第23話・竜戦士な居候の普通じゃない求職活動

 「普通だな」

 「普通だね」

 「あのー二人とも?何を期待していたワケ?」


 シュリーズを雇っても構わない、と酔狂なことを言い出すのだからさぞや奇矯な会社なんだろうなあ、という予想から導き出した外観の想像からはかけ離れて、駅前の大通りから少し中に入ったところにある雑居ビルは、別にどってことのない外観だった。


 「浅田の姉さんだっけ?何の仕事してんだ」

 「広告の企画会社。事務とデザイナー兼任とか言ってたけども。小さい会社だから一人で何でもやるみたいよ」


 なるほど、入居している会社の名前が掲げられた札を見ると『村枝企画(有)』とある。今時珍しい、有限会社というやつだった。地元の企業を相手にする老舗というところなのだろうか。


 「あ、お姉ちゃん?今着いた。下にいるから迎えに…って、は?………あーはいはい、分かった分かった。お茶菓子くらいは用意しといてよね。じゃ」


 などと、相良まで含めた俺たち四人が物珍しくあちらこちらを眺めているうちに、浅田は件の姉に電話をしていたようだ。


 「こっちから上がってこいだって。なんか今日は手が離せなくてお昼も食べてないって言ってたわよ」

 「なんだ、そういうことなら言ってくれれば差し入れくらいしても良かったのだが。駅弁でも買ってこようか?」

 「え、い、いやあの、相良先輩にそーまでしてもらうほど大層な姉じゃありませんから!お気持ちだけで、はい」


 別に姉が大層かどーかで相良に使いっ走りさせるかさせないかってのが決まるわけでもないと思うが、まあ見ていて面白いから黙っておこう。


 「というか相良、駅弁ってのは結構高いもんだぞ」

 「うむ。あれはなかなか新鮮な経験ではあったが、今思うとトオシロウ殿に結構な出費をさせてしまったと反省しているところだ」

 「お前弁当まで親父にねだってたんか…」


 主客の関係性を思えば不肖の親父が失礼した…とでも言うべきところなのだろうが、シュリーズの方が親父に無茶を強いたんでないかと逆の心配をするくらいにまでいろいろと、毒されてしまっている気がする。


 「いや、いくらなんでもそこまで恥知らずではないぞ。あれはトオシロウ殿が気前よく与えてくれたものだった」

 「ならいいけどよ」

 「『おきゃくさん、ふたつでじゅうぶんですよ』と言っていたので二つにしておいたがな。今思えば妙に芝居がかった言い方であった」

 「しっかりねだってんじゃねーか、しかも四つもかよ!」


 流石にあの親父でもおったまげただろうなあ…駅弁四つも要求されたんでは。何で分かった?!みたいな顔のシュリーズを見ているとなんかもー、頭痛がしてくる。


 「ねー、コントもいいけどエレベーター来たよ。早く行こ」


 さほど広くも無いロビーでは、チンというどっか懐かしい響きと共に到着したエレベーターが扉を開けて待っていた。先に乗り込んだ浅田と正宗に俺と相良が続く。

 最後にシュリーズが加わろうと足を踏み入れた途端、


 「ブーッ!」


 とけたたましいブザー音がした。エレベーターは上昇するどころか扉すら閉まらない。


 「………もしかして重量オーバーしたんじゃない?」

 「………正宗、それはどういう意味だ?」

 「最後に乗った人が重すぎてエレベーターが動かない、という意味だ」

 「………小次郎、それはどういう意味だ?」

 「シュリーズの体重が重すぎる、という意味だ。お前食い過ぎだろ」

 「なっ…?!」


 絶句というかむしろ絶望してヨロヨロと崩れ落ちるシュリーズ。エレベーターが狭いんだから止めて欲しいもんだが。


 「何だ四人乗りじゃないか、このエレベーター。一人降りれば問題無いんじゃないのか?」

 「…ちっ」


 相良が要らんことに気がつく。いやまあ、このサイズならそうなのかもしれないがシュリーズの無駄飯喰らいのクセを何とかする機会だったので、そこは空気読んで黙っておいて欲しかった。


 「おい小次郎。今舌打ちしなかったか?」

 「してない。まー一人降りれば問題無いわけだから、とりあえず降りて次ので来いよ」

 「ふん、お前が降りれば良かろう?」


 と、するりと体を入れ替えられ、背中を押された俺の方が外に放り出された。一瞬何が起きたか分からずキョロキョロしているうちに背後で扉の動く音がして、慌てて振り返ったら閉まりかけの扉から舌を出したシュリーズの顔が覗いてた…ってえ、あンのアマァァァ!!


