第17話
我が家のリビングは今、無駄にシリアスな空気になっていた。
その原因というのは、先ほどまで家先にいたあのイケメン。
俺の正面に座る璃子は、彼の話題になった途端にムスッと不機嫌な顔つきになり、その隣に座る梓はなにか思い詰めたかのように眉間に皺を寄せている。
気になるのはポツリと梓が漏らした「あれ?あの人って…」という言葉。
あの様子だと梓もあのイケメンと面識がある、或いは梓もあのイケメンを知っているのだろう。
だがそれを追求するのは後だ。
今は璃子から話を聞く。
「それじゃあ5月辺りから毎日校門の前で待ち伏せしてるってことか?」
「うん、何度も迷惑だって言ってるのに毎日毎日…」
苛立ったように目を釣り上げる璃子。
俺には全く縁のない話だが、モテる人は大変だ。
「でも、どうやって家の場所まで突き止めたんだ?まさか璃子が教えるとも考えづらいし」
「当然教えてないよ」
とすると、あのイケメンが勝手に後を付けて来たと考えるのが自然か。
もはやストーカーだな。
「それで璃子はあのイケメンと面識はあるのか?」
俺の質問にただ首を横の振る璃子。
面識がないということは、当然名前も知らないか。
ただ学校は制服からなんとなく分かった。
多分この辺りの市立中学だろう。
本来なら梓が通っているはずの学校だ。
「でも梓は知ってるっぽいよな?」
「…」
「おーい、梓?聞いてるか?」
「…え?な、なんでした?」
よほど思う事があったのか、思考に没頭していたらしい梓が驚いたように顔を上げた。
「だから璃子は知らないらしいけど、梓はあのイケメンに心当たりがあるんだよなって話だ」
「知らない…?そんなわけないですよ。だってあの時璃子も一緒にいたし」
あの時?
梓から璃子へ視線をスライドさせる。
璃子もまた小首を傾げ、俺と同じような反応を見せていた。
「ちょっと璃子?まだ1ヶ月も経ってないのにもう忘れたの?ほら、璃子が胡散臭いって言ってた」
そう言われて2、3度首を傾げた璃子だったが、ついに思い出したのか両手を叩いた。
「あ!そっか、思い出した!あの葉風って人とデートしてた男だ!」
「ちょっ、璃子!それは兄さんには内緒って言ったじゃない!」
梓は焦ったようにこちらを見る。
その顔には脂汗が見て取れた。
だが、残念ながら今の俺にはそんなことを気にしている暇なんてない。
それよりも今璃子はなんて言った?
葉風さんとデートしていたって言ったか?
少なくとも梓の反応から璃子の言っていることに間違いはない。
だとしたら、あのイケメンの正体って…。
「…兄さん?」
「ん?どうした梓」
「怒らないんですか?わたしたちが葉風さんに勝手に接触したこと」
そう言われて思い出す。
そういえば2人にちゃんと注意しとくのを忘れてた。
「別にそれについては葉風さんから聞いて知ってるけど、お前らあれから葉風さんに迷惑掛けたりしてないだろうな?」
「してません。神に誓って」
逆に怪しくなる言い方だったが、葉風さんから璃子や梓と会ったという話は聞かないし本当のことをなのだろう。
「で、問題はそのイケメンが葉風さんとデートしていたってという点だ。ちなみにそれは確かなんだよな?」
「はい、間違いないです」
「璃子も同じか?」
「うん、雰囲気とかは全然違ったけど間違いないと思う。それにあの時もどこかで見たことあるような気がしたし」
「なるほど、2人が2人してそう言うんなら間違いはないな…」
だとしたら、あのイケメンが葉風さんの彼氏である例の『金田くん』である可能性はかなり濃厚になったわけだ。
まあその辺は本人に直接聞くとして、問題はもし本当にあのイケメンが『金田くん』だったとして、どうして彼女のいる身で璃子にストーカー紛いのアプローチを掛けて来ているのか?
