第20話・本人を無視して決まる予定とか

 「で、なんでおめーがついてくるんだ」

 「だからあたしも行く、って言ったじゃん」

 「白々しいっつーの」


 買い物つーても近所のホームセンターだ。それも郊外にある車で乗りつけるようなデカいやつでなく、高校生の俺らが歩いていけるような、ちっさい方。目的もなく行って楽しいもんでもない。

 なので、正宗には何らかの目論見があってついてきてるのだと思ったのだが。


 「…やっぱ苦手か」

 「そーいうわけじゃないけど」


 俺の指摘に顔を曇らせておいて、そういうわけじゃない、も何もないもんだが。


 正宗のヤツは、どうもアナを苦手にしているっぽいのだ。

 いや割と明け透けなアナと相性が悪いってわけでないし、ガキの頃はそれこそ姉のように慕っていたもんさ。俺の記憶の限りじゃな。

 最近たまに、会話の折に体型の一部についてからかわれているようだが、その辺でりけぇとな問題なので男の俺からは言及しないとして。


 「…ちっと時間潰すか」

 「え、いいの?シュリーズほっといて」

 「ほっとくわけじゃ無いっての。どうせやかましいのを振り切って外の出たんだからさ、ついでに済ましておきたい用事もあるってこった」


 どっちにしても俺が介入するような問題でもないのだし。

 俺に出来ることと言っても、多少気分転換するくらいのもんだ。


 「あとでシュリーズ怒っても知らないよ?」

 「イヤならおめー一人で帰ってもいいんだが」

 「…えーと、たまにはいいかと思う」

 「そりゃ結構」


 ま、こーいうやりとりが出来るくらいには、俺とコイツは気易い関係なのだとは思う。




 …といって所詮は多少道草食う程度の話なので、ホームセンターで目立ての品を買い求めた後は、夏休みらしく店頭の屋台で売られてたかき氷を買い食いしていた。


 「やっぱりブルーハワイが一番だって」

 「ばっかおめー、基本が大事だろ。トッピングしねーんならイチゴかレモン。他には何もいらねえ」

 「小次郎も案外子供舌だよね。この大人の味わいってのが分からないのかなぁ」

 「ほー、えらく煽るじゃねえか。ならトッピングありのマシマシなら何がいいかで勝負しようじゃねーか」

 「望むとこよ。じゃあいっせーの、で、言うからね」

 「おうよ。いっせーの…」

 「ミルク金時!」「宇治金時!」


 「………小次郎。おじさん味覚」

 「………おめーこそ練乳だとかガキの舌なんじゃねーの、っていうかさっきと言うこと逆じゃねーの?」

 「……だよね。まあ別に何が好きでもいっか」


 すっかり冷静に戻り、かき氷というよりも色と甘味つき氷水になってしまった液体の入っているスチロール容器を眺める。溶けただけでこんなに不味そうに見えるのも大概な話だと思いつつ、それを一息で飲み干した。

 正宗も隣で似たよーなことを考えながらか、なんとも難しい顔をしながら同じように容器を空にしていた。


 備え付けのごみ箱に空き容器を捨てる。


 「…えっと、用事済んだけど。帰る?」

 「そうだなあ…そろそろ庭掃除始めねーと、午後の日差しはちとキツイしな」

 「手伝おうか?」

 「後が怖いから遠慮しておく」


 引き換えに何を要求されるのか分かったもんじゃねーし、と思ったのだが、意外なことに正宗は、「そーいう言い方ないんじゃない」とむくれた顔をしていた。もしかして本心の親切心からの申し出だったのだろうか。だとしたら悪いことを言ったかな、とフォローの必要を覚えた時だった。