 …だが、ボロいビルの古いエレベーターだ。すぐ脇の階段を急いで上った方が早いだろうと、頭に来た俺は最上階を目指して駆け上がる。古いビルで助かった。たかだか五階だ。一段飛ばしどころか二段飛ばしでだって行ける。

 踊り場を一歩でクリアしつつ、いや息こそ切れ切れになったが我ながら結構なスピードで五階に到着した。エレベーターホールに出る。カッコ悪いので息を整えつつ上がってくるエレベーターを待った。まだ三階か。へっ、俺が先にいることに気付いたらどんな顔をするだろうかな。ああ、四階まで来たか。ち、息が収まらねーな。まあこんくらい余裕持たせてやってもいいかな、って四階で止まってんじゃん。早く上がって来いよ…あ、あれ?何で下に下っていく…?あ、そういや何階に行くのか聞いていなかったような…。


 「目的地四階かよぉぉぉ!!」




 「あれ小次郎?なんで階段から上がってくるのよ。折角エレベーター下ろしてあげたのに。もしかして階段上がってきたとか?もー…子供じゃないんだからそれくらい待ってればいいのに」


 呆れ顔の正宗に、「四階の」エレベーター前で出迎えられた。

 まあ幸いにも真相には気がついていないようである。しょーもない恥を掻くのだけは避けられた…。


 「っていうか、上から来なかった?………あー、なるほどね」


 と思ったら浅田にはしっかり気がつかれたようだった。必死で目配せしたらわかってる、とばかりに右手をひらひらさせていたから正宗やシュリーズには知られるこたーないだろうが。


 「全く。小次郎は本当に阿呆だな」

 「…うっせ。改めて言われるとキツイからほっとけ」


 真相とは違う内容で煽られるが、こっちは見栄張って息切れを我慢しているのだ。あまり喋らせないで欲しい。


 「私は別に太ってなどいないし体重だって人並みを越えておらぬぞ。それはまあ確かに食べる量は多いのかもしれぬが、その、それだってこちらに来てからのことで、今まで特に不摂生だったわけではない!だから、多分その、太っていたりなどは…しておらぬ、はずだと思うから、うん、あまり苛めないで欲しい…」


 …………。


 「……ぷっは、は、ははははは…」

 「な、何だ?突然笑いだしたりして。何か面白いことを言ったのか?私が」

 「あー…いや別に何でも無い。ないない。なんかいろいろと馬鹿馬鹿しくなっただけだから気にするな。あと多分俺が悪かったからあんま気にすんな」

 「あ、ああ…よく分からんが、そういうことなら仲直りだな!」

 「ん、ああまあ、そうだな」


 別にケンカをしていたわけではないんだが、こういうところは素直で悪くはないと思う。って、ああそうか、こいつ俺をエレベーターから追い出したことで俺が怒ってると思っていたわけか。

 んなことでいつまでも怒っている程器が小さいつもりはない、とゆーか自分の間抜けっぷりにそれどころじゃなかっただけなのだが。ま、あっちがそう思ってんならそう思わせとくさ。

 ただし一言だけ、忠告。


 「けどやっぱ食う量はもーちょっと抑えとけ。後から後悔しても知らんぞ」

 「う…わ、分かった。しかし小次郎の作ってくれる食事くらいは思う存分食べておきたいのだが……うう…」


 ……時々無性にかわええなコイツ。

 モジモジしているシュリーズを内心で褒めそやしていることなど、俺以外誰にも分かるものでもないだろう。いや俺自身だって褒めているつもりではないのだが、なんかこう、正宗に対するのともちょっと違う風にほっとけない、って感情にさせられる時があんだよな、コイツ。


 「おーい、あんまいちゃいちゃしてないで早くこっち来なさいっての」

 「誰がイチャイチャしてんだ、だーれーがー」


 先に奥に向かっていった浅田に不本意なことを言われる。

 見ると相良と正宗もとっくに追いついていて、廊下の奥の方にある扉の前で俺達を待っていた。

 なんだかまだもの言いたげなシュリーズではあったが、ここでボケッとしててもどうにもならん。


 「ほら、行くぞ」

 「あ、ああ…いやしかし、やっぱり一言言わせてもらわなければ気が済まん…小次郎、私とて年頃の女子であるのだからして、その、体重についてあれやこれや言われて気分のいいものではなくてだな」