少なくとも葉風さんからは別れたという話は聞いていないし、それらしい雰囲気でもない。
つまり、『金田くん』の浮気である可能性が高い。
いや違う、順序が逆だ。
『金田くん』の璃子へのアプローチは葉風さんと付き合う前から始まっていた。
だから璃子へアプローチしながら葉風さんの告白を受けたことになる。
それはつまり葉風さんは『浮気された』のではなく『遊ばれている』ということじゃないのか?
……。
………。
いや、これはただの憶測だ。
もちろん璃子たちが見た男が『金田くん』と他人の空似だという可能性だって0ではない。
「とにかく明日ちゃんと確かめてみよう。あの男が何者なのか。なにが目的なのか」
「そうですね。このままではスッキリしませんし、なにより璃子がだいぶ迷惑を被っているみたいですし」
「ふん縛って吊るして火で炙るしかないね」
「いや、そこまでする気はないから」
璃子の物騒な発想に突っ込みを入れながら、俺は密かに可愛い妹のために気合を入れるのだった。
「で、お兄さん。話ってなんですか?」
イケメンが脚を組みながら尊大な態度で言う。
葉風さんから聞いていたイメージとは全然違うしやっぱり他人の空似か?
「まず最初にキミの名前を聞かせてもらっても構わないか?」
「それになんの意味があるんですか?」
璃子がいた時までは少なからず俺への敬意を払っていたように思えたが、璃子を家に帰してからというもの彼はずっとこのような態度を取り続けている。
言ってしまえば完全に舐められていた。
だからといって俺もここで引くつもりもない。
「俺から言わせてみればキミは妹に付き纏う不審者だ。そんなキミの素性を知ろうとする事のなにがおかしい?」
「不審者?どっちがですか。俺の方から言わせてみればアンタこそホントに璃子ちゃんの兄なのか怪しいところなんですけどね」
なるほど、向こうがは向こうで俺が本物かどうか疑っているわけか。
それも限りなく黒に近いレベルで。
「似てないのは仕方がない話だ。なにせ俺と璃子は兄妹でこそあれ血は一切繋がっていないわけだからな。いわゆる義理の妹ってところだ」
「義理の妹?はっ、吐くのならもっとマシな嘘を吐いた方がいいんじゃないですか?」
どうあっても信じないつもりはないようだ。
「まあ別に信じられないのなら信じてもらわなくたって一向に構いはしない。でも璃子は法律上も書面上も兄妹で間違いはないし、その事実が覆ることもない」
「…」
俺が全く動揺した様子を見せなかったことが功を奏したのか、それ以降の追撃は来なかった。
「さて話を戻すけど、実はキミの名前については凡その予想はついてるんだ。ただ、俺個人の感情としてはできれば違っていて欲しいものだけど、それでも敢えて確認させてもらう」
俺は一呼吸置いてからイケメンの目を見据えてその名前を告げた。
「
その瞬間イケメンの余裕の表情に一瞬の動揺が走る。
が、それをすぐに隠すと、先ほどと同じように余裕の笑みを貼り付ける。
「ストーカーというのならそちらの方でしょう?ただの1度、それも昨日の夕方に会ったばかりの人間の名前を言い当てるとか気味が悪いですよ?」
「それじゃあやっぱり____」
「えぇ、お兄さんの予想通り俺が金田響紀です」
それがなにか?
