第113話 到達
砂漠の夕方、一気に熱が引き辺りを寒さが包み込み始める。その間の束の間の心地よさが身体を包み込む。ゆっくりと見つけた灯りの元へと近づく。
前のオアシスの村では売り飛ばされた。今度の村でもそうならないとは限らない。用心に越したことはない。ゆっくりと用心深く近づく。辺りは未だ明るさが残り村の中の様子がわかる。
更に近づいていく。チラホラと人が見える。
小さな子供と母親だろうか、井戸の周りに三人いる。
少し離れたところには警備だろうか、二人で槍を持ち巡回しているようだ。腰には青龍刀を括り付けている。顔もどう見てみても友好的には見えない。
ここは逃げたほうが良さそうだ。
そおーっと、そぉーっとぉ、おっと。後ろに二人別の警備が槍を私に向けて立っていた。
また捕まってしまった。あのハエ、ちゃんと偵察してくれたら捕まらなくても済んだのに・・・、クソバエめ・・
「你正在这里举行什么?(お前はここで何をしているんだ?)」
なんて言ってるかわからない。
「お腹が減ってるの。食べ物を分けてくれませんか。」
前回と同じようにジェスチャーを付けて話した。
「是哪里的少数民族、不知道语言。在这里来。(どこかの少数民族だな、言葉がわからない。こっちに来い。)」
手を動かして付いて来いと言っているようだ。ロープで縛られることもなかった。見た目に反して友好的なのだろうか。
警備についていくと先程の子供と一緒にいた母親がいた。雰囲気から警備の妻のようだ。
ご飯を出してくれた。
唯一知っている中国語で感謝を伝えた。
「しぇーしぇー。」
「不要客气(遠慮はいらないわ)想去哪里?(どこへ行きたいの?)」
ん〰、なんて言っているかわからない。
「私日本に帰りたいんです。でも言葉がわからなくて。」
「对不起、不知道正说什么。也许有在北京,能理解你的语言的人(ごめんね、何を言っているか分からないわ。もしかしたら北京にあなたの言葉を理解できる人がいるかも知れないわ。)」
「ごめんなさい。言葉がわからない。」
「官员带到北京吧。(役人に北京まで連れて行ってもらいましょう。)」
食事を終えると、動物の皮で作ったベッドに案内された。ここで寝ても良いようだ。久しぶりにぐっすり眠れそうだ。
朝、昨日見なかった人達がいる。
「这个人是官员。带你到北京。(こちらはお役人よ。あなたを北京まで連れて行ってくれるわ。)」
なんて言っているのかわからない。きちんとした身なりや態度から盗賊や人身売買の人たちではないと思える。役人だろうか。
「到北京去。跟来。(北京まで行くぞ。付いて来い。)」
手振りで付いて来いと言っているようだ。優しい笑顔が悪意を感じさせない。私にとって不都合なことにはならないだろう。ついて行こう。
役人とその護衛につれられて私はラクダに乗せられて砂漠を行く。月は出ていないが、夜でもないが、そんな歌を口ずさんでしまう。
その日の夕方とうとう砂漠を越えた。その日は宿に泊まった。皆の言葉は分からないが親切だ。
次の日、ラクダから馬が引く馬車に乗り換えて進んでいく。砂漠ではなくなったとは言え村から村までの間はなにもない。ただ道はできている。横は森だったり平原だったりたまに村が見えたりする。そんな田舎道を進んでいく。私は少しでも魔力をたくさん使えるように馬車の中で外に向かって火を出したり水を出したり魔力を尽きるまで使い続け、魔力が戻ると待たなくなるまで使った。だって何もすることがない。
その日の夕方城郭都市に到着した。
都市の周りを城郭が囲んでいる。外敵の侵入を防いでいるのだろう。さすが中国だ。多分中国だ。こうなってくると万里の長城が見たいと思う余裕が出てきた。でも何ヶ月もかけないと万里の長城など見れないのだろう。中国は広いから仕方がない。
城郭都市では街の中を見学することが出来たが言葉がわからないので結局ちょっと街中を散策しただけで宿へ帰って寝た。
次の日も昨日と同じ光景が続く。ただ村の数が多くなった気はする。
その日は小さな村に宿泊しさらに次の日も同じ光景が続く中を進んでいく。昼過ぎ頃また城郭都市に到着した。今日もここで宿泊になるのだろう。
城郭都市は一昨日宿泊した城郭都市より豪華な門があり、潜ると綺麗に区画整理された街が出現した。その中を馬車は進んでいく。いくつかの門を潜りやっと馬車を降りると、ここで宿泊するのかと思い建物を見ると宿泊するには豪勢なお屋敷で、まさかこの豪華な屋敷の主人に買われたわけじゃないだろうなと考えたが、役人の顔を見ればそうは思えない。役人に付いていくと一際豪華な建物の中に連れてこられた。
一際豪華な建物の中に一際豪華な服を着て一際豪華な服を着た女性を沢山侍らせた四十歳くらいの男がその真中にいた。
「お前は日本人か?日本語が話せるらしいな?」
「え?日本語がわかるのですか?教えてください。ここってどこですか。」
「俺は元日本人だったからな。日本語が話せる。日本の友人もいるからな。ここは紫禁城。北京の紫禁城だ。お前はなぜあんな砂漠の真ん中にいたんだ?」
