの人気は極めて高い。

 通称、《非合法ロリ可愛生徒会長》である。

 一部では、縁談の話が来ているとのことだが、《主人公》とデキてしまっても構わないから(スマンな《ヒロイン》)、是非とも縁談をはねのけていただきたい。


「って、なんだよお前ら黙り込みやがって。このオッサン、皆の知り合いなのか?」


 その四人の後ろ。ガタイのいい、スーツ姿でサングラス掛けた大男たちが数多く控えていた。


 ぶっちゃけ、オッパイトラブルでこれ以上の商売停止は望むところではない。

 ゆえに話を進めようと思ったのだが。


『オッサン? 君は、この私に今、オッサンといったのかね?』

「まさかえにしだとでも言うのか? おに……さま……」

「ほう? これはこれは、予想外の登場人物じゃわい。童と……相見えるか」


 なぜ、みんなの表情が一層ひきつったのが、理解できなかった。

 たったいまのトリスクトさんの言葉も。

 《鬼様》とはいったいどういうことなんだろう。確かに、コワモテだけれども……

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