と言わんばかりの表情。
俺は沸々と沸き上がりそうになるモノを抑えながら続ける。
「それがキミの本性って事でいいのか?」
「本性ってまるで別の俺を知ってるみたいな言い方をしますね」
「昨日見たときの印象とは全く別人だったからな」
「あー、そういうことですか」
俺の言葉に納得したように頷く金田くん。
一応の心当たりはある様子。
「誰だって表の顔と裏の顔ってあるものじゃないですか?お兄さんの言っているのは言わば俺の表の顔ってやつですよ」
「表の顔…ね」
「お兄さんにだってあるでしょう?人に見せていない裏の面くらい」
たしかに誰にだって人に見せていない側面はあるだろう。
「…なるほど。ところで話は変わるけどキミ、璃子に付き合って欲しいって言ってたよね?どうしてそこまで璃子に拘る?キミくらいのイケメンなら他にいくらでも選び放題だろ?」
「もちろんです。これでも俺、お兄さんと違ってモテるので彼女も十数人いますから。っと璃子ちゃんに拘る理由でしたよね。別に理由なんてないんですよ。可愛いから俺のセフレにしてあげようかと思ったんです。でもあの子全然俺に靡かないし、最近はぶっちゃけゲーム感覚でいましたよ。俺に靡かない女を如何に落とすかのね」
人の可愛い妹捕まえてセフレにしてやろうだなんてよくその兄の前で平気な顔して言えるものだ。
俺は再び昂りそうな感情を抑えこみ、極めて冷静を装う。
「…まるで恋愛そのものには興味のなさそうな言い方だな。他の付き合ってる十数人のことも同じように思ってるのか?」
「えぇ、所詮はただの『遊び』の範囲ですよ。そこに俺の恋愛感情なんて一切関与はしていません」
「それでも相手は本気だ」
「それは向こうの都合です。そんなの俺が知ったことではありませんし、分かろうとすら思いません」
割と最低な事を顔色ひとつ変えずに涼しげに言う金田くん。
「キミのことはよく分かった。金田響紀という男がどういう人間なのかはよく分かった。その上で言うけど、2度と璃子に近付かないでもらえないか?」
「それは約束できませんね。だってまだ璃子ちゃんを落とせてませんから」
「拒否権がキミにあると思ってるのか?」
「それを言うのなら、俺と璃子ちゃん2人の問題にただの兄でしかないあなたが口を挟む権利があるとでも?」
プチンと来そうになるのを必死に我慢して、今にも怒鳴りだしそうな俺たちの話を偶々聞いている後ろの席の客と金田くんを睨み付ける偶々隣を通りがかった店員へ視線を向けて落ち着かせる。
ここでキレたら向こうの思うツボなのだ。
「たしかに口出しする権利は無いな。でもそれは俺と璃子が他人だったのならの話だ。璃子は俺の大事な妹だ、そんな大事な妹が自己中野郎にストーカー被害に遭ってたら口出しする権利はある」
「そうですか、ですが俺にお兄さんの言うことを聞く義務はありません。いくらお兄さんになにを言われようと引き続き璃子ちゃんの攻略は進めさせてもらうだけです」
「まあキミならそう言うだろうな。でもいいのか?こっちはキミの本性を知っている。ついでに言えばキミが十数股掛けていることだって知っている。これが彼女たちにバレたらどうなるだろうな?」
「はっはっ!口で勝てないと思ったら今度は下手な脅しですか?無駄ですよ、お兄さんが何を言ったところでみんな俺を信じるに決まっている。むしろ嘘つきはお兄さんの方になるだけですよ」
「知ってるよ、俺には人望も人徳もなにもないからな。俺がいくらなにを言っても無駄なことくらいは知ってる。だったらキミ本人に喋ってもらえばいいんだ」
「俺本人が?バカじゃないですか?どうして俺が自分に不利なことを言わないといけないんですか?」
俺を嘲笑う金田くんは、きっと俺がただの悪足掻き、負け惜しみを言っているようにしか聞こえないのだろう。
しかし、ここはファミレスだ。
どこに誰の耳があるかなんて分かったものじゃない。
そう、例えば______ファミレスのアルバイト店員とか。
「クソったれなお客様、こちらご注文のボイスレコーダーで御座います」
「なっ!?」
金田くんは突然の店員の登場に思わずといった様子で声を上げる。
そしてまるで爆発物で見るかのような目で店員______辻野が持ってきたボイスレコーダーを眺めている。
「全てわたくしが記録しておりましたの」
そして後ろの席から立ち上がる椎葉さん。