「信じてもらえないかもしれませんが、私は未来から来ました。話しによれば別の世界らしいのですが、神が私を轢き殺してこの世界に転移させてやると言ってたのですが転移した場所が砂漠の真ん中だったんです。」
「そうか、あいつはまた轢き殺したのか。運転が下手なのか故意なのか分かったもんじゃないな。」
「あいつ?もしかして神様を知ってるんですか。」
「知ってるぞ、俺もこの世界に転生してきたからな。お前と違って俺は転生だがな。」
「あなたも日本人だったんですね。それで日本語が話せるんですね。」
「そうだ、正解だ。」
「お願いがあるんですが、日本へ行きたいんです。今の時代だとどれ位かかるかわかりませんが、海を渡って日本へ行きたいんです。」
「どうして日本へ行きたいんだ?」
「私の彼氏も転移してきたんです。何でも神にスカウトされたとかで。それで日本にいるんです。最初私も一緒に来る予定だったのですが神に殺されて一日早く転移してしまって、その場所がゴビ砂漠だったんです。」
「そうか、大変だったな。あの神はどこか抜けているな。それとも全て故意にやっているのかもしれないが。」
「それであなたは誰ですか。」
「俺は明の皇帝
「皇帝なんですか。皇帝に転生するなんて羨ましいです。それで日本へ送ってもらえませんか。どれ位かかりますか?」
「送ってやるぞ。俺が送れば数時間だな。」
「え?そんなに早いんですか?私騙されてませんか?」
「騙してはいない。しかし、迎えに来てもらったほうが早いな。ちょっと待て。」
皇帝は黒いものを耳に当てて話し始めた。
「亜里沙か?ちょっと日本人が未来からこっちに転移してきてるんだ。そっちに連れて行ってくれないか。あ、分かった待ってるぞ。」
「え、それって携帯電話?なぜ、携帯電話がこの時代にあるんですか。」
「作ってもらったんだ。千奈に。」
「千奈?ハエ?ハエの千奈ですか?」
「ハエ?千奈がハエ?あーはっはっは、千奈はハエじゃないぞ。ハエはドローンだ。お前は何年から来たんだ?」
「2010年です。」
「2010年か。だったらドローンくらい知ってるだろ。しかし、この世界には2010年にはないものも沢山あるぞ。後で驚くんじゃないのか。お、来たか。」
皇帝が私の後ろを見ていたので振り返るとプラチナブロンドの綺麗な私と同じくらいの高い身長の白人さんが日本人らしき子供を連れて立っていた。身長170cm以上有るようだ。
「その、白い頭の女性が千奈だ。」
「え?千奈?千奈さんですか?」
「そうですよ。私が千奈、ハエ型ドローンであなたと交信していたのに私をハエだと言うから通信を切断したんですよ。でも、ハエ型ドローンがあなたをずっと監視していたからイザとなれば助ける算段は付いていたんです。」
「エー、でもハエじゃ助けられないですよ。」
「あとで分かるわよ。私は亜里沙よ。私も転生してこの世界に来たの。今は織田信長の妻やってるわ。今の名前は帰蝶よ。でも帰蝶って呼ばないでね。不評だから、主に旦那からだけど。」
「き、帰蝶さんですか?あの?織田信長の妻の?マムシの道三の娘の?」
「そんなにいっぱい枕詞は要らないわよ。ところで中華料理ごちそうしてよ、
「厚熜くんって、皇帝を君付けするな!まぁ、ご馳走してやる。有り難く思え。」
「あっ‼大事なこと忘れてた。神の目的がわかったわよ。それに伴って今大変な自体になってるの。チナチアットでコーヒー飲みながら説明するけど来る?」
「何だ大変なことって。まぁ、チナチアットで聞くか。おい、転移してきた日本人、名前は?」
「彩香です。一ノ瀬彩香です。」
「彩香も来るだろ。」
「はい。でもチナチアットって何ですか?」
「チナチアットは飛行機よ。」
「ひ、飛行機?飛行機が有るんですか?1545年って聞きましたよ。」
「お前がいた時代にないものも有るって言っただろ。」
「え?飛行機はありましたよ。当然ですよ。」
「そうか?亜里沙、外側から見せてやれよ。」
「良いわよ。こっち来て。」
小さな中学校に入学したばかりの少女に外へと促される。帰蝶と言っているが皇帝が言っているから間違いないのだろう。そもそも皇帝が本物かどうかもわからないが。
外へ出ると少女は空を見上げている。
私も少女の見ている方を見る。
驚愕した。
すると、そこには丸く光るものが浮かんでいた。
上空20m位だろうか。すぐそこに浮かんでいた。
「UFO!UFOがいる!」私は興奮した生まれて始めてみたUFOに。少女も外へ出てきたらUFOがいたから上を見ていたんだろう。
「あれよ、あれが飛行機。チナチアット。」
「はい?」
「だからあれが私の飛行機。」
「飛行機?翼がありませんが。」
「未来では、翼がある飛行機のほうが『鳥じゃないんだからなぜ翼がある』のと言われるらしいわよ。」
「そ、そうなんですか。」
私は目が点になっていた。ここは過去だったが、既に未来だった。
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