第70話 不登校を選択した 坂本(仮名)くんのこと

部活が不適応で、不登校を選択した友達がいました。

坂本(仮名)くんです。


平成◯年。△市立△中学校。

部活は生徒全員が強制加入の決まりでした。

なんだけど、存在する部活は、ごく限られていました。

文化部は 吹奏楽部と 美術部だけ。あとは みんな運動部。


限りある部活の、どれかに必ず加入となると、『合わない』人たちは、相当苦しみます。

なぜなら、学校の部活は、『教師も生徒も、自分が興味関心ある活動を、共に楽しむ』ことが、本来の目的だからです。文科省も、部活を強制していません。


新入生は、入学式の翌日に、部活の説明会がありました。

はじめの1ヶ月は仮入部。

この期間、新入生は、何度でも転部できます。1ヶ月を過ぎたところで、最後に参加していた部活に 正式入部となります。


坂本くんは悩みました。

坂本くんは、いろんなスポーツができる人です。小学生のスポーツ大会では、優秀な成績を残していました。

だけど、何よりも好きなことは、小説を書くこと。

もちろん読書も大好き。小学生のころに、夏目漱石の 『こころ』なんかも読んでいて、その感想文は、優秀賞に選ばれています。

将来は 小説家になりたい、夢を持っていました。


文芸部が あったなら、どんなに嬉しかったでしょう。

でも△中学校に、文芸部は ありません。


悩む彼に、両親が アドバイスをくれました。

『からだが丈夫な大人になるために、運動部に入り、体力づくりを目標にしてはどうかな?

