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「あ、あのですね、犬っていうのはうちの動物園の外で飼っているものでして、と言っても外もうちの敷地なんですが、園内をぐるっと囲うように寮を建てておりましてですね、全部で三棟の寮を持っているんです。男女別になっていまして少人数で生活をしていますのでそれなりにストレスもなく配慮しているんです。寮と言ってもほんの小屋程度のものです、はい。毎日当番制で犬の散歩をお願いしているんですが、それがその……一日ずつ犬がいなくなるんです」
「一日ずつ?」白子は腕をぎゅっと組む。そのたびに胸がにゅっと寄る。そのたびに木立はどこを見たらいいのか分からず結局最後に湖を見る。
湖は、私はセーフティーゾーンじゃないんですが、と言いたくもなる。
「いずれも私共が仕事をしている時間帯なんです。だもので犬に関しては外部の人間かなあと疑ってる次第でして」
「そんなにいい犬なわけ?」
「え、いやいやもう雑種です。引き取り手のない犬たちを引き取って、一緒に生活をしているんです」
「あら、あなたいい人なのね。動物に優しい人は好きよ」
思いもよらない告白に顔を真っ赤にする木立は額から粒の汗をかき始めた。それを見て、「汗っかきな男は嫌い」
と、見も蓋もないことを言う。
「それで、全部でどのくらい盗まれたんですか?」
「ニホンサルのコザルが十匹、犬が十四頭、ロバが二頭」
「犬、すごい数ですね。そこに驚きました」
湖は犬の多さにめんくらった。一匹二匹程度だと思っていたのだ。
「ええ、番犬も兼ねてですね、各寮に数匹ずつ置いているんです。まあ、なんていうんでしょうかね、その中には子犬も五、六匹いましたもんで」
ぺこぺこ頭を下げながら木田が忙しなくハンカチで額を拭う。
「にしても、なんだか統一性がないわねえ」
白子がミルクを舐めながら唇を尖らせた。
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