第20話

ばしゃっ。お湯を掬い顔を洗う。冷え切った身体がじんわりと覚醒していく。


「お疲れ。何だかんだ言って結構滑れるようになったじゃん」


ザバザバとタケ坊とワタルが移動してくる。まだ15時前というのもあって立ち寄った日帰り温泉も空いていた。


「あれで滑れるって言って良いのかな」


「コースを降りてこられたんだから上出来でしょ」


タケ坊がポジティブな感想でまとめるも、正直なところちょっと微妙。半分以上は、ゲレンデの粗大ごみ状態だった気がする。サイドスリップと木の葉を教わったあと、残りは身体で覚えろというしのさんの指導方針?に従ってゲレンデに放流。セキと励ましあい転がりながらお互いに毎回相手の成功したターン数を数える。最後は逆エッジを喰らっての停止。そんなことを延々と繰り返しながら何とか降りた(その間に3人は5本くらいリフトを回していた)。もっとも、追い越す前には必ず立ち寄ってワンポイントアドバイスをくれたのはありがたかった。


「最高で8.5ターン。もう最後のターンは捨て身」


「セキはどうだった?」


「セキも結構滑れてたでしょ?僕がデビューした時より全然うまかったよ」


「それは頼もしいな。ワタルは滑れるようになるまで早かったし」


「ちょっと掴めたって言ってた。ワタルのアドバイスで急に動きが変わったよ」


「もっと腕を広げろって言っただけなんだけど」


「そこからターンが続くようになって、最高記録の11.5ターンも出たし」


「つか、そのテン5ってなんだ?」


「テン5は山まわりを抜け切れずにコケた時のカウント。セキが数えるのとじぶんのカウントで1合わないのが続いて、結局テン5になった」


「今日はセキ・ヨシペアがいちばん楽しんだね~」


笑いながらワタルが言うけど、冗談じゃなくて2人ともマジだから。あと、いちばん楽しんだのはこの瞬間のワタルだと思う(というくらいの笑顔っぷり)。


「セキと篠原は?」


「まだサウナチャレンジじゃない?」


「セキは着いた時からテンション上げてたけど、篠原も好きなんだよ。付き合ってると完全にのぼせる」


視線も向けるとまだサウナのドアが開く様子はなかった。


「それで、初ボードの感想は?」


「面白いね。斜度がなくても楽しかった」


「それじゃ今日はこのあと板買いに行くか!」


(タケ坊の振りにワタルの目がちょっと楽しげになってる)


「いや、次からはスキーやらせてください。ほんとマジで」


「来週はセキも来られないしな。次回はいいんじゃない?」


タケ坊の弄りを聞いたワタルが楽しそうに笑う。サウナのドアの方を見るもチャレンジはまだ続くようだった。












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あと1点に届くまで。 武藤憲二 @lumevangis

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