第66話 西暦2199年

 山賊は、温泉への道中、人質三人に確認した。


「風呂にいた小さい女のガキが姫様か?」


「そうよ。姫様よ。」


 エリカは帰蝶の能力を知っているので帰蝶に任せれば帰蝶が何とかしてくれるだろうと期待を寄せているので正直に話す。因みに、エリカには相手の能力を知る以外にごくわずかしか魔力が無く敵を倒すことなどできない。もっと力があれば、常にそう望んでいた。


「おい、権兵衛。あいつらがデカい音のする武器で攻撃できないようにお前も剣をこいつらに向けておけ。」


「そうだな。その武器はだけは気を付けないとな。」


 エリカは盗賊の会話を聞きながら昔を思い出していた。



 エリカは2182年、中華人民共和国日本省の省都、大阪都で生まれた。


 日本は、政府の人口増加策が功を奏さず人口は減少の一途を辿った。人口が1億人を切り、国が更に人口増加政策に力を入れ始めようとしていた頃、茅ケ崎沖を震源とするマグニチュード10を超える巨大地震が発生した。地震は津波を起こし首都東京とその近隣を飲み込み、そして地形そのものを変え、関東平野は海の底へと姿を消した。

 この地震により、日本の人口は一気に約6千万人に減ってしまった。


 そんな時であった。日本に対して侵攻が開始された。


 名目は日本支援と称し軍隊を送り込んで来た。勿論ガミ〇スではなく、隣の赤い国であった。

 当然日本は拒んだ。

 しかし、その拒絶に対し、反物質爆弾を北海道に投下。北海道はただの平原へと姿を変えた。日本は核も持たず、その他の抑止力と言えるものを持っていなかった為に中国の何らの躊躇なき侵攻に対して大した抵抗も見せずにその侵略を許してしまった。


 日本は占領され、力を失いつつあったアメリカもこの侵攻に対して異議を唱える事もなく日本における軍事力を撤退させていった。

 そして、西暦2190年大中華帝国日本省が誕生した。


 中国は勢力を拡大させ続け東南アジア一帯と西はトルコに至るまでの、嘗てのチンギスハーンの築き上げた元を彷彿とさせる巨大共産主義連合国家を成立させていた。


 インドとロシアとは戦争が続きインドは抵抗するものの国土の半分が中国に侵攻され国力を低下させていた。ロシアも既にシベリア付近の国土を中国に侵略されている状況であった。


 ヨーロッパは既に中国マネーにより、経済的には中国に支配されていると言った状況であり、アメリカさえも中国に経済的支援を受け中国マネーに支配されつつある状況に陥っていた。


 中国製品が安かろう悪かろうと言われていたのは前世紀の話。今では、中国製品は高級品であり確かな品質と性能を備え、人々はこぞって中国製品を買いた漁った。


 中国は科学的にも軍事的にも世界で群を抜いており、月への行き来も中国の宇宙船によってのみ航行が可能であった。

 中国は世界で唯一反重力推進エンジンを開発し実用化させ、更に惑星間航行エンジンと言うほぼ光速に近い速度が出るものまで開発し宇宙開発を独占している状態であった。

 月の大半は中国の所有であり、月に土地を所有するには中国から土地を購入するという構図が出来上がっていた。中国は宇宙船を木星や土星まで航行させその資源を独占し、その資源を使って莫大な富を地球中から中国に集めていた。既に木星も土星も中国の所有物であり、増えすぎた中国人をそこの衛星へ送り基地を作らせ居住させていた。


 最早、世界に中国を止める事の出来る力は存在せず、中国共産党による地球支配も時間の問題となりつつあった。地球が一つの国家になるのは良いのかも知れない。しかし、それが独裁国家でなければの話である。独裁国家が支配する星であれば話が変わって来る。


 世界各地の中国の領事館のある国に中国は絶大な力を発揮し、その国の政治にも多大な影響力を及ぼしている。


 支配している国、例えば日本に対しては最早選挙は存在せず県知事、市長、国会議員に至るまで、中国共産党が送り込んで来る中国人が占め、その地域の政策を決定していた。


 日本では市長や知事に対する賄賂が横行し、賄賂が犯罪さえも解決していた。日本の中国人高官は視察と称し領地を回り、気に入った娘がいれば否応なしに愛人として囲っていった。


 既に日本人に人権は存在しなかった。


 改憲を主張していたのも今は昔。憲法自体が無くなり、日本は中国の一省ではあるが植民地の様相を呈していた。


 中国人は沢山の日本人の愛人を囲い、それを中国人は大奥と呼んでいた。

 そして、大奥は日本における中国人の高官の数だけ存在し、大奥の所有とそこにいる人数と美人度が日本における中国人のステータスとなっていた。


 そんな中でエリカは生活していた。


 エリカは高校生2年生になった。


 ある日、学校へ行くとクラス中が落ち着きなく騒いでいる。


「どうした?なにかあった?」


 エリカは仲の良いかなり美人の友人でハーフのエライザに聞いてみた。


「なんかね、隣の高校に市長が来たって。それで、校長室に美人を数名呼び出して『無主物先占』だと言って、連れて帰ったって言う話だよ。次はこの高校かもってみんな騒いでるよ。」