 「やかましい。文句があるなら行動で実践してくれっての」

 「そういう言い草があるか!あのな…」


 年頃の云々は分からんでもないが、本人の言うことか、おい。

 反論なんぞ聞く耳持たない、という格好で三人のところにやってくると…。


 「うるっせえええええええわあーーーーーこのガキどもがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 「うおわっ!!」


 やたらと耳に障る金切り声で怒鳴られた。

 目の前の扉からは、遠目にも健康的とは言い難い風体の女性の姿。


 「日曜で他所の事務所は誰も居ないからいいようなもののこっちは徹夜明けで眠いってぇのにガキが廊下でギャアギャア喚いていると気に障るんじゃあああわぁぁぁぁぁぁんんん!!」

 「お、お姉ちゃん落ち着き…いやお酒入ってもいないのに泣き上戸にならないでってばちょ、どこ触ってんのよ!」


 お姉ちゃん…コレが、件の浅田の姉?

 冷えピタを額に貼り、ボッサボサのソバージュ崩れ、咥えタバコ(火は点いていなかった)で妹であるところの浅田にしがみついて嘘泣きかもしれんが泣きわめく姿は、いい歳こいた大人としてはどーかと思う。

 それにしてもこのヒトがシュリーズの面接するとか、大丈夫なのか?と、そっちを見ると既に半分涙目になって首を振っていた。


 「…お前これからあのけったいなヒトと仕事するかもしれんのに、今からそれでどーすんだっつーの」

 「いやそんなこといっても小次郎は初対面であの剣幕に晒されて落ち着いていられるというのか?!」

 「いられるぞ?他人事だし」

 「お、お前なぁぁぁぁぁぁぁ!」

 「二人とも、とりあえず手招きされているようだし、まず話だけでもしてみた方が良いんじゃないのか?浅田さんが取り押さえているようだし、危険は無いだろう」

 「取り押さえるとか危険だとか、お前も結構容赦ないね…」


 何気に毒を吐く相良を先頭に、先に扉の中に入った正宗に俺達も続く。あまり人の気配はせず、もしかして浅田の姉というヒトしかおらんのだろうか。


 中に入ると、コーヒーとタバコの臭いが立ち込める、あんまり健康的とは言い難い空気に満ちていた。

 失礼だとは思ったが、物珍しさについ俺もシュリーズもキョロキョロと辺りを見渡す。

 少なくとも俺は、職場、というものにこういう雰囲気のものもある、とは思っているので「ま、こんなもんかね」と思っているのだが、さてシュリーズの方はどうなのか。


 「………むぅ」


 …あんまり好感度高い、ってぇ感じではなさそうである。やっぱお姫様的な潔癖さみたいなもんがあるのかね。


 「日高くん、こっちだって」


 などと思っていたら、パーティションで仕切られた一角から浅田が呼んでいた。

 机の間を縫って歩くのも気を遣うような乱雑とした狭さの中、相良がまた先にそちらに向かうところを、一瞬逃げ出しそうに一歩後ずさりをしたシュリーズを追い立てるように前に出し、背丈よりは低い仕切りの隙間を抜けると、一応そこは五、六人は座れそうなテーブルにイスのセットがあった。といっても応接室みたいな上等なもんじゃなくていいとこ会議スペースって程度のもんだったが。


 そしてその先では、一人の女性が先に腰掛けてこちらに向かってうっすらと品の良い笑みを浮かべていた。


 「ふふ、みっともないところをお見せしましたわ。こちらへどうぞ。ヒコ、何か飲み物を出して差し上げて。やり方は知っているでしょう?」

 「お姉ちゃん…取り繕うにしてもあからさま過ぎない?」

 「あら、何のことかしら。ささ、狭いところですがお掛けになって」


 面接を受けるのはシュリーズだから、俺たちは入り口の傍で立ち見を決め込む。正宗、相良、俺の三人が一斉に怪訝な顔つきになった理由は、姉氏の様変わりした様相だった。


 額に屹立した存在感を誇っていた冷えピタは当然外され、寝癖と見紛うようだったソバージュは後ろにまとめられてひっつめになっており、言われなくてもアンタ寝不足だろうと指摘出来るようだった目の下の隈はキレーに化粧で隠されている。一目で見て清楚な美人と判断するに充分不足のない姿になっていた。

