第56話 逆地堂看護学校 キャバ嬢文化祭? ナンパ合コン文化祭っ?
『ねぇねぇ君可愛いね。何年生?』
『へぇ、奇遇じゃない? 俺もそれが専門なんだ。今度医大の友達連れてくるから、一回勉強会しよっ』
『え、彼女? いたら流石にこの学園祭には来れないって』
あぁ、なるほど。何となくエメロードが言った、「リィンの事を守りなさい?」ってセリフの意味が分かった。
『連絡先交換しようよ。今度ランチしよう?』
『いやぁ、看護師とか本当に大変な仕事だと思う。だからこそ凄く尊敬できる。命の現場かぁ。勇気があるっていうか、俺だったら正直キツイかも。凄いなぁ』
(いんやぁ軽薄極まりない。学園祭というよりは、ナンパ祭りだこりゃ)
よくよく考えてみたら、これが初めての立ち寄りとなる。
今回初めて、逆地堂看護学校の正門をまたいだ。
ウチの文化祭準備の為に、三縞市の各商店への外回り途中、少し時間が空いたため、今日から文化祭が開催されると聞いて、立ち入ってみたわけなんだが……
広がるのはナンパ。ナンパ。ナンパの光景。
この看護学校の生徒は、女子だけということもあって。
若い子との出会いを求めてこの日を楽しみにしていたのか、外部からの男性客がこぞって訪れていた。
(ナンパ祭りか。エメロードは、キャバ嬢祭りだって言ってたはずなんだが……)
白衣の天使の格好をする学生は流石に一人もいない。
下こそ私服だが、上は看護学生の人間だとわかるようにしたのか、オリジナルTシャツを着こんでいた。
(当然か。妄想様々を掻き立てる代物とはいえ、ナース服ったら本来神聖なもの。ナンパ祭りのようなフシダライベント(男目線)で、その格好は制服への侮辱になる)
『こんにちはっ! 魔装士官学院三縞校の3年生の方ですか?』
ちょっとばかり圧倒されていたさなか、声を掛けられた。なんとも、明るく親しみやすい、恐らく文化祭運営スタッフの看護学生なのだろう。
「え? ああ、そうですけど」
『もしかして、ウチから依頼させていただいた警備のために来ていただいた……』
「あ、いえ。ちょうど外出の機会があって、看護学校が今日から文化祭開催ってのを聞いたので、合間に立ち寄ってみようかなって」
「そうですか。では、パンフレットをどうぞっ!」
半ば無理やりに胸に押し付けられた冊子。
とはいえ、迷惑そうな顔も出来ないから、苦笑いをした時だった。
「それ、三縞校の男子さん専用
コソコソと小さい声で何かを伝えて、いい笑顔を作ってお辞儀する。それだけ言い残して、ささっと別の入場者の方へと駆けていった。
(なんだぁ? 士官学生専用のパンフって……)
「こ、これはっ!」
びっくりである!
開いたパンフレットには何年何組で、どんな催しが行われるのかが書いてあった。
ここまではいい。
「ご、合コン……窓口っ……だとぅっ!?」
問題はここだ。
それぞれの出し物欄の脇に、在籍する生徒の中で、「合コンしたいなら連絡ください」とばかりに、窓口となるクラス代表生の名前が記載されていた。
(『連絡先の詳細は、実際にお会いしたときにお伝えします。待ってます♡』……だと? なるほど、悪くないじゃないかぁっ!)
か、勘違いしないでほしい。
俺が悪くないといったのは、こうして男を釣るような工夫をすることで、多くの来場者を催しものに来てもらいたいという意識の高さを賞賛しただけだ。
別に、魔装士官候補生専用Ver.のパンフレットだけにその記載をするところに、三縞校の男子生徒との出会いを本気で求めているということが分かって、気持ちが高ぶったわけじゃないんだから!
