第81話 カリーヌ
カリーヌとマルガリータの二人は学校へ帰って来た。彼女たちは泣いてはいなかった。二人で恐怖の体験を乗り越えたことで二人のきずなは強くなり、マルガリータに何としてでもカリーヌを守ろうと決意させていた。
教室へ戻ると室内が静かになった。全ての人間がカリーヌとマルガリータを見た。帰ってきたことに対して不満があるというより、連行させた事がやり過ぎだと言うような面持ちでブノワトに対して不満があるようにカリーヌとマルガリータとブノワトを不安げな表情で交互に見つめている。唯一ブノワトだけがうすら笑いを浮かべ二人を馬鹿にしたように見ていた。
「何よ帰って来たの?もしかして、衛兵から逃げてきたのかしら。早く牢屋へ帰りなさいよ。あなた達には牢屋が御似合いよ。誰か衛兵呼んで来て。」
教室中に薄ら笑いが伝搬していき、馬鹿にしたような笑いが教室中を満たした。ブノワトとは言え伯爵家の威光には皆逆らえないようだ。
マルガリータは我慢の限界に達していた。
「ちょっとあなた達、衛兵は私達を殺そうとしたの。カリーヌは心臓を剣で刺されたのよ。」
「ふざけないで。生きてるじゃない。どうして心臓を刺されて普通に歩いてるの?ゾンビなの?そんな馬鹿な話してあなた子供なの。誰か信用する人がいると思うの。」
「本当よ、通りかかった人が衛兵やつけて心臓を治してくれたのよ。」
「そんな魔法ある訳ないでしょ。そんなのおとぎ話の世界よ。最近のSクラスの人はおつむの程度が悪くなったのかしら。」
ブノワトは挑発してくる。ただブノワトに挑発しているという考えはなく単に頭に浮かぶ相手を馬鹿にする言葉を発しているだけだ。
「もういいわよ。あなたにもカリーヌが治療されているところを見てもらいたかったわ。そしたら、その固い頭も少しは柔らかくなるでしょ。兎に角カリーヌは盗んでないし捕まる理由がないわ。」
「私が見ていたのよ。カリーヌがオドレイの財布を盗むところを。」
「それって朝の話でしょ。私と一緒に登校してきた時には、盗んだという話になっていたらしいけど。どうやって盗むの?私の妹も一緒だったのよ。家には彼女の父親のサボイ男爵も一緒だったわ。私の母もね。当然朝一緒にいたと証言してくれるわよ。」
「家族の証言が証拠になるものですか。」
「それって、家族は嘘つくのが当然だからでしょ。」
「そうよ。」
「だったら、どうして家族の私がカリーヌを匿うような証言をして捕まるの?」
「はい?意味が解らないわ。犯罪者を匿えば捕まるのは当然でしょ。」
「一方は証言が適法行為の期待可能性のない行為だから証拠能力が無いとして、適法行為の期待可能性が無い事を認めてるのに、他方では家族による犯人隠避と言う適法行為の期待可能性のない行為を適法行為の期待可能性が無い事を否定して犯人隠避として捕まえようとしているの?しかも共犯だなんて、共謀の事実はあるの?」
「あ、あなたの言っていることは意味が解らない。馬鹿なの?」
「ま、まぁ、いいわ。兎に角カリーヌは盗んで無いし、私は共犯でもない。」
「私は見たのよ。盗んでいるところを。」相変わらずうすら笑いを浮かべながらブノワトは怒りもせず冷静にマルガリータとカリーヌを見下している。
「盗んだ証拠は?盗んだ財布は何処?」
「証拠は私が見た事、財布はどこかに捨てたんでしょ。」
「その財布が出てきたとして、カリーヌが盗んで捨てたかどうかわからないでしょ。」
「私が盗むところ見たんだから、その財布が捨てられていたら捨てた人はおのずとカリーヌだと分かるでしょ。」
「本当に盗んだら私の指紋が出るなじゃないの?」転生者であるカリーヌは指紋について言及するがこの世界では未だ誰も知らない。
「指紋?なにそれ。」