 俺が目撃してからいいとこ三分くらいだったとゆーのにこの変わりよう。


 「…女ってこえー……」


 呟いた俺に同意するように、相良も小さく頷いている。お互いに若干引き気味であった。


 「では失礼する」


 そんな中、何事も無かったように勧められた椅子に腰掛けるシュリーズ。相手が真っ当な面目を保っていると途端に立ち直るコイツも大概ではあった。


 「では私の方から。浅田承理あさだしょうりです。…こちらをどうぞ」


 と、浅田姉はシュリーズの前に名刺を置いた。こっちからは細かいところは見えないので名前だけ確認したが、割と珍しい名前っぽい。


 「はい。では履歴書を拝見…って、さっきの今でそんなもん用意してあるわけないわね。お名前をどーぞ」

 「……ヴィリヤリュド・シュリーズェリュス・リュリェシクァという。シュリーズと呼ぶがいい」


 おい。

 いや、割と聞き慣れてきつつあるフレーズだったがこいつバイトの面接だっちゅーことを忘れているんでないか。ぞんざいすぎるだろ。


 「シュリーズさんね…失礼ですがどちらのお国から?」

 「ご存じないとは思うが、ヴィリヤルデ・ノーリェリンという」

 「ホントに知らないわね…お顔立ちからしてヨーロッパ?北アフリカあたり?」


 チラッとシュリーズがこっちに顔を向ける。話していいかどうか聞きたいのだろうが、そんなもん俺が判断していいものか。とはいえ、相良や浅田の手前、何もかもぶちまけるワケにもいかんので、適当に誤魔化せ、というつもりで軽く肩をすくめてみせると、一瞬困った顔をしたものの、すぐに唇を引き締めて浅田姉に向き直って告げた。


 「いや、面接に関係することでないのなら、私の個人的なことには触れないで頂けないか」


 ストレート過ぎるわ。けどまあ、悪い印象は持たれなかったようで、気を悪くした様子もなく、いやむしろ何か悪いイタズラでも思いついたかのよーにニヤリとしている。逆にそっちの方がコワイ気もするが…。


 「結構。それで仕事の内容ですけれど、そちらは聞き及びですか?」

 「うむ。ヒイコ殿に雑用中心でもいいか、とは聞いている。特に問題は無い。食に関わること以外であれば、一度見れば大体のことはこなせると思う」


 大きく出たな、おい。

 まあ確かに意外と器用だとは思うし、性格もマジメな方に属すると言えるだろーが、基本的にお嬢さまというかお姫さま気質で、細々としたことであっちこっちに気を配ることを得意にしてないっつーかむしろ思い込みは激しいし物腰は上品つーても何かスイッチが入ると即座に暴走するしその上突発的事態に弱いのが暴走に拍車かけるし。

 …なんかすげー不安になってきた。


 ヒヤヒヤしながらちょうどシュリーズの対面に座る浅田姉を見る。

 相好を崩すという表現はこういう時に使うんじゃないだろうかというよーな、満面の笑みで…どっちかっつーと獲物の確保を確信した猛禽類みてーな笑顔だが…シュリーズを見ている。


 「……………ふ、ふふ、ふふふふふふふふふふふふ」


 ちなみにこれはその視線に晒されたシュリーズの反応である。こちらは余裕があって笑っているというよりも、ギリギリのところで踏みとどまって強がっている、てな具合だった。長く保つかなあ、コイツ。


