第114話 飛行機

「千奈、ここまで降ろして。」


「はい。」


 そう、亜里沙さんが言うと、UFOがゆっくりとその巨体を降下させ始めた。

 大きい巨体が降りてくる。私がいた時代の飛行機は幅がない。だから長さは同じくらいだろうが幅がその体躯を巨大に思わせる。

 それ程の巨体が降りてきていると言うのに何の音もしない。風も吹かない。現実感がない。表面は淡く金色に輝き太陽光を反射させている。


 そしてそれは頭のすぐ真上にまで降りてきた。


 浮かんでいるのに強い力で押しても全く動かないような、その場所に固定されているように感じる。


 すると音もなくドアが開きタラップが出てきた。タラップも金色に輝いている。まるで灰色で頭と目がでかい小さい生き物が降りてきそうだ。


「入るわよ。どうぞ、彩香さんも入って。」


 さすがの信長の妻だ。身体は小さいのに態度は巨大だ。


 階段を上がり中へ入ると最初のドアを通り過ぎ、その上階へと案内された。そこには今までいた世界のようにフローリングが貼ってあった。玄関があった。下駄箱があった。


「ここでスリッパに履き替えて。スリッパは綿で作ってるから。あなた専用にして。」


 スリッパに履き替え廊下を奥へと進む。壁は淡い金色で、まるで行ったことはないがラブホテルをイメージさせる。


「この壁って外側と同じ色ですよね、金ですか?」


「これはヒヒイロカネっていう、金属を合成したものよ。」


「へー、そうなんですね。」


 何だろ?ヒヒイロカネって。一応驚いたふりしてみたけど。


「あなた、知らないなら知らないって言った方が良いわよ。」


 げっ!バレてた。


「す、すいません。」


 相手は子供なのに、迫力に負けて敬語で話してしまう(T_T)。


「魔力を貯める金属よ。」


「え?魔力を貯めるんでうか?」


「そう。それを利用できるのよ。」


「私も魔法使えますよ。」


「ほんと?どれ位?即戦力になればいいのに。今朝鮮との間で戦争が持ち上がっているから使える人が必要なのよ。」


「はい。私はロープを火できれますよ。」


「は?」


「だから、ロープを火できれます。」


「大丈夫。悲観しなくてもそのうち強くなれるわよ。」


「やっぱり悲観するようなことなんですか?」


「残念だけど。」


「亜里沙さんはレベルはいくつですか。もうかなり上がってるんでしょうね。」


「何よそれ?レベルなんて無いわよ。あのバカが新しく始めたんでしょうね。」


「え?レベル無いんですか?どういう事?」


 廊下を抜けると、広いリビングが出現した。大きなテレビがありソファーがあり、本当に過去に転移したのかと疑ってしまう。


「彩香、コーヒー飲む?」


「え?コーヒーあるんですか?」


「あるわよ。アフリカまで行って採ってきたんだから。つい先日、沖縄にコーヒー農園作ったから何時でもコーヒーが飲めるようになるわよ。未だ木は一本も植えてないんだけどね。」


「それならもしかしてコーラない?の、喉が渇きすぎて・・・。」


「自家製コーラならあるよ。千奈持ってきて。」


「はい。既にこちらに用意してます。」


「さすが千奈、先を読んで何時も用意してるんだもんね。敵なら怖いよ。」


 コーラがテーブルの上に載せられた。久しぶりの美味しい飲み物だ。

 一気に飲み干した。味なんか分からなかった。それ程一気に飲み干した。ただ美味しかった。久しぶりの文明の香りに涙が出た。


「お代わりありますよ。」


「あ、頂きます。」


 そう言って私は涙を流しながらいつまでもいつまでもコーラの余韻を味わっていた。少し変わった味のコーラの余韻を・・・


「ねぇ、彩香。ところでかなり臭うよ。お風呂に入ってきたら。」


「え?お風呂あるんですか?」


「当然でしょ。千奈案内してあげて。厚熜こうそうくんはコーラのお代わりは大丈夫?」


「もう一杯くれよ。」


「ところで今日、盧将軍は?」


「仕事してるだろ?兵の訓練だな。」


「彼が作戦を練るわけだよね?呼んで良い?」


「あー良いぞ。」


「ちょっと行ってくる。」


 そう言うと亜里沙さんは消えてしまった。え?え?え?


「何が起こったんですか?」


「あれは転移して盧将軍を連れに行ったんだ。」


「魔法ですか?」


「そうだな、魔法だ。」


「そんなすごい魔法を使える人もいるんだ。」


 皇帝厚熜こうそうさんは皇帝とは言いながら凄い気さくに話してくれる。やはり元日本人だからだろう。これが生まれながらの皇帝ならこうは行かないのだろう。

 しかし、神は言っていた。元の世界には魔法がないから徐々に魔法に慣れていくと。だからこの世界に生まれた亜里沙さんはすごい魔法が使えるのだろうか?