「だったら、エライザが一番狙われるかもしれないよ。気を付けないと。」


 エライザはこの高校ではかなり美人の類でスタイルも良く狙われる可能性が高い。


「じゃあ、明日から、頬に綿詰め込んで左右の眉毛つなげて、瞼腫らして、胸にサラシ巻いて、腹にはクッション入れて学校来る。」


『無主物先占』とは民法の法律用語ではなく、未だ中国人のあるじのいない日本人を無主物として、最初に所有を宣言した者の所有物とする宣言であり、中国の日本省特例法により認められた法である。既に日本人は物扱いされている。


「おい、エライザ、お前は目を付けられてないか?お前は今日も胸を強調して、そんなんだったら目を付けられるぞ。しかし、エライザ、今日もエロいゼ。( ̄ー ̄)bグッ!」


 エライザの彼氏のたくみがいやらしい目つきでエライザの胸を見ながら話しかけて来た。


「誰が、エロいゼよ!でも、まだ目は付けられてないけど、校長室に呼び出されるのが怖いよ。」エライザは不安気で既に泣きそうな顔をしながら答えている。


 その時、校内放送が始まった。


『今から、名前を呼ばれたものは至急校長室まで来るように。至急です。拒否は法律により許されておらず、厳罰に処せられます。佐士原理央、南原梨乃、この2名至急校長室まで来るように。』


「来た。来たよ。市長の呼び出し。でも私じゃなかった。これで暫くは助かるかも。」


 エライザは涙目で、今回免れたことを喜んでいるのか、それとも、この学校にも市長の魔の手が及んだことを恐れ嘆いているのか、どちらとも取れないような笑顔とも泣き顔とも取れない複雑な表情で泣いていた。


「大丈夫だ。まだ何とかなる、さっき呼ばれたのは去年の美人コンテストで1位と2位の女生徒だ。エライザはコンテストに出てないから来年までは大丈夫だ。」


 巧はそう言ってエライザを落ち着かせようとするが、あまり自信はない。長と名が付く中国人に見初められれば問答無用で連れて行かれてしまう。中国人は高校で毎年の美人コンテストを催す事を法制化し、その上位者を大奥に入るように指名する傾向にある。

 毎年、大奥ドラフト会議が開催されている。

 そこには、高校や大学の美人コンテストで上位を取り、大奥入りした女性が名を連ねる。そしてそれを指名するのは中国から送られてきた総理大臣など各大臣や高官である。指名されれば、指名した人物からその女性の所属していた大奥の所有者へ多額の金が入る事になる。要は人身売買であった。


「エリカも危ないかもしれないよ。エリカも可愛いから。」エライザは自分と同じ境遇の仲間を増やし、私だけじゃないと落ち着きたいのか、それとも本当に危ないと思っているのか本心は分からないがそう言う。


「そうだね。じゃあ、今から髪の毛ボロボロにしてお歯黒塗りに行こうか。」


 エリカはそうは言ったもののどこか他人事で、自分の前にエライザが連れて行かれるだろう、つまりエライザは私の防波堤だ、私のバリアだと安心しているようだ。


 そこへ、担任の先生がクラスにやってきた。


「先程の、放送で分かっていると思うが、市長が来られて2名の生徒を連れて行かれた。当然、拒否する事は法律で禁じられている。最早日本人に人権はない。しかし、今は我慢するしかない。中国の強大な力の前では涙を呑んで従うしかない。これからも、指名される生徒がいるかも知れない。男子生徒も指名されることが他校ではあったと聞いた。ただ、中国人の大奥に入る事は悪い事ばかりではないと諦める事も必要だろう。中国人は育ってきた環境からか冷酷無比で残忍でたまにやり過ぎて死んでしまう者もいるらしい。しかし、それでも法は日本人を救ってはくれない。最早、法は死んだ。誰かがこの現状を打破してくれる革命を起こす者が出て来ることを期待するしかない。そもそも、こんな事を大っぴらに言えば中国人名誉棄損罪で処罰される。死刑または無期もしくは10年以上の有期懲役だ。お前らはこんなことを大ぴらには言うなよ。この教室にはカメラが付いて常時監視されている。先生はこの後、中国政府に逮捕されることになっているからここでうっぷん晴らしと言う訳だ。お前らは発言には気を付けろ。そして未来を取り戻せ。」


 そう言うと先生はうなだれたまま教室を後にした。外からはパトカーのサイレンの音がこの学校へ向かって来ているのが聞こえて来る。


 エリカは顔の前で両手を組み何時もの様に祈る。


「お願い。デスラー様。流星爆弾を地球に!そして、日本を取り戻させて。」


 中国を壊滅させ、日本を昔のような独立国にするのにそれしか思いつかなかった。

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