三
丁度いい温度のコーヒーをずずっとすすって男は、
「朝倉湖さん」とフルネームで呼んだ。
「まあ、占い師って今のところ俺自身でも言ってるから、ドンズバで当てちゃっていいかな?」
湖は違和感を確信のものとした。こんな占い師は見たことがない。というよりも、こんな占い師には視てほしくないと心から思った。
男は再度音を立ててずずずっとコーヒーをすすり、
「フラれたのは正解だよ、むしろ大正解」
湖はでかい大砲をもろに胸にくらった衝撃に、一口飲んだコーヒーをあやうく吹き出すところだった。
「かなりずばっときましたね。そして私あなたにふられたことなんて一言も言ってないですけど」
「だからそこが俺的な占いよ」
大きく頷いてみせた占い師に怖くなってきた湖は早く帰りたいと思った。
「それでは私はこれで。用事を思い出しましたのでしつれいします」
さっさか帰ろうと腰をあげる。一刻も早くここを出たほうがいいと思った。場所だって地下なのだ。マスターの友達だとはいえ、怖いものは怖い。
「そこで、今の状況から脱出したいなら、とりあえず職が無ければ食べていけないよね」 「それなんですけど、派遣で仕事を探してますし、つい最近もふたつ応募しましたのでご心配には及びません」
「ああ。販売員のやつね」
「んがっ」
「顔顔。あまり嬉しくない造りのお顔なんだから嘘でも綺麗な笑い方したほうがいいよ。今、果てしないよ」
湖はあんぐりと開いた口を閉じ、つばを飲み込み、向かいに座っているやたら整っているうっすらムカつく男を睨んだ。
「その応募した結果だけど、二つとも落ちてるね。書類ではじかれてるよ」
「そんなっ!」
バンと音を立てて立ち上がった。だって、そんなはずない。洋服の販売員なら若いときバイトでやっていたので勝手だって分かっているのだ。
「二十代前半の人で決まってる」
「年齢で落とされたってことですか」
「違う違う。その子たちのほうがキャリアがあっただけの話だし、そもそも若い人向けのところだったじゃない」
「なんでそんなことまで知ってるんですか」「仕方ないでしょ。それが現実」 現実なんざ知らんほうがいいこともある。湖は頬を膨らまして睨みつける。
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