「へぇ、三縞校……というか、魔装士官って人気なのか。まぁ、異世界関連は七、八年前から問題が生じたっていうし。ますます伸びる仕事なのかもしれないなぁ。って、ん?」
『さぁ、おとなしく緊急治療室についてきてもらいますよ。処置が終わった後、警察に引き取ってもらいます』
『は、放せやコラッ! 俺に手出してただで済むと思ってんのかテメェ!』
(……どうやら、ただ楽しいだけのイベントでもなさそうだね。どうも)
出会いを求めて男たちが殺到する。
ナンパなんて狩りのような一面もあるだろうから。気の強そうな奴ら、いわゆるヤンキーみたいなのも集まっていた。
(なるほど、警備ってこういうことだったのか)
自分の力を固辞したい。威勢のいい奴らなら、ちょっと荒いことだってするかもしれない。
そして無理やり望む結果を手に入れて、実績としたい。
そんな奴らがいたとして、快く思わない看護学生もいる。
トラブルになる。問題になったら、もしくは問題になる前に駆け付けるのが……
(まぁ、適任だ。戦闘訓練は毎日のように重ねてるんだからな。俺たちも)
お隣、魔装士官学院三縞校というわけだ。
『仲間が黙ってねぇぞ!』
『そうですか? お仲間は、このように言ってますが、そちらの皆さんはどうします?』
『お、おい、テメェら、何ただ見てんだよ!』
現に、
『来るなら構いませんが。こちらも応援を呼ぶまでです』
(ハッハハ~、よくやる)
ヤンキーには数人の仲間がいたみたいだが、全員かたずをのんで、立っているだけだった。
(かるぅく制圧したんだろうな。心に余裕が見える)
『では、これで……』
腕を極めているウチの訓練生なんて、公の場だから、言葉遣いを真摯なものとしていたが、俺には分かった。
ヤンキーを叩きのめしたことに、ちょっと快楽覚えてる。
言い残して、ヤンキーを連れていくウチの訓練生。
怒り狂いながら抵抗するヤンキーなんて、怖いどころかちょっと惨めだった。お仲間のヤンキーたちは、誰一人として動かない。動けないから。
『て、てめえら待てよ。お、おいどこ行くんだよ! 仲間だろっ!』
それどころか、実に恥ずかしそうに看護学校正門を出て行った。
「ざまぁ~って、お……い」
ヤンキーの様をもう少し見ておきたくて、連行する場面をずっと見つめ続けていた。見つけてしまった。
「20分待ちって……」
たぶん、連行する訓練生が向かうのが、先ほど彼が口にした緊急治療室。
フルボッコにされたヤンキーを治療する場所。
20分待ちと書かれていて、その入り口には訓練生と、ヤンキーによる長蛇の列が出来ていた。
「アミューズメントパークの乗り物の列じゃあるまいし」
驚いたのもつかの間。集まる。どんどん集まる。
色んなところから、暴れる不良を連行する訓練生が、緊急治療室にやってきた。
「ヤンキーホイホイかよっ!」
思わず突っ込んでしまった俺は、悪くない……はず?
「どうりで会場内に警官待機所があるわけだ」
会場に入るなり、実は先ほどから見つけていた警官待機所。
看護学校の文化祭にしては、そんなものが設営されているのはおかしいと思っていた。
(いや、でも待てよ? あんなにヤンキーホイホイになってるのに、パトカーのサイレンは聞いていない。おかしい。三縞校は近いから、警備の補充をすぐ呼べるとしても、待機所の警察官の人数じゃどうやって……)
なんというか、俺もまだ会場に入ったばかりだぜ? なのに十分もしないうちに、いろいろ圧倒されていた。
(意味わかんねぇ。警官待機所の隣に、なんだって自衛隊員募集の臨時窓口が立ってるんだ?)
「おい、色々本格的に、よくわかんなくなってきたぞエメロード」
キャバ嬢学園祭と聞いた。実際は合コンナンパ学園祭に等しかった。
で、看護学校に見合わぬヤンキー捕り物劇が散見され、しかし最終的に引き取るはずの警察官が待機しているはずの場所は、人数が少なすぎる。
おまけに自衛隊員募集窓口。
足りない頭では理解が追い付かなくて、思わず空に向かって、ここにはいないエメロードに聞いてしまった。
「まぁいいか。とりあえず、リィンのクラスに行ってみようかぁ?」
とはいえ、いつまでもここに立っているわけには行かない。
一応これでも文化祭の準備のために外出した身であって、この後も予定はあった。
時間を無駄にするわけにもいかないから。気を取り直し、リィンが在籍しているであろう教室に向かって、一歩踏み出した。
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