第20話 幸せ。だけど……

池袋駅の東口を出て、俺とシロは某大型書店へと向かう。

シロは銀色に近い金髪に超絶可愛らしい顔、水色のワンピースとかなり目立つ。

その分自然と視線を集めてしまい、見られるたびにシロはびくびくしている。


「なあシロ、おまえも文字読めるように勉強でもするか?」

「えっ?」


「いやほら、読めないとこれから困ることもあるだろうしさ」

「は、はい! 文字、覚えたいです!!」


先ほどまでのびくびくした様子から一転、キラキラした顔で俺の方を見る。


「よし、じゃあ平仮名練習するドリルでも買って帰るか」



本屋に着き、まずは子ども向けのドリルが売っているコーナーへ向かう。


「これとかこれが平仮名のドリルだな。シロ、どれがいいとか何かあるか?」

「え、ええと……この赤いのがかわいいと思います」


シロが選んだのは、赤い背景に白で「ひらがな」と書かれ、可愛らしいトラの絵が描かれたものだった。


「へえ、書いて消して繰り返し使えるのか。じゃ、これにするか」

「は、はいっ! ありがとうございます!」


嬉しそうなシロを見ていると、こちらまで嬉しくなってくる。


「あと睡眠に関する本は……2階にありそうだな」


俺自身は特に不眠でもなく、基本的に割と雑に生きている人間なので、健康書のコーナーなんて来るのは初めてだ。


「へえ。睡眠の本ってこんな出てるのか……!」

「人間は、こんなに眠るための研究をしてるんですね。それだけ悩んでいる人が多いってことなんでしょうか」

「そうだな、不眠で悩んでる人って結構多いからな」


もしかしたら、ジュリオの本体……つまり現実世界でのジュリオは、不眠で悩んでいるのでは?


そもそもジュリオは、自分があんな世界を作り出して多くの人を苦しめている自覚があるのだろうか?

ジュリオにとって、ヘルム国はただの夢の中でしかない可能性もある。

もし、もしそうであれば、夢を夢だと自覚している分俺の方が有利な気がする。


「とりあえず、良さげな本を2~3冊買ってみよう」


平仮名ドリルと睡眠の本の会計を済ませ、本屋を出た。

シロは、袋に入れられたドリルを幸せそうに両手で抱えている。


「幸せです。こんな、こんなに幸せでいいのでしょうか……」


いつもの道のり、いつもの本屋も、シロがいるだけで特別な感じがする。

幸せなのは俺の方だよ、シロ。


「せっかくだし、どっかでお茶でもしていこうか」

「ふえ? お茶を……するんですか?」

「ああ、うん。カフェでも入ろうかって。おまえ甘いもの好きだろ?」

「だ、大好きですっ!」


以前アイスを買ってやった時、シロはとても幸せそうに食べていた。

ケーキとかワッフルとか喜ぶだろうな。いろいろと食べさせてやりたい。


カフェに入ると、冷やされた空気が火照った体を包む。


「いらっしゃいませ。ご注文がお決まりになりましたら、ボタンでお呼びください」


店員さんはメニューを手渡し、一礼して去っていった。


「シロ、好きなの頼んでいいぞ」

「……す、すごいです! こんな豪華なもの、本当に私なんかがいただいてよいのでしょうか」


散々悩んで、俺はアイスコーヒーとチーズケーキ、シロはオレンジジュースとフルーツのタルトを注文した。


「お待たせいたしました。アイスコーヒーとベイクドチーズケーキ、オレンジジュースと季節のフルーツタルトです」

「わあ……! こ、こんなの、もったいなくて食べられませんっ!」


素直に感動をあらわにするシロに、店員さんも思わず笑顔になっている。

「おいしいうちに召し上がってくださいね」


シロはフルーツタルトとオレンジジュースを思う存分満喫……していたかと思ったが、気がついたら泣いていた。


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