「厚熜さん、この世界の人は皆さんすごい魔法が使えるんですか?」


「いや殆どの者は魔法さえ使えない。転生者の特権のようなものだ。転生者でもほとんどのものは強大な魔法を使えるわけではないぞ。」


 話をしていると亜里沙さんがまた現れた。隣には同じ年くらいの男の子と一緒だ。あの子が将軍?


「陛下!置いてかないでくださいよぉ〰。僕もここに来て昔を思い出してくつろぎたいんだから〰。」


「えーい、ぅるさい!彩香、コイツは盧将軍だ。」


「え?こんなに小さいのに将軍なんですか?」


「こいつは今この明で一番強い。俺は世界で一番強いんじゃないかと思っているんだがな。」


「そんなに?魔法が使えるんですか?」


「いえ。魔法は使えません。僕は剣が使えます。剣士です。そしてこのカタナはこの飛行機の一階で製造されたヒヒイロカネの剣です。」


「日本刀じゃないんですか?」


「いえ、日本等は製法と材料が決まってますので、この剣は日本刀ではありません。形は一緒なんですが、性能はそれ以上ですよね。」


「この飛行機もヒヒイロカネで出来ているらしいですがどんな効果が?」


「魔力を込めると剣に付与された魔法をすることが出来ます。」


「でも、魔法は使えないんですよね。」


「はい、魔法は使えないんです。剣を振れば剣に付与された魔法が効果を発揮します。彩香さんはどんな能力を貰えたんですか?」


「はい。魔法を少々。」


「ほぉー、凄いですね。どんな魔法を?」


「火とか水とか氷とかですね。」


「攻撃魔法ですね。良いですね、何もなくても魔法が発動できるんですから。それでどれ位の威力ですか?」


「ロープを火できることが出来ますよ。」


「ほ、本当に少々ですね・・・」


「え?やっぱり少々なんですか?未だレベルが4で低いからですかね。」


「レベル?レベルがあるんですか?レベルが上がると強くなるんでしょうね。しかし、彩香さんは千奈さんと同じくらいでかいですね。」


「でかいって言うなぁ。いえ、言わないでね。あんたが低いだけでしょとも言わないから。身長は日本人にしては高いだけでしょ。」


「僕は未だ子供ですからね。これからですよぉ〰。」


「ねぇ、彩香、もうお風呂入ったの?」


亜里沙さんが話の腰を折って割り込んできた。


「いえ、未だ。千奈さん案内お願い。」


「付いてきてください。」


 ついていくと壁の前で止まった。壁?と思っているとエレベーターだった。エレベーター乗ったら上昇したので三階のようだ。エレベーターを出ると右側にドアがあった


「ここが亜理砂様のお部屋です。煩くすると虐められますから気をつけたほうが良いですよ。」


「やっぱり、いじめるんですか、亜里沙さん?凄くそれっぽいですよね。」


 すぐ左に曲がると左側に浴室のドアがあった。


 中へ入るとかなり広い。浴室は蒸気が立ち込め壁が見辛いほどだ。


「シャワーもお風呂の温度も、もし要望があれば声で言ってもらえれば私が調整しますので。」


「え?一緒に入るの?」


「いえ。私は入りませんよ。この飛行機のAIが私ですので,そのAIが命令に従い温度を調節したりシャワーを出したりします。」


「え?千奈さんがAI?ロボット?」


「はい。私の端末みたいなものです。それでは私は下へ降りますので。ごゆっくり。」


 この世界へ来てはじめてのお風呂だ、何日ぶりだろう。温かさが体に染み渡る。

 お風呂に浸かっていると、この世界へ来てからの事が思い出される。一体何日彷徨っていたのだろう。何日経ったのかさえわからない。売られて山賊に襲われて人が殺されて、何日も砂漠を彷徨って。魔法は使えるけど役に立たない。悪者が来たら魔法で簡単にやっつけるイメージだったのに。

 レベルが上がれば強くなるって言うけど、誰もレベルのことを知らないし、それでも転移魔法を簡単に使ってるし。やっぱり、転移してきたからだよね。転生した人は最初からフルパワーってこと?私も転生にしてもらばよかった。でもそうすれば星人ほしととは会えなかったのだろうけど・・・って今も会えてないし!どうなってるの?


「千奈さん?」


『はい?なんでしょう』


 スピーカーから声が聞こえた。


「神様に言われて私を助けに来たって言ったでしょ?だったら、星人のところにも助けに行ったの?行ったのなら星人がどこにいるか知ってるの?」


『はい、勿論知ってますよ。』


「ほんと?どこにいるの?」


『それは教えてはいけないことになってます。』


「なぜ?教えてくれないの?」


『韓国ドラマでも大事なことを主人公は知らせてもらえなかったりするでしょ?それと一緒です。』


「どういうこと?」


『簡単に合わせたら詰まらないだろと仰ってましたから。』


「え?誰が詰まらないの?」


『勿論、神様が詰まらないからですね。そのうち会えますよ。頑張って探して下さい。』



 畜生、それくらい教えてくれてもいいのに。久しぶりのお風呂と久しぶりの安心が眠気となって私を襲った。私は意識を手放した。




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