・
厚い扉をポンと押すと音も立てずに内側に開かれた。昨日と変わらず明るい部屋。
「おはようございますー!」
大きめな声で挨拶をした。じゃないとまた『君は大きな声で挨拶をするようにと習ってこなかったのかな』などと朝から嫌味を言われることになる。
しかし奇妙だ。返事はない。字のごとく、しーんと静まりかえっている。どういうわけか猫の姿も見当たらない。
不思議に思うが、ひとまずリゾットの材料をリュックの中から出して調理台の上に置く。首だけ伸ばして『絶対入らないで』と言われた奥の部屋を覗く。物音ひとつしない。ドアの下に猫用の小さな扉がついていることを思い出してふと下を見た。
揺れている。まるで猫が抜けたかのようにしゃりしゃりと揺れていた。
足元にいつものフワリとした感触。ノリコかその母猫、もしくはコテツが出てきたのかもしれないと床に目をやればどこにもそれらしきものはいない、
が、その時、湖は己の後ろに気配を感じた。等身大の気配。この場合、この場所で振り向くのは絶対的に不利だ。前方にジャンプしながら回転し、相手と距離を広げながら両手は胸の前で戦闘体勢、着地と同時に構えて相手の出方を読む。と、刷りきれるほどに見たジャッキーのビデオで学習した。
それを惜しみなく披露した矢先、湖の戦闘モードは急激に削がれることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます