招かれざる者 魔装士官訓練生として

第26話 魔装士官学院。生徒会長と三年三組と山本小隊。俺は数に入れるなっ!

『慌てないで! 慌てないでくださいっ! 落ち着いて指示に従ってください!』


 理想はあくまでも理想だってやつ。

 あの、どこぞのあんちゃんの一声に、楽しい夏のひと時は一瞬で混迷模様に様変わりした。


「しょうがねぇ。滅多にねぇ。この世と別次元世界との扉が開き、脅威が転召するんだ。祭りの日にか。招かれざる者アンインバイテッドたぁよく言ったもの!」


 祭りのスタッフは基本的に青年会議所メンバーやら、三縞市商店の働き手であり、パンピーであり。

 当然アンインバイテッドへの耐性があるはずがない。


 ゆ~え~に~、逃げ惑う来場者に向かって声を上げてるのは、夏季期間中、学院に残った三縞校の生徒たち。


 さっすがぁ~。

 三組みたいに依頼を受けたわけじゃなく、ただ遊びに来ただけの一来場者だったはずなのに、こういう緊急事態ではきっちりと役目を果たそうと動いていた。


(二年はまだいい。一年生どもなんて、今年入学したばかりだろうが。怖いだろうにそれでも務めを果たそうってか?)


 よく出来てるぅぅぅ(巻き舌)! ていうか、俺なんかよりもよっぽど心が強いね。


「シャリエール」

「ハイ、一徹様」

「刀坂から。お前にだ」


 とはいえ俺も、なぁんでこぉんなに落ち着いてるわけ?

 記憶なくして目が覚めたら魔装士官学院に入ることになっていて、で、いま起きている現実が、あまりに非現実的にしか目に映っていないから?


 お前、あれだぜ? 

 拳銃なんかじゃ、なまなか通じる相手じゃないらしいの。アンインバイテッド。

 じゃああれじゃん。もう無理ぽ、オワタって奴じゃん。


「……わかりました。皆さんも決して無理をしないこと。夏季期間中学院に残って、今日会場に来場している他クラスや下級生とも連携をとり、生徒会長と貴方でこの場を指揮してください。私は遊撃に回ります」


 ちょ、もちっと真剣になった方がいいよ俺。

 あのシャリエールが、この状況と、俺が繋いだ刀坂からの連絡に、ガチで隙の無い表情を見せてるくらいなんだから。


「一徹様? クラスそれぞれの配置が決まりました」

「それで?」

「蓮静院小隊が境海虚穴ホールに向かいます。アンインバイテッド出現分を蓮静院君が押し戻し、鬼柳君が境海虚穴ホールの修復を」

「《王子》と《ショタ》班な?」


 話はまとまって。インカムのマイクに声が入らない様、シャリエールは手で包み込んで声を掛けてきた。


「鉄小隊は殿しんがり境海虚穴ホールに集中する蓮静院小隊の背中を守るとともに、避難する観客の最後尾を守護」

「妥当だな。逃げ遅れにアンインバイテッドが襲い掛からねぇとも限らない。一番槍も殿も臆することなく務める。さっすがうちの《主人公》はかっくいい! で、サポートを《ヒロイン》の弓で……なぁ? もう、ゲームじゃん」


 組み立ってきた。

 敵の侵入経路を一隊が潰し、その背後を守るもう一隊が、合わせて逃げ遅れの者たちを守護する。


「さぁて、残りの二隊は?」

「猫観小隊はそこから避難場所までの経路の先導、および道中アンインバイテッド襲撃に対する護衛」

「体力馬鹿の《縁の下の力持ち》と機動力に優れた《猫》。バランスがいい! んじゃあラスト、《政治家》小隊が……」

「避難場所の守護者になります。壬生朗君はショットガン、禍津さんは呪術杖と遠距離攻撃もできますし、接近を許さず、なおかつ、禍津さんは応急処置の知識もありますから……」

「ハッ! 持って来いってか! 《委員長》と《政治家》班も含め、この策を瞬時に《主人公》は練り上げちゃうかよ!」


 こればかりはやっぱり、俺たちが編入する前、彼らが一年生の頃から付き合いがあるからできることだろうな。やっぱ。

 