「ところで。何処で盗まれたの?」再びマルガリータが話し始める。
「この教室よ。」
「何時ごろ?」
「朝8時の鐘が鳴ったころよ。」この国では朝八時から偶数時刻に鐘を鳴らす事になっている。
「私達は朝八時の金がなる頃にはうちでご飯を食べてたわ。裁判が始まれば、あなたの虚偽の告訴が問題になるかもね。」
突如、衛兵が10名ほど雪崩れ込んで来た。
「カリーヌ、マルガリータ、貴様らを衛兵殺害及び国に対しての反逆罪で逮捕する。もう窃盗罪はどうでも良い。これだけで死罪だ。」
死罪と聞いてさらにカリーヌは動揺した。力が欲しい。綺麗なだけでなく魔法がもっと使えるようにと神様にお願いしていれば、そう後悔せずにはいられなかった。マルガリータまで巻き込んでしまった。ブノワトとの
カリーヌとマルガリータは衛兵に鎖で繋がれ国の牢獄へと連れて行かれた。
見ている者は皆一様に不安気な顔をしていた。ただ一人ブノワトだけが笑顔でその光景を見つめていた。
「私に逆らうからよ。」ブノワトは笑顔で呟いていた。
一方遥か遠い東の国、明の首都北京、その紫禁城で皇帝
『成吉思汗,你能做什么?』(チンギスハーン、何するものぞ)そう彼は叫んでいた。
「大変です、陛下。陛下の乗物と同じものが飛んできました。」
「俺が呼んだんだ。連れてこい。丁寧にな。」
十数分後、少年と呼ぶにはまだ若い子供が衛兵に連れられ現れた。
「よく来たな。」
「久しぶりに紫禁城へ来たが中に入ったのは初めてだな。前世で来た事があるんだ。」吉法師はワクワクしていた。
「今日は態度がデカいな。」
「許せ。これが普通だ。それと俺は日本人に育てられたから中国語が話せないんだ。少し理解は出来るんだがな。」
「日本人に山の中で育てられたのか?」
「そんなところだ。ところで、もう侵攻は進んでるのか。」
「今、第一陣の報告を待っているところだ。第一陣は10万人だからな。今日本でそれほどの兵を揃えられる国は無いだろ。まぁ、戦国時代で国が分裂しているのが日本の敗因だな。沖縄から攻めさせてるんだ。その後で俺が沖縄でのバカンスを楽しみにしているからな。」
まさかそのせいで第一陣が敵の手に渡ったことを未だに知らない皇帝であった。
「どのあたりまで侵攻は進んでるんだ。」
「おい敬語で喋ろ、皇帝だぞ。まぁいいか、日本語だし。多分九州を攻め終わって本州の毛利あたりと戦っているかもしれんな。報告が楽しみだが、どうだ、これから行ってみるか?」
「それは良いな。ただ俺はここまで飛んできたんでもう魔力が残って無いぞ。」
「何だ、軟弱だな。俺の部下に飛ばさせるか。」
「部下に、魔法が使えるやつがいるのか。」
「そうだ、そいつも転生者だ。ところでお前の名前は何だ。」
「お、おれの名は、孫権、
「孫権四郎?何だそのふざけた名前は?」
「父親が付けたらしいんだ。俺も良く知らない。転生者だったのかもな。」
「そうか、孫権四郎か。孫〇空とケ〇シロウの強いヒーローを合わせたような名前だな。」
「そうなんだよな。俺もびっくりだったよ。」
「よし、今から日本へ視察に行くぞ。関将軍はいるか。」
「はい。ここに。」
「日本との戦争の現状を見に行って来る。後は任せた第三陣の準備をしておけ。」
「その男とですか?」
「この男は俺の同郷の人間だ。それにこいつが空飛ぶ乗り物を作ったんだ。」
「ほぉ―、それは。この男があの空飛ぶ乗り物を作ったんですか。私も一台欲しいものですな。少年、俺にも作ってくれないか。」
関将軍と呼ばれた、漢民族だと思われる鎧を着込んだ巨体の男が話しかけてきた。
「あー、帰ってきたら作ってみるか。」
「四郎、行くぞ。」
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