第35話 6月18日(3) 信じる相手は自分が決める
夜、拓は園長に呼ばれて説教を受けていた。
決まりを守らなきゃいけないのは、世の中にもルールがあることを知ってもらうため。1人の勝手な行動がどれだけ周りに迷惑をかけるかを考えろ。自分勝手な事ばかりしていると周囲から相手にされなくなる。
もう何度同じようなことを言われたか。この先の言葉だってもう聞き飽きた。自分のためにならない、将来困る……云々。
いい加減に聞き流す。
―――はいはいだから何? 相手してくれる奴とだけ付き合ってればいいだろうが。
今までさんざん、ああしろこうしろ、何でお前はできないのかって、兄貴と比べられて責められてきた。
自分は自分だ。お前らなんかの言うとおりになんかなってやるもんか。
こうなったのも全部、アイツのせいだ。
兄貴が憎たらしい。あんな見本が存在するから俺は俺として生きられないんだ。俺はあいつじゃない、俺だ。
兄貴と同じにならなきゃ生きちゃいけないのか? そんなのごめんだ。
好きなように生きる。俺がどうなってもお前らのせいだ。俺を認めないから、こんな結果になったんだ。
何かあったら親の責任とか、ここの保護責任て責められるんだ、ざまあみろ。
親なんか、自分がいなくなっても探しに来なかったじゃないか。虐待、ネグレクト、立派な犯罪をしてるのはそっちだろうが。
あんな家誰が戻るか。兄貴や父親を包丁で刺そうとしたら、傷害未遂で児童相談所行だ。どうせ厄介払いができて万歳とか思ってんだろう。あいつらだけ楽しく暮らそうなんてそうはいかせない―――
心の奥底では、兄と違う自分を認めてほしい願望を持っていた。
兄と同じになれないのだから、せめて自分の行為を否定せず自分を見ていて欲しかった。
でも親はそれを許してくれなかった。
見捨てられるのではないかという不安から、自分が何か目を引くことをしていないと、本当に忘れ去られそうで怖かった。
お兄ちゃんは偉いお兄ちゃんは利口とちやほやして、出来の悪い自分は邪魔者扱い。
それが如実に感じられた。そんなに兄がいいのか。可愛いのか。だったら自分を生んだことを徹底的に後悔させてやると思うようになった。
結果、誰も家族が自分に向いてくれなくなった。
家を飛び出し警察のお世話になっても、親は仕事でなかなか迎えに来ない。兄がちょっとでも怪我をしようものなら、病院へ飛んで来たくせに。
ただ結局のところ、本当は自分でもどうしたいのかよくわからない。
周りから気にかけてもらえないと不安なくせに、心配されると振り払う。
周りに認めさせたいくせに、理解者が現れると分かったようなこと言ってんじゃねぇ、と悪態をつく。
ただあの中学生たちなら、自分のことを分かって受け入れてくれる気がした。
だって彼らは強いもの。ルールに囚われずやりたいように生きている。うるさい周囲は黙らせるし、憧れる存在だ。彼らについていこう。
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