第31話 6月16日 お返し
朝、1日のスタートは2人とも自分のクラスで始まる。
真一が席に座っていると、突然怒鳴り声とバン!という大きな音がした。
みんなが一瞬黙りかたまる。
「てめえふざけてんのか?ぁあ?!」
小島が壁に追い詰められ、早野と高畑が小島に逃げられないよう壁に手をつき阻んでいる。
「忘れたわけじゃなくて……その」
「言い訳すんじゃねえよてめえから言い出したんだろ!」
「いきなり次の日は無理だよ……」
「うるせえ!」「今日用意して来い!」
小島の胸ぐらをつかみ同時に2人が怒鳴る。高畑が壁に押し当てる。
「バックレたらわかってんだろうな!」
小刻みに頷く小島。乱暴に手を払うと、外野に向かって「見てんじゃねえ!」とまた怒鳴り教室を出て行った。
真一が心配して1人になった小島に近づく。
「大丈夫? どうしたの?」
「あ……うん、何でもない、大丈夫……。ちょっと忘れ物しちゃって……」
「何か脅かされたの?」
小島は笑顔を作り、違うから本当に大丈夫、と席に戻っていった。
真一も席に戻ったが、前の席の女の子が振り返り、あいつらにあまり関わらない方がいいよ、杉村君もターゲットにされるよ、と忠告を受けた。なんで誰も助けないのと聞くと、あいつら怖いし逆らえない、と前を向かれてしまった。
授業が始まる前、移動先の教室で先刻の出来事を直哉に話した。昨日の件もあり、直哉も少し気になった。
今日は部活があったので、陸上部のメンバーと帰宅する。気温も上がってきて暑い中での練習だった。帰る前に水は飲んできたのだが……
「あ~~つっかれたぁ~」
「こういう時は水分補給しなきゃな」
本郷がふらふらっと道端の自販機へ吸い寄せられていった。
「あーずるい~!買い食いいけないんだー!」
田中が冷やかす。
「なにを言う、『食い』じゃなくて『飲み』だからいいんだ!」
みんなが一堂に笑う。ガシャンと落ちてきた冷え冷えのスポーツドリンクを一気飲みする姿に、誰もが羨望のまなざしを向けていた時、真一があっと声を出した。
小走りで駆け寄る真一。足を止める小島。みんなも後に続く。
「小島君。どうしたの?」
「あ……」
私服に着替え学校方面へ向かって歩いていた。眉をハの字にして明らかに動揺している。昼間の件もあり気になって聞いた。
「ねえ、あいつらに本当に何言われたの?」
「……」
頑なに言わない。いや、言えないのだ。
「あいつらにいじめられてるの?」
真一が直球で聞く。
「い……いや、いじめられてはないよ……。ちょっと頼まれた事あって」
「でも頼んでるようじゃなかったし、頼む方があんな態度ってないでしょ?」
畳みかけるように聞く。
「金……貸してって……」
それを聞いて全員憤慨した。
「それってカツアゲじゃん! あれに限って返すわけねえだろ何で貸すんだよ」
田中が言った言葉がわからず本郷に聞く。お金を脅して巻き上げることだと教えてくれた。
皆口を揃え、そんなの行く必要ない、警察に行けと諭す。何なら今から行こうと本郷が提案したので、ぞろぞろとついていくことにした。
しかし運悪く、途中高畑と大野、3年の小寺に出くわしてしまったのだ。当然小島はてめえ何してんだとすごまれ、腕を引っ張られる。それを阻止する陸上部。
「お前らのカツアゲが犯罪だから警察に行くんだよ」
本郷が毅然として3人に言い放つ。
「小島てめえいつ俺たちがカツアゲしたよ! お前から言い出した話だろ」
「どうせ脅して貸すって言わせたんだろ」
またすぐ殴り掛かってきた。分かり易い奴らだ。直哉が前に出る。直哉以外は雑魚だと思っている彼らは、倒しやすそうな人物にかかっていき始めた。
直哉は1人づつ引きはがすのが精いっぱいだ。真一が殴られた。本郷も腹を前蹴りされ倒された。田中も肩のあたりを殴られてうずくまっている。
「おい……」
直哉が初めて彼らに向かってけしかけた。言葉を発してからは早かった。高畑のこめかみをぐっと潰さんばかりに掴む。痛がる彼をそのまま引きずり小寺に投げつけた。よろけた小寺のみぞおちへバッグを振り回し一発お見舞いすると、小寺はうッといったまま固まり数秒後に吐いた。
大野が逃げようとしたので腕を掴みそのまま背中へ蹴りを入れた。ぐぎっという違和感のある振動と同時に大声で叫ぶ大野。肩が外れたようだ。
呻く大野に直哉が声をかける。
「二度と小島君に関わらないって約束できる? できるなら肩はめてあげる」
「わか……あいっ……いた……う……」
「え、何?」
「する、する!」
必死に頷く大野の姿少し気の毒になり、腕を持ち上げるとくいっと押した。
「うぎゃあっあああ……」
声がすっと消えた。痛みに失神したようだ。次に高畑の元へ歩み寄る。
「お前もできる? 約束」
「ふざけんな、こんな事してただで……」
言い終わらない内に直哉の手が再びこめかみを掴みそのまま立たせるように持ち上げた。
「あっぐああああ……」
ミリ、ミリ、という高野の頭の中でだけ響く音と痛みに悲鳴が上がり、直哉の手を叩く。
「約束できるなら離してあげる」
「わ、わあった……する、する……」
泣きそうな上ずった声をあげるので、手を放した。ドサリと地面に落ちた。
次に腹を抑え制服も汚してうずくまる小寺にも近寄り、同じ事を聞いた。しかし3年生というプライドだろう。絶対に返事をしなかった。
すると本郷も蹴られた腹を抑えながら、自分の携帯で小寺の足元の吐瀉物を含めて写真を撮った。当然相手は怒る。
「約束し、なかったら、うっ、こ、この写真バラス……」
とぎれとぎれで苦しそうな割に、にやっと笑って脅し文句を吐き捨てる余裕はあるようだ。かしゃっかしゃっというシャッター音に観念し、
「わかったよ……畜生……」
と力なく答えると、相手はそれきり黙った。
直哉は皆が立つのを手助けすると帰っていった。
「ありがとう!本当に……」
小島が一同に深々と頭を下げた。ボロボロ泣きながら何度も繰り返す。
「やったな! なんか今までの仕返しが一気にできた気分。超スッキリ! ナイス藤沢!」
周りも嬉々として直哉の活躍とみじめな相手らの話を繰り返した。
小島も無事に帰ることができた。陸上部たちとも別れ、風の子園へ帰る。
「どうしたの!」
真一が顔を腫らしているので皆がどよめいた。また喧嘩したの? と直哉に聞く。
「直哉に助けてもらったの」
直子は心配かけるのも大概にしなさいと戒めたが、今までの直哉の怪我に比べれば、という変な慣れができてしまっていた。
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