第93話 コーヒーが飲みたい 2
ここはアフリカのエチオピア、そして将来その首都となるアディスアベバ。標高が2000メートル超えているとはいえ赤道より少し北へ行った場所にある為、直射日光が沖縄よりも強烈だ。とはいえ、標高のお陰で日影は涼しく過ごしやすい。
帰蝶たちが降り立った場所は将来首都になるとはいえ現在はただの小さな街だ。ただ、アフリカの伝統的な住居、例えばマサイ族の牛フンと土で作った家やマッシュルームハウスと呼ばれているマラウイの小さな土壁と草葺きの家等ではなく普通の建物が立っていた。
「千奈、どうして、普通の建物が経ってるの?モンゴルのゲルの様な建物が無い。」
『はい。ここは現在エチオピア帝国だからです。ですが、以前アダルがエチオピアに対して「聖戦」を布告し、オスマン帝国の援助のもと、一時はエチオピアの領土の大部分を占領しました。しかし、一昨年、皇帝ガローデオスはポルトガルの支援を受け、タナ湖付近でアダル・トルコ連合軍を打ち破り勝利したりと政情不安定です。約10年後にはオスマン帝国にエチオピア帝国の半分が占領されてしまいますし、ポルトガルもエチオピアの植民地化を狙ってます。何処の軍がいても可笑しくありません。気を付けた方が良いでしょう。』
「そんな危険なところに連れてきたの?」
『いえ、私はモカコーヒーが欲しいと言われた亜里沙様のご要望にお応えしただけです。それに亜里沙様なら大丈夫です。』
「何?危険なの?」
突然の亜里沙の『危険』発言に梨乃は不安な表情で叫んだ。エリカは最近危険な目に遭ってばかりだったので危険な状況に慣れてしまったようだ。
「梨乃、大丈夫だよ。亜里沙が何とかしてくれるから。」
「でも、亜里紗って、信長の付き人でしょ。単に重力魔法と転移魔法が使えるだけの。」
「失礼ね。」亜里沙は少々気分を害されイラついてしまった。
「ごめん。重力魔法と転移魔法は転生者でも使える人が殆ど居ない凄い魔法だよね。『使えるだけ』って言うのは不適切よね。でも普通はひとつでも使えたらすごいのに二つも、しかも両方とも凄い魔法持ってるんだから。」
「い、いえ、そう言う意味じゃウンンンッ・・・」亜里沙は攻撃魔法まで使える事が皇帝に知られるのは不味いと思い途中で口を
亜里沙は梨乃が離れた隙にエリカに近づいた。
「梨乃には私がほかの魔法が使える事は内緒ね。魔法二つまでってのが普通みたいだし。」亜里沙はエリカに耳打ちした。
「オッケー、皇帝に知られちゃまずいもんね。いくら同盟国とは言え。しかも、梨乃って空気読めなさそうだし。」
「同盟国でもいつか敵国になるかもしれないからね。梨乃がダーリンの嫁になるなら話は別だけど、所詮は外国の、しかも王妃だからね。」
「そうだね。気を付けよう。」
そこへ、梨乃が走って近づいて来たトイレだったのだろうか。
「大変!兵が追い掛けてきた‼弓持ってるよ‼」
「走れ‼」と亜里沙。
「「いえ、転移してよ。」」その発言に二人が突っ込む。
三人は最初に降り立った地点へと転移した、兵はどんどん遠ざかって行った。
「ねぇ、さっき二人で内緒話してたでしょ?」梨乃は不満げだ。
「それは、当然よ。だって、私達は同盟国とは言え別の国の人間だし。それにあなたは皇帝の妻、皇帝に知られてはいけない情報もあるのよ。それが国でしょ。あなたが信長の妻になるのならすべて話せるかもしれないけど。皇帝の妻だと話せない事も出て来るのも当然よ。」
「そうかぁ。ドラマは見れない、乗物は馬車、内緒話は仲間外れか。寂しい(T_T)」梨乃は
「ねぇ、私を何としてでも信長の妻にしようとしてない?ならないと損よという雰囲気を醸し出しているというか。買わないと損だと思わせる詐欺師の手だというか。」さすが計算高い梨乃だ。人も計算高く接してくると思っている。浮気している女性は男も浮気していると思ってしまうのと一緒だ。間違っては居ないが・・
「気のせいだから。そんな事してないから。考えすぎよ。だったら、妻になれとは言わないけど、一緒にヨーロッパに来る?そしたら一緒に遊べるよ。」
「え?いいの?行く!ヨーロッパに一緒に行く!」
「皇帝は良いの?」
「いいよ。だってまだ結婚するって決めてないし、おじさんだし、話してもつまらなさそう。」
