第18話 ただの大学生にできること

◇ ◇ ◇


自宅に戻り、特殊カードを取り出す。


「これを破れば、この夢の世界にシロが……」


……いやでも待てよ。

これを使ってシロを召喚したら、そのあとシロは現実世界には戻れるのだろうか?

このカードは、現実世界ではどうなっているのだろう?


「……というか、連れてきてどうするんだ?」


このヘルム国という夢の世界のこと。

ジュリオや奴隷たち、そしてシロのこと。


俺は改めて今の状況を整理してみることにした。


まず、ここヘルム国は恐らく俺の夢とジュリオ(仮)の夢の交差点のような場所で、俺がシロを購入したことで、何か深いつながりができてしまったと思われる。

そしてヘルム国は今深刻なエネルギー不足で、その原因は人間の睡眠時間の減少と質の低下だという。


それを解消するには、人間の睡眠の質を向上させるか、現実世界の人間をヘルム国の奴隷を契約させて人間を殺し、永遠の眠りに就かせて、元々その人が持っていた寿命を回収する必要がある。

そこで、たまたま無料で売り出されていたシロに引っかかった俺が狙われて今に至る。


現実に起こっているのだからどうしようもないが、あまりに非現実的な事態に、正直思考が追い付いていない。


だがこれだけであれば、俺がシロの面倒を見ればいい話だ。

しかしシロは奴隷商人ジュリオに妹を人質に取られており、妹を助けるためにジュリオの命令には逆らえない、という。


でも、シロの妹は恐らくもう生きてはいない。

たとえ生きていたとしても、ジュリオに売り飛ばされてしまっている可能性が高い。


……つまり。

「つまり、どうするのが正解なんだ……?」


俺はちょっと魔が差してしまっただけの、ただの大学生だ。

夢の中で俺TUEEEEキャラになれるとはいっても、それをどう活かせばいいのかも分からない。

ジュリオだって同じように特殊な力を使えるらしいし。


現実でジュリオに接触できれば、それが一番安全で手っ取り早い気がしているが、ジュリオの所在はおろか、正体も掴めていないままだ。

見つけたのは、1年前に更新が止まっているTwitterのアカウントのみ。


シロが妹を諦めてくれれば、話は早いんだけどな……。


俺にとって、ヘルム国の存亡がどうとか、そんなことはどうでもよかった。

だって所詮夢の世界だし。シロは可愛いし。

シロに帰る場所がないのなら、2人で一緒に暮らしていくのも悪くないと真剣に思っている。

まあ世間が許してくれればだけど!


……シロに、現実の世界で一緒に暮らす提案をしてみるか?


でも、シロの妹が殺されている確証はない。

もし、万が一生きていて、あのヘルム株式会社のどこかに監禁されていたら。

俺の提案は、その子を見殺しにすることになるのだ。


やっぱり、ジュリオの誘いに乗ってあの会社で働いてみるか?

関わっていく中で、もしかしたらジュリオの気持ちも変わるかもしれない。

そうすればもしかしたら、あの奴隷を当たり前に使役する世界観も……。


……よし! やるか!!


俺は、ジュリオの会社で働くことにした。

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