九
九
「おい。まじかよこれ。本気かよ」
男の声にびくりとし、身構えた。その声は出雲大社のものじゃなかった。
腐った高宮と藤巻春の後ろに見知らぬ男が立ち竦んでいた。
紺色の作業着に何年も被り続けているであろう帽子は赤く薄汚れていた。靴は黒ずんでいて何年もはき込んでいるのがすぐに分かる。
「って、何これ、幽霊か? まじかよすげえな。俺こんなもん見れる力あったのかよ。まじか。てことは姉ちゃんも幽霊か?」
にたりと笑った歯はまっ黄色で、風呂に入っていないであろうことがうかがえる顔には無精髭が生えっぱなしで気持ちが悪い。
「ああ、この二人には見覚えがあんな。へへ、死んだあとってのはこんなんになっちまうんだなあ。むごいなあ」
じゃりと髭をさするその男は不気味な目の輝きをしていた。何人か殺めたことのありそうな雰囲気だ。
片っぽの手はズボンのポケットに突っ込んだまま、もう片っぽの手で執拗に髭を撫で続ける。
「で。俺が殺したあの女はどこにいるんだ?」
面白いモノでも見るかのように辺りをきょろきょろする。
この男は自分で「殺した」と自白した。誰かは分からないがこの男は誰かを殺してきていることを自分で証明した。でも、高宮と藤巻ではない。
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