(ほんと、俺が女の子だったら《主人公》にホレちゃってゾッコンだ。んでもって……)


「付き合いがまだまだ浅いからこそ、有効な運用方法が、俺たちに関しては思いつかなかった……か? アルシオーネ!」

「んあっ!?」

「猫観小隊の援護に回れ。お前との戦闘で、隊員が消耗している状態だ。お前の助力はありがたいだろうよ!」

「ばっ! 俺に師匠から離れろって……」

「暴れまわってこい! でもってナルナイッ!」

「い、嫌です兄さま!」

「お前は蓮静院小隊に! 普段えっらそうな王子様に、山本小隊が貸しを作る! アイツもお前との戦闘でボッロボロなんだろ(カッコワロス)!」

「兄さま!」

「……普段ならアイツら小隊に、二年や一年生もいるだろうが、この祭りではその限りじゃないと思うのよ。力を貸してやってくれ!」

「……いつもそうやって、周りばかりを心配して……」


 だから、俺たちに限っては、俺たちだけでメイクデジションしなきゃならない。

 カッコいい横文字を使ってみたが、ただの方向性決めだ。


 だから、アルシオーネとナルナイに願って。それは……


「……君は、私たちに心配を掛けさせることになる。埋め合わせは、期待していいんだろうね」


 トリスクトさんについても同じだった。


「一年生のサポート先を聞くあたり、私はさしずめ鉄小隊かな?」

「あぁ、クラスで最強の小隊だからだ。山本小隊最強の君が一番似合う」

「私の立つべき場所は、君の隣が一番ふさわしいと自負している……が、あい分かった!」


 後輩二人は納得が今も行っていないみたいだが、やっぱトリスクトさんは一味違うっていうか。この状態でも落ち着きようが半端ない。


(頼もしくってしょうがない)


「一徹様?」

「俺も遊撃に回る。だが……」

「別行動ですね?」


 ハハ、これだよこれ。シャリエールこれ!


 ったく、なんだよ。

 普段のクネクネした魅惑的なお姉さんもいいが、取っ払ったいま、トリスクトさんとタメを張るくらいカッコいいぜ?


「三組全員が祭りに揃っている。本作戦の主軸はうちのクラスだ。来場してる他の訓練生も、それを前提に動くから、避難経路などの誘導で一つ大きな流れはできるはず。だが……」

「漏れがないとも限りません。まったく別の方面へ逃げる人だって……」

「それらをカバーして回る! 取り残された客の保護なども含めてだ!」


 ……なんとも情けない話。


 俺は、彼女たちとは比較にならない程に弱いことを知っている。

 だからこそ出来ることと言えば、俺に気を使うことなく、存分に力を発揮してもらうことだけ。


「んじゃ、全員無理はするな? 他の訓練生来場者だって会場に散らばってる。協力者がいないわけじゃないんだ。協力して、安全に、効率的に対応してくれ! やるぞっ! 山本小隊……」


 それが、俺なりのクラス皆や、世話になっている三縞市への貢献の仕方。


さんっ!」

 

 ぜっ! 全然悔しくなんてないんだからね! みんなの足を引っ張るより、よっぽどいいんだから。


 一声に合わせて、瞬間移動したんじゃね? くらいの速さで姿を消していく彼女たちを見て、俺は、必死に言い訳を心の中に叫んでいた。


 その時だった。


〘慌てないでくださいっ! 私たち三縞校ですでに避難所を確保しました! 誘導員の指示に従ってください!〙

「おいおい、コイツは……」

〘生徒会長から会場内の全訓練生に通達。三年三組を作戦の主軸とします。不慮の事態ですが訓練を忘れず、迅速かつ柔軟に対応してください。一年生は避難員に同行を。二、三年生は、アンインバイテッドへの牽制に当たってください!〙