 「それは随分頼もしいですわ。で、一つこちらから確認しておきたいのだけれど…」

 「う、うむ。何なりと聞くがよい」

 「では…………」


 矢庭に前のめりになる浅田姉。近付いた距離と同じだけ身を仰け反らして、と言いたいところだが椅子の背もたれが邪魔をしてそうはいかなかった。

 俄に高まる緊迫感。いや、何で緊張すんのかよく分からんが、俺と、隣の正宗の喉元から同じような音がした。息を呑む音、というやつだろう。

 そして相良の奴まで姿勢を正す、張り詰めた空気を引き裂いたのは。


 「おねーちゃぁん!このポットお湯沸かせないんだけどーっ!!」


 …どっかそこらから響いた間の抜けた叫び声だった。


 「………そこら辺にヤカンがあるでしょ、コンロで沸かしてちょーだい!」

 「わかんなーい!ちょっと見てよーっ!」

 「いまそれどころじゃないの分かっているでしょうがーっ!」

 「お茶出せって言ったのおねーちゃんの方じゃんかーっ!」

 「子供じゃないんだからそれくらい自分でなんとかしなさーい!」

 「自分の家でもないのに分かるかーっ!!」

 「…手伝ってこようか?僕がここにいても役に立つことは無さそうだしな」


 相良の申し出に俺は、頼む、と目線だけで告げる。相良が役に立つとかどーかじゃなくて、争いが不毛過ぎるっつか時間の無駄過ぎるわ。

 それでもどっか楽しそうな顔をしてブースを出ていく相良。


 「え?さささささ相良せんぱいっ?!ナンデ?!」


 行ったら行ったでなんか素っ頓狂な声が聞こえたが。まああっちはあっちで任せよう。


 「……こほん。使えない妹が失礼したわ。続きをしましょうか」


 いえ、さっきのやり取り見る限りあなたも結構なモンです。この姉妹はいつもこんなんなのか。知ってるのか知らんのか知らんが、正宗の様子を見る。


 「…………」


 口を尖らせて浅田姉をじっと見ていた。睨んでいるってほどではないが、若干うんざりした風ではある。察するに、自分の親友であるところの浅田妹を悪し様に言われて面白くないってとこだろう。


 「えーとどこまで話したっけ。あ、そうそう、聞いておきたいことだったわね。えとね、あなたアイドルに興味ない?」


 …なんか不穏な単語が出てきやがった。


 「あ、あいどる?…何だそれは…い、いや聞いたことがある気はするが何か私にとって忌まわしい響きを覚えるのだがっ?!」


 そしてシュリーズもいい勘していた。


 「ふふふ…大丈夫よ、全てを私に任せれば…賞賛!名声!そして富!それら全てをあなたは手に入れることが出来る…そして、私は青史に残る最っ高の!アイドルを生み育てた伝説のプロデューサーとして日本の歴史に名を残すのよ!…ちょっと謙虚で良いでしょ?日本の歴史にとどめる辺りが」


 ぽかーん。

 俺。話を理解出来ない。

 正宗。話についていけない。

 シュリーズ。嫌な予感しかしてない。

 三者の感想としてはこんなとこだろう。

 立ち上がり拳を握って力説していた暴走する浅田姉は、俺たちの反応に気がついても一切恥じいる様子も無く、そそくさと着席して話を続ける。


 「ま、現実的な話をするとね、今ローカルアイドルが流行りでしょ?ウチの事務所も一枚噛んで何か出来ないかって考えてたとこなのよー。あんた見た目は完璧だし日本語も堪能…なのは必ずしもプラスではないけどそこら辺は売り方次第!コンセプトはそーねえ…『妖精』!ベタだけどこれしか無いって感じだわね!あ、歌とか踊りは心配する必要無し!地方のちっさい事務所だけど大手にもコレが結構コネあったりするからね!地元の局の仕事奪っておいてこっちには端金で下請け押しつけてくるクソ大手だけどさ、これっくらいは役に立ってもらわにゃあね!!」

 「あ、あの……」

 「よし、そうと決まれば今から売り込み方法考えよう!え?東京から来たアイドルグループがなんぼのもんだってのよ!こっちゃ地元だわ、むしろこっちからのし上がってやるわ!いやぁ~~~夢が広がるわ!」

 「やめてよこの暴走姉!!」


 ガスっと、立ち上がって暴走していた浅田姉の脳天に妹のお盆チョップが見舞われた。俺たち四人は唖然として成り行きを見守るしか出来ない。


 「シュリーズさんのこと見た時の反応から心配していたら案の定…お姉ちゃんいい加減アイドルをプロデュースするとかいうバカな夢見るのやめてよ!」

 「ぐ……ひ、ヒコ?!バカな夢とか姉の大いなる志と書いて大志になんて扱いを!」

 「どーせゲームに影響された志じゃないの。一人で勝手に邁進するなら構わないけどね、妹の友達にまで迷惑かけないでよ!」


 浅田の剣幕に、姉の方はいじけたようにのの字を書いていた。どー見てもダメな人の図である。


 「なあ」


 俺は正宗と俺の間に避難してプルプル震えていたシュリーズに声をかける。


 「何か昨日の今頃も似たよーなヤツを相手にしていた気がするんだが」

 「言うなっ!あ、あんな変態が二人といてたまるものか!」


 クラスメイトの身内を悪くは言いたくないが、コイツと出会ってからというもの、手に負えない振る舞いというものがすっかり身近になってしまったような気がする。

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