小説は、家で書きなさい』

坂本くんも、そうしよう。と、納得しました。


最初の仮入部は、バレーボール部にしました。

『次に サッカー、次にテニス……いろんな球技を楽しんでから、最後に、陸上部に正式入部しよう。

陸上部なら、いろんな種目があるから、いろいろ楽しめるだろうから』

と。


しかし、坂本くんが考えた仮入部期間の計画は、みごとに失敗でした。


最初に仮入部した バレーボール部で、彼は、実力を発揮してしまったみたい。

1週間過ぎて、次に計画していた部活へ行こうとした時、

顧問の 能筋(仮名)先生に止められました。

『まだ 居なさい。正式入部までには、まだ時間があるのだから、バレーボールを楽しみなさい』


△中学校は、運動部が強い学校だったのです。

大会で勝ち上がれば、顧問のほまれ。

学校内では、強い運動部顧問は、発言力が あるようで、

とても威張っていました(私たち生徒には、そのように見えました)。


活躍した生徒は、勉強ができなくても、スポーツ推薦で進学できます。

成績優秀な人が 落ちた高校に、授業中に寝てた人や、授業ボイコットして 校内を彷徨うろついてた人が、なぜか合格する。

そんなの見てたら、誰だって気がつきます。


運動部活を強くすることに、情熱を燃やす先生方が、集まっていました。

ところが世の中は、子どもの数が減少傾向。

団体戦のスポーツは、部員数を確保するため、先生方も四苦八苦していたのでは ないでしょうか。


とにかく、部員数が 少なかったバレーボール部です。

能筋は、坂本くんを 手放したくなかったのだと思います。


とうとう、坂本くんは、バレーボール部で1ヶ月を 使いきってしまいました。

能筋は、

『ご両親が おっしゃるように、体力づくりを目的にすればよい。小説は 自宅で書けばよい』

と。

坂本くんも、能筋を信じて、バレーボール部に正式入部しました。


しかし、甘かったのでした。


仮入部期間、新入生は、午後5時には下校。

先輩たちより早く帰ることができたため、その後の 様子を 知りません。

正式入部して、はじめて 部活の厳しさを知るのでした。


坂本くんは、小説を書く時間など、なくなりました。

ゴールデンウィークの大会から、バレーボール部員は、全員が選手です。

しかも、能筋は、強いバレーボール部を育てる顧問として、有名な先生。これは、バレーボールの関係者しか わからないことでした。


きつい練習。きつい練習。きつい練習。土日も祝日も 休み無し。

勝ち上がり、県大会へ、ブロック大会へ、全国へ。能筋の目標は、ただ、これだけ。

体力づくり? その域を越えていました。


坂本くんは、どんどん 心を病んでいきました。


もちろん、

能筋に鍛えられ、勉強が できなくても、バレーボール部活推薦で、良い高校に進学した人も いたわけで。

その人たちは、能筋に感謝しています。

なので、このような日記でも、コトの善悪を 論じることは、できません。

(´・ω・`) 私的には、かなり悔しいですけど。


・・・


坂本くんは、とても後悔しました。

『最初から、陸上部にすべきだったなあ。

手抜きして、戦力外になればよかった』


なぜなら、子ども数が減少傾向の時代で、部員数確保に四苦八苦の時代でも、

陸上部だけは部員が多すぎて、

戦力外は、居ると かえって邪魔なようで、適当にサボることができたからです。


・・・


それでも、まじめな坂本くんは、どうにか 1年。耐え抜きました。

はじめは、書きたい物語が 心に 溢れてくるのに、書く時間がないことを 辛く感じていました。

赤ちゃんを産んだ 母親は、赤ちゃんと離れて仕事をしてるとき、お乳が溢れて 辛いそうです。

坂本くん、いわく。

『ぼくも、同じ気持ちを 体験していたと思う』


そして1年後。クラスが変わり、坂本くんは、私と同じクラスになります。

担任の先生は、美術の金沢先生。美術部の顧問。私は美術部だったから、私の顧問。

大人の体裁よりも、生徒に寄り添う先生。

先生方の中では、

『指導力に欠ける。生徒の人気取りばかりしている』

などとバカにされ、悪く言われていましたが、

私たちは慕っていました。

なぜなら、悪いことをしたら、それはもう、厳しく叱る先生でもあることを、知っていましたからね。


坂本くんはダメもとで、『美術部に転部したいのです』と、担任の金沢先生に相談しました。

金沢先生は、叱りませんでした。坂本くんの思いは、悪いことでは なかったからです。

『精一杯 努力しましょう』と。


坂本くんと、両親と、金沢先生が 話し合い、転部願いを作成しました。


でも、結果は……

坂本くんと、金沢先生は、並んで正座させられ、

能筋に こんこんと説教されて おしまい。

能筋は、学年主任。学年の先生方の リーダーでもありました。

先生方の中には、ほかに誰も、味方がいませんでした。


その後、坂本くんは、両親と相談して、不登校になりました。

ただし、約束した家族の決まりは、厳しいものでした。

学校に通っている人たちに、勉強で遅れないこと。朝の起床から、時間にルーズにならないこと。体力づくりを、なまけないこと。など。

これらの約束は、学校の時間や決まりに縛られることにより、私たちは できていたことです。

ですから、学校に通うより、厳しい課題だったかもしれないのです。


前に、別サイトで この話を日記に書いた時、

『部活をサボって、学校だけは行くべきだったのでは?』

との ご意見を いただきました。

正しいと思います。


でも、立ち向かう相手は、学年主任。

強い運動部の顧問が、なぜか 強い権力を持っている世界。

能筋や、能筋寄りの 先生方の、睨みに 耐えながら、

部活だけをサボり、平常心で登校できるでしょうか。


坂本くんの お父さんは、言いました。

『おまえの人生は、これからが長いんだ。

長い人生。人間、逃げるが勝ち、という時もあるさ』


心に溢れてくる物語を、原稿用紙に書きたい。

溢れてくる お乳を、赤ちゃんに 飲ませてあげたい。

同じだったと思います。


・・・


あの頃、あの地方では、

不登校の生徒がいると、クラス担任の指導力がないせいだと、先生方の中で バッシングされる風潮だったようです。

金沢先生、いじめられてるみたい……。

そう思う場面を、たびたび見かけました。


でも、先生は

『アタシは大丈夫だから、あんたたちが辛くならないでね。

ほんとにイヤになったらさ、アタシは転職するだけのこと。

それよりか、あんたたちは、どんな大人になりたいか、よく考えて生きて。

良い世の中にしたいね』


・・・


最終学年の3年生。

坂本くんの両親の、強い要望(校長先生に直談判したそうです)により、

坂本くんは、金沢先生のクラスになりました。


不登校生徒は クラス担任のせい?

違うんだよ。

それを わかった先生が、あの学校に何人いたかな。


そして、代わり映えのない1年が過ぎて、私たちは卒業しました。

坂本くんは、かなりレベルの低い高校へ行きました。覚悟の上です。納得してました。

その後、夢にみた文芸部に入りました。


金沢先生は、私たちの卒業を見届け、よその学校へ飛ばされました。

その数年後、さらりと教師を辞めました。


・・・


私ね、坂本くんの小説を、読ませてもらっていたんだ。

同じクラスの時は、学校で配布されたプリントを 届けて いましたから。


わくわくした物語。

でも、ストーリーは絶対に、誰にも秘密。

あの世界は、坂本くんが産んだ、坂本くんの、大切な子どもだから。


・・・


この日記は、あらためて、カクヨムの作品として 書くかもしれません。

(^_^ゞ その時は、もしよかったら、読んでほしいです。

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