「祭りに来ているのかよ! 《非合法ロリ生徒会長》も!」


 会場内アナウンスで聞こえたのは、あのフワッフワロリリの毅然とした声だった。 

 祭り運営委員会用のマイクで、避難員にアナウンスしながら訓練生に向けて指示を出していた。

 

 まるでこの場を統べる……


「いや、司令官に違いないか。生徒会長なんだから。あんなちっこくてキャワワも、こんな状況で戦うのかよ」


 あの、小動物が見上げた時の、可愛らしい笑顔を思い出す。


 でも、考えを改めた。


 彼女も、あんなナリをしながら、確かなる魔装士官訓練生だった。


「ハハッ! ク・ソ・が! あんな命の危険と無縁そうな可愛い子が、使命と、こんな真剣に向き合って。なかなかどうして、俺なんかよりも全然心が強すぎんだよ!」


 打ちのめされた気にもなってしまう。


 これでは、怖いからと言って、逃げることは出来ないではないか……そんな気は、さらっさらないが。


 司令官だから現場で戦おうとしていないのか。それとも戦う力がないから司令官の立場にあるのか。

 そんなことはいい。


 あんなロリリも、彼女の戦い方で戦っている。それで、十分だった。


「ハッ! でもいいね良いね。勇気もらった気分だ」


 だったら、俺も動かなきゃならない。

 俺には特殊能力はない。だからアンインバイテッドには現状届かない。


 別に構わない。

 ロリリが証明してくれたんだ。

 強さを誇る奴ら以外にも、使命とか、戦いに向き合うものがいるってことを。


 やってやるさ。

 だったら俺だって、戦えないなら戦えないなりに、戦い方はあるんだよ。



【壬生狼小隊、禍津から皆さんへ。たった今、牛馬頭君たちと合流しました】

【こちら牛馬頭。来場者大部分の避難誘導が完了】

【ホールから溢れたアンインバイテッドはかなりの数だったと僕も聞いている。犠牲者は出ず、怪我人増加のリスクもよくここまで抑えてくれたな!】

【ん、正直グレンバルドが超優秀。援護がなければかなり厳しかった。感謝】


(うっし、状況はいい方向に進んでいる)


 《縁の下の力持ち》や《政治家》から、安堵した声を聴いたこと、そして、戦闘では一切の甘えも妥協も見せない《猫》が、その言葉を口にしたところに、俺は、自分の采配が間違っていなかったことに安堵した。


【おう、俺を讃えろ! 崇め奉れ! オークにかかりゃああんな乱戦、朝飯前なんだよ】

【オーク? どこかで……確か別次元に生きる、俺たち牛頭種、馬頭種に近い存在だったような……】


 アルシオーネの奴、調子に乗りやがって。

 《縁の下の力持ち》よぉ、お前、達観して大人びているのは確かな魅力なんだが、生意気なソイツに怒ってもいいんだからな?


【んじゃ、俺はナルナイのところに行くぜ? アンタら四人に、他の訓練生も集結してきてる。避難所の防衛は十分だろ?】


 が、悪くない判断だアルシオーネ。

 《委員長》に《政治家》、《縁の下の力持ち》と《猫》のメンツ。それなら、遠近両面からアンインバイテッドの接近に備えられる。


【フン。それには及ばん。今年入った一年にここまで助けられるのはしゃくだがな。一匹も漏らさず、ホールから現れるアンインバイテッドを押し込められている!】

【す、すごいねストレーナスさん。っていうか……なんか、口から怪光線放たれてない? 呪術杖もないのに、光弾術が放てるなんて。もしかして……】

【それを言うな鬼柳。俺たち悠久なる血を受け継いだ退魔師が、妖魔に助けられているということだぞ?】

【ま、でもそれが仲間ならこれほど心強いことはないじゃない。牛馬頭や灯理だって……】

【うちのクラスならではの、わかることだな】


 で、《王子》小隊も何とかなっているらしい。


 ホールからアンインバイテッドは溢れてくる。この報告に間違いがなければ、出現の元はもう少しで封印できるだろう。


(あとは《ショタ》によるホールの修復を待つばかり……か)


【妖魔なんて呼び方、やめていただけないでしょうか。私はデモニア。デモニールと対をなす誇り高き魔族の一種なのですから。とは言っても、こちらの器は人間族ですけど】

【デ、デモニアだと? 器? 何を言って……なぜ俺は、その名称を聞いたことがない】

【魔族? 今、魔族って言ったよね? 妖魔と……違う? デモニア……デーモン?】


 おいおい、なんだよ魔族って。俺も初耳なんですがっ! 