「じゃぁ、取り敢えず、コーヒーの木探しに行こうか。千奈、どっちに行けばいい?」
『大変です。囲まれてます。』焦った様子もない平然とした千奈の声が亜里沙の耳に聞こえた。
「大変、囲まれてる。」亜里沙が二人に向かって叫んだ。
既に時遅く、周りには沢山の兵が居た。
敵の将と思われる、豪華な服を着た四、五十代だと思える長身の男性が何語かで叫ぶ。何を言っているのか意味はわからないが、想像はつく。その時、ふと亜里沙に良からぬ考えが浮かんだ。これはこの機会を利用すれば中国の皇帝やその部下の盧将軍や他の能力を持つ将の情報がわかるかもしれない。梨乃は転生者には一つか二つの能力があると言っていた。私は皇帝
亜里沙はエリカに耳打ちした。
「(小声)エリカ、能力を内緒にするから、私の能力については何が有っても内緒にして。」
「(小声)分かったよ。」
「(謎の言語)【おい、お前らは誰だ?東洋人の様な顔をしているな。明らかにこの辺りの人間じゃない。ここで何している。】」
「千奈、聞いてる?あいつらの言葉訳して。」
『はい。了解しました。彼らの話している言語はオスマントルコの言葉です。どうやら、オスマン帝国の軍人かと思われます。』
「(オスマントルコ語)【おい、聞いてるのか?言葉がわからないのか?】」
「ごめんなさい。言葉がわからないわ。」千奈の訳が聞こえないエリカが叫んだ。
「日本語か。お前らは日本人か?」突如将と思われる男が日本語で話し始めた。
「日本語がわかるの?」
「そうだ。俺は日本に住んでいたからな。なぜ、日本人がこんな時代にアフリカまで来れるんだ。多分お前らは転生者だな。そして何らかの能力でここにいるのだろう。」
「そうよ。あなたも日本人ね。同じ日本人同士仲良くしましょうよ。」
「そうだな。昼食を食べる予定だったんで近くのキャンプに用意してある、一緒にどうだ?」
「喜んで頂くわ。」
その男はエリカと梨乃を交互に見ているが亜里沙は子供だと思っているのかあまり目を合わせない。亜里沙はその行動に少々不穏なものを感じたが多分私の嫉妬心からだろうとその感情を切り捨てた。
二十分ほど歩くと軍がキャンプしている場所に来た。
既に、その男の為に昼食が用意されていて三人はその男と共にそのテーブルに着く。彼が小声で執事に指示すると、新たに彼女たちの食事が配膳された。
食事をしながら彼はとつとつと話し始めた。
「俺は、オスマン帝国の第十代皇帝スレイマン一世だ。」
「え?皇帝だったの?」三人は声を揃えて驚いた。
「ここには、エチオピア帝国の偵察に来たんだ。もちろんぶつかれば戦う。しかし、日本語でしゃべるのは、今生では初めてだ。日本人に会えて本当に嬉しいよ。」
「そう言って頂けて、私も嬉しいです。」エリカが答える。
皇帝は、やはり、エリカと梨乃を交互に見て話している。二人を気に入っているようだ。
「うっ!」突然、梨乃が噎せた。
「梨乃、詰め込みすぎ?うっ。」エリカも噎せた。
「体が痺れるぅ〰。」
梨乃が叫びを発したが大きな声にならないほど体が痺れている、しかし私はなんともない、一体何がどうなってるのかわからない、エリカも痺れているようだ。薬をもられた?だったら、私も痺れるはずだがまだ痺れていない。だが痺れている振りをすべきだ。そう判断した亜里沙も二人に習ってテーブルに突っ伏した。これで、計画通りだと思いながら・・・
「薬が効いたか。お前らが日本人で本当に嬉しいよ。俺は西暦2200年から転生してきた中国人だ。俺は前世、日本で市長をしていたんだが、奇しくも、お前とおんなじエリカという高校生の女から花瓶で頭を殴られて殺された。同じ名前の女に復讐してやるぞ。それにお前ら日本人は俺たち中国人の性奴隷だ。ここでも同じだ。俺はいつか日本を征服してすべての日本人の女を性奴隷にしようと考えていたんだ。お前らはその手始めだな。クックックック」
「な?・・」
エリカは声にならない怒りを発し、憤怒に満ちた目でスレイマンを睨んでいた。
亜里沙は思った。「どこかで聞いた話?どこだっけ?」
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