 「…きみたち萎びた夫婦じゃあるまいに、ホムセンでデートとかもう少し場所を考えた方がよくない?」

 「最初から最後まで突っ込みどころしかないアイサツだな、おい」


 顔を見ずともその発言内容で誰だか分かる。浅田だった。


 「あれ、ひーちょ?なんでこんなとこにいるの?」

 「部活の自主活動、ってかこれから行くとこなんだけど。体育館まわりの草むしりを運動部の持ち回りでやってるのよ。私は道具の買い出しで寄ったとこ」

 「ほー、また感心なこった」


 日曜だからかこれから学校に向かうという割には私服姿である。まあ別に浅田の私服なんぞありがたくも何ともないので、どんな格好してるのかは割愛する。


 「二人は何してたの?」

 「小次郎の買い出しに付き合わされてた。もー、買い物くらい一人でやればいいってのにねー」

 「おめーがついてくるって言い出したんじゃねーか。勝手に事実をねつ造すんな」


 学生にゃ夏休みだが、世間にとっては普通の日曜日だ。朝もはよからホムセンは来客が入れ替わり立ち替わりしていて、こんな場所で立ち話は他所様に迷惑である。

 二人を促して、ついでに日陰に移動する。

 浅田は、相変わらずだねぃ、と呆れたように笑ってた。


 「…あ、そうだ。ひーちょさ、バイトのクチとか心当たりない?」

 「バイト?ムネがするの?」

 「あたしじゃなくってさ、最近小次郎のとこに居候が増えて。その人の働けるとこ探してたんだけど」


 おい、いきなり何を言い出す。

 慌てて正宗の背中をつついて止めるが、こちらのことなんぞ無視して話を続けやがる。


 「心当たりねー…無いこともないけど、どんな人か分かんないと奨めようもないし」

 「それもそっか。じゃあ一度会ってみない?いろいろ面白い子だから」

 「まあ遊びにいくついでみたいな話ならいっか。どうする?午後から暇だし」

 「じゃあお昼行くついでに、とかでどう?」

 「おっけー。部活終わる時間後で連絡するから、学校で待ち合わせする?」

 「いいよ。じゃあ連れてくから」

 「ん、分かった。私行くから、後でねー」

 「りょーかい。がんばってねー」

 「草むしりだっつーの」


 勝手に進んでいく話。俺が呆気にとられている間にそれはまとめられてしまい、なんともイヤらしい顔でこちらを見て去って行く浅田を、ただぼけーっと見送ることしか出来なかった。


 「……おい、どういうつもりだ」

 「どういうも何も。シュリーズもさ、小次郎のとこに世話になってるんだから、早い内に顔合わせておいた方が誤解も無くていいんじゃないかな、って」

 「誤解?別に誤解する余地なぞ無いだろが。万一顔合わせても親父関係だ、つっとけば納得するだろ」

 「まあそうなんだけど、シュリーズに知り合いというか友達増やしておいた方が、さ」

 「…あいつの立場考えると余計な顔見知り増やさない方がいい気もするけどな…」

 「小次郎さあ、そういう寂しいこと言うもんじゃないと思うよ?シュリーズの立場とか確かにややこしいとは思うけど、すぐに解決するもんじゃないなら、いる間くらい楽しく過ごせたほうがいーんじゃない?」


 …正論だ、とは思わないが、ただコイツがシュリーズのためを思ってやったことだというのは、理解した。

 まあ俺も別に、部屋に閉じ込めておきゃいいと思ってるわけでもねーし、そもそも稼ぎの道を考えろ、と言ったのは俺の方だ。

 だったらここにいる間くらい、交遊を広めるのは悪い話じゃないんだろう。多分あいつの気質からして、そーいうのを嫌うとも思えんし。


 ここにずっといるわけにもいかないので、家に帰る道を歩き出す。正宗も黙ってついてくるのだったが、それはそれとして俺にも思惑っつーか気がかりが無いわけでも無い。

 午後からは俺の他はシュリーズ、正宗と浅田か。ラジカセはいるがこれを員数にカウントしていいのかどうかは難しいところなので、俺以外全員女子ということになる。

 …うん、居心地悪そうだな。

 ピタ。


 「…もう一人連れてくか」

 「えー?なんだって?」


 俺が立ち止まったので隣の正宗が聞き返す。


 「いや、一応言ったからな」

 「?だから聞こえないって」


 聞こえなかったのは正宗のせいだっつーことで。

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