「『念には念』。高宮さまから頼られてはわたくしとしても手は抜けませんもの」
「悪いな椎葉さん、こんな事に付き合わせて」
「お気になさらず。友達なら当然ですわ」
そう言って椎葉さんはにっこりと微笑んだ。
「さて、何の話だったか?」
俺は再び金田くんへと向き直る。
どうせ俺の言うことなんて誰も信じないとタカを括って色々話したみたいだけど、それが完全に仇になった形だ。
「は、はは。それで勝ったつもりですか?いくらボイスレコーダーで今の会話を記録できていたとしても、お兄さんは俺の彼女たちの名前も顔も知らない。一体どうやってそれを聞かせるつもりなんですか?」
「調べるだけさ。この椎葉さんは椎葉財閥のお嬢様でな?調べ上げようと思えば簡単に調べがつく。なんならキミの中学校で全校放送として流すことだって可能だ。金と権力万歳ってな」
「____」
もちろんそこまでやるつもりはないが、『できる』ということをチラつかせるだけでも意味はある。
その証拠に金田くんの余裕の笑みが徐々に剥がれていく。
俺としても年下の子をここまで徹底的にボコボコにするのは大人気ないとは思うけれど、これも璃子を守るためだと心を鬼にした。
「下手な脅しって言ったっけ?違うぞ、これはあくまで『お願い』だ。俺のお願いを聞いてくれている限りこの音声は外へは一切流出しない」
「くっ__」
ギリと歯が軋むような音を立てながら金田くんは俯いた。
そして5秒、10秒、と時間をかけてようやく顔を上げた。
「分かった、分かりました。璃子ちゃんのことは諦めます。2度と近付きません」
金田くんは両手を挙げて降参のアピールをする。
「っていうか財閥のお嬢様連れて来るとか卑怯じゃないですか?」
「卑怯でもなんでも勝てばいいんだよ______とは流石に言わないけど、今回は事情が事情なだけに手段は選んでいられなかったんだ。大人気ないとは自覚しているけど、キミがあの時素直に頷いてさえいてくれれば、あの音声データも削除するつもりだったしこんな手段は取らなかった」
「つまり俺の自業自得だと言いたいんですね」
「そういうことだ。正直キミが十何股、何十股しようと俺はどうでもいい。キミが誰の恋を蔑ろにしたって興味もない。ただ、そんな軟派な男に大事な妹をくれてやる気もない」
一瞬葉風さんの顔が脳裏にチラついたが、今はそれを隅の方へ追いやっておく。
ここで下手に彼女の名前を出せば、彼女もまた関係者だと思われる可能性がある。
二兎を追う者は一兎をも得ず。
葉風さんのことも気になるには気になるが、それでせっかくまとまりかけた話を台無しにするわけにはいかない。
今回はあくまで璃子の件で話をしているわけなのだからそちらに専念するべきだ。
「昨日お兄さんは璃子ちゃんを『ブラコン』だなんて言っていましたけど、お兄さんの方がよっぽど『シスコン』ですよね」
む、またその話か。
最近そんなことをよく言われる。
「馬鹿を言え。妹が大事じゃない兄はいない。むしろ妹を大事に思えない兄は兄なんかじゃない」
「はっ、お兄さんが言うと説得力が違いますね」
そう言ってまた人を小馬鹿にしたように笑う。
しかしそこに先程のような敵意は感じられなかった。
「これで話は終わりだ。時間を取らせた詫びと、脅迫まがいなことをした詫びだ、ここは俺が払っとくからもう帰ってもいいぞ」
「分かりました、ではこれ以上お兄さんの顔は見ていたくはないのでお言葉に甘えてそうさせてもらいます」
席を立ち背を向けた金田くんに俺は迷った末に声を掛けた。
「そうだ、たったの1年だけど人生の先輩から1つアドバイスだ」
「はぁ、話は終わったと聞いたんですが…まあいいでしょう、なんですか?」
どこまでも生意気な1つ年下の少年に俺は続ける。
「人生の落とし穴というのは順調だと思っている時にこそあるものだ。世の中は等価交換で上手く行ったらその分だけの反動が必ず返ってくる。だから『勝って兜の緒を締めよ』だ」
「は?なにちょっとカッコつけてるんですか?そんな凡庸な顔で言っても似合いませんよ?」
「だったら言い換えよう、つまりなにごとも腹八分目がちょうどいい。上手く行っているからって調子に乗ってると痛い目を見るぞ。ってことだ」
「そうですか、偉そうで貴重なアドバイスをどうもありがとうございました。では今度こそ俺はこれで」