 っていうかデモニアって何ぃ!? 


 アルシオーネもオークってお前。そんなオッパ……ゴホンゲフン! 

 プルンプルンしてるものって、俺の勝手な思い込みじゃあ、オークは、ブランブランさせてるんですがっ!


【たまらないわね、鉄】

【あぁ、たまらないな。あらためて思い知らされる。トリスクト、お前はこれまで、対人訓練で本気の半分も出していなかったろう】

【手を抜いていなかったわけじゃない。が、それは君もなんじゃないか刀坂。普段から本領を発揮していたなら、私も実力の一端を発揮していた】

【何よ、しかも鉄が本気を隠していたことにも気付いているし】


 そして……《王子》小隊が、完全にホールからのアンインバイテッド新出を防げているのなら、あとは討滅すべきは、こちらにすでに降り立ってしまった残り……というわけだ。

 それで局面は締まるはず。


 少し《主人公》の声に戸惑いはあるものの、トリスクトさんには焦りがない。

 それに、《ヒロイン》が小言を言うくらいに、討伐メンバーにも余裕が……


【あぁもうっ! ちゃんと捕まえておきなさいよ山本! ルーリィと鉄がタッグを組んだら、割と本気で私の出る幕がないじゃない!? これ以上、私のライバルはいらないの!?】


 なんか知んないけど、よくわからない角度から怒られたぁぁぁぁぁ!

 し・か・も・《ヒロイン》お分かり? この通信、クラス全員どころか、緊急対応してくれてる他の訓練生と、電波チャンネル数同じなので、全員が聞けちゃってるんですけどぉぉぉ!?


【ライバルってどういうことだ? トリスクトは槍。弓を得物としてる灯理じゃ……】

【もう、この馬鹿! 朴念仁! 鈍感!】

【こ、こんな状況で? 本当、大物だよね二人とも】

【フン、こいつらと、三年同じクラスだというから笑いたくもなる】

【前から思っていたが、君たちは、本当に緊張感というものがないな! 気を引き締め給えよ!】

【良い巡り合わせだったということだろう】

【甘いね。余ったるい。山本とルーリィを見てるみたい】

【フフ、ごちそうさまです】

「ハハ……ハハハ……」


 インカムから入ってくる、クラスメートたちのやり取りに思わず笑ってしまう。


 お前たち本当この状況でふざけられるとか、ゴイスーかよ。


「ほんっとーにさ、気付いてあげて~《主人公》。君は《ヒロイン》からゾッコンなのよ~? 君が《ヒロイン》とのメイクデジション決めないと、《猫》も《委員長》、想うか退くか、決められないじゃない」

 

 マジで、《主人公》と《ヒロイン》たちだけじゃない。

 うちのクラス、全員が……大物。


 いやぁ、みんなとチャンネル設定されてる俺も、思わずそんなことが言えちゃったよ。


【……山本君? 反応がありませんが応答してください】


 そう、言えちゃうのよ。俺のつぶやきが通信に乗ることはない。

 だって俺のマイク、壊れているから。


【や、山本君!? 山……一徹様!?】


 なのにちゃーんと、インカムだけは生きてるのよねぇ。

 だからすっげぇ、何処かで活躍してるであろうシャリエールの必死な呼びかけは聞こえるし。

 

 んでもってね? 俺はぁ……


「一人だけ絶体絶命! FUUUUU⤴!? FUUUUUUUUUUU⤴!?(上げ調子)」


 全力疾走風の如し!?


 逃げ遅れて尻もちをついていたおばあちゃんを……お姫様抱っこ! 


 で、安全なところまで運ぶ途中で、アンインバイテッドに見つかり、追走を食らっている件について……


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