そうして金田くんは今度こそ店を出て行った。
「高宮さま?」
「金田くんの言う通りだ。我ながらホント似合わないことを言ったもんだな」
でも、人生で1番怖いのは1番上手く行っている時だというのを俺は身を以て知っている。
もしも今のアドバイスが彼の今度後の人生で役に立ってくれるのなら俺としても似合わないことまで言った甲斐があるというものだ。
気が付けば無意識に右の頬を押さえていた。
2年前に真代に引っ叩かれた場所だ。
そう、何事も腹八分目くらいがちょうどいい。
求め過ぎれば必ず痛い目を見ることになる。
金田くんにしっかりこの意味が伝わっていればいいんだけど。
そんなことを思いながら、ちょうど近くにいた『辻野』という名札を付けた店員に甘味を注文する。
「せっかくだから椎葉さんも一緒にどうだ?今回協力してくれたお礼ってことで」
「はい、喜んで御同席させて頂きますわ」
その後俺と椎葉さんは2人で軽く打ち上げをして辻野のバイトが終わるのを待ったのだった。
『人生の落とし穴というのは順調だと思っている時にこそあるものだ。世の中は等価交換で上手く行ったらその分だけの反動が必ず返ってくる。だから『勝って兜の緒を締めよ』だ』
偉そうなドヤ顔が金田の頭にこびり付いていた。
結局『アドバイス』の意味を理解することができなかった金田だったが、高宮なりに「中坊が調子に乗ってんじゃねぇよ」と言っていたのだと思うことにする。
「ん?あれって
千恵巳というのは金田にできた最初の彼女だ。
そんな少女が金田の家の前で俯いて立っていた。
金田は面倒臭く思いつつも、家の前に立っていられたのでは無視もできず仕方なしに声をかける。
「千恵巳?どうしたんだ?」
「うん、響紀くんに用があって待ってたの」
そう言う千恵巳の声はあまり明るくはない。
普段は黒髪におさげと地味な容姿ではあるが、笑顔の明るい可愛らしい少女。
それがどういうわけか明るい笑顔は鳴りを潜め、まるで思い詰めたかのような表情をしていた。
「用事?だったら学校で言ってくれればよかったのに」
「ううん、いいの。学校じゃ済ませられない用事だったから」
昏く笑う千恵巳。
そんな千恵巳の表情に金田の背中に冷たい汗が走る。
「ねぇ響紀くん。響紀くんは私にこと好き?」
「も、もちろんだ。好きだよ」
「愛してる?」
「当たり前さ。なにをしていてもいつだって千恵巳のことを考えてる」
「そっか…」
にこっと安心したように笑う千恵巳は、少しだけ普段通りの千恵巳に近付いた。
そして______
「じゃあ一緒に死んで?」
トンと金田に寄り掛かる千恵巳の手にはいつの間にか果物ナイフが握られていた。
灼けるような痛みが金田の腹部に広がる。
「っ!?ち…えみ…?」
「ふ、ふふふっ…悪いのは金田くんなんだよ?私のこと好きだって、愛してるって言ってくれたくせに他にも女を作って…でももう誰にも金田くんは渡さない!私が先なんだよ!金田くんは私だけの彼氏なの!死んで!そして2人で永遠になるの!」
狂ったように嗤う千恵巳がザクザクと何度も何度も鋭い切っ先が金田を貫く。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も。
「______」
いつの頃からか金田は痛みを感じなくなっていた。
寒い、もうすぐ夏だというのにとにかく寒かった。
どうしてこうなったのか?
どうして、どこで間違えたのか?
ふと、つい先程の高宮の『アイドバイス』を思い出す。
(そうか…そういうことだったのか…。俺は調子に乗りすぎたんだ…。ったく、そうならそうとはっきり言えばいいものを…)
頭の中にこびりついてしまった憎々しい男に悪態を吐き、金田は笑う。
そうして金田響紀は全身を滅多刺しにされながらも、その表情は穏やかなままこの世を去ったのだった。
-超蛇足-
そしてその後、異世界に転生した金田は外見も内面もイケメンになり、勝ちまくりモテまくりの人生を歩むことになる。
しかしその後の人生において彼はたった1人の女性だけを最後まで愛し続けたという。
それが生前のトラウマからなのか、それとも生前の悟りから来たものなのか、それを知る者は誰もいないのである。
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