第32話 駿府旅行 参
良く晴れた心地よい春の一日がもう終わりを迎え、西の空が黄金色に輝いている海岸沿いを吉法師御一行は東へと向かっていた。
「さすがに夜にライトをつけた状態で走行するのは目立ちすぎるぞ。今日はこの辺りの海岸でキャンプするか。」
「野宿じゃないの。」
「野宿は聞こえが悪いだろ。野宿はせざるを得ない場合、キャンプは進んでする場合の様な気がする。俺たちはやりたくてやるんだからキャンプだよ。」
そう言い、木を集め火を付け燃やす。
「珠、妻木、ご飯炊いて。」
帰蝶が命令する。
ご飯が炊きあがると吉法師は肉を焼き始めた。勿論帰蝶は何もせず、ご飯が出来るのを待っている。典型的な鬼嫁だ。吉法師は彼をを容赦なくこき使う帰蝶を、さすが蝮の娘だと恐れているとともに、常々吉法師はこいつが信長なんじゃないのかと思っている。
「肉が焼けたぞ。食べるぞ。」
肉は猪の肉だ。この時代、日本には胡椒がほぼ入荷しない。存在さえあまり知られてはいない。塩だけで食べる肉は物凄く寂しい。胡椒のありがたみが身に染みる。前世の記憶があるだけに猶更恋しくなる。日本に胡椒があまり入ってこないのは肉食の習慣が無いからだろう。胡椒を使う必要が無く需要が無い為に日本はずっと胡椒の入荷が少ないのだろう。しかし、それは不味い。肉料理を美味しく食べられない。先ずは尾張に肉食を勧め胡椒を販売し、次第に日本全国へ販売網を広げて行こう。それで尾張の経済は潤うだろう。飛行船を作ったら胡椒の買い付けにインドへ行こう
「若様、厠へ行ってまいります。」
そう言うと珠と妻木は林の中へと入って行った。
「なぁ、風呂に入りたくないか。」
「入りたい。涼しいけど、やっぱり毎日入っていると、入らないと気持ち悪いわよね。」
「ハンビーの屋根の上に作るか?運転席の上か、後部の荷台の上か、どっちがいいと思う?」
「やっぱり後部でしょ。入浴時は壁高くして、終われば低くするように作って。それより、今度UFO造ってよ。エンジンは私とダーリン。飛べば道幅関係ないし。」
「なぁ、魔力使ってモーター回すのとは訳が違うぞ。今日車浮かべて少し移動しただけでもうへとへとだぞ。飛行船にしないか。空気を温めて浮かべるやつ。」
「一体到着までに何年かかるのよ。それは、私達がまだ子供だから。訓練すれば余裕でヨーロッパまで行けるんじゃない?」
「え?え?ヨーロッパまで行ける?作ろうかな。」
ふっ、ちょろいわ。と帰蝶は思ったが口には出さない。
「風呂も作って、ベッドルームも作って。出来れば常時浮かべる装置造ってそれに乗っていれば天守閣に住んでるようなものよ。敵もいないわよ、明智光秀何する者よ。」
「って、亜里沙さん、何言ってるの?明智光秀は織田信長を倒してくれる、いわば俺の味方で同士じゃん。」
「まぁ、複雑なのよ。って昔の名前で呼ばないで。」
「きゃーっっっ!!!」
突然絹を引き裂くような女性の悲鳴が聞こえた。
「珠か妻木よ。何かあったんじゃ。行くわよ。早くして。」
「もう人使いが荒いな。」
走って林の中へ入るとそこには五人ほどの村人然とした格好をした若者が珠と妻木を押さえつけていた。
「帰蝶、電撃だ!」
「オッケー、ダーリン。」
あっという間に電気で痺れさせたので五人全員悶絶してしまった。
「珠、妻木無事か?貞操は俺の為に取っとけよ。」
「ダーリン、ドサクサに紛れて何言ってんのよ。珠と妻木は私の物よ。」
「おっ、4Pか?それも良いな。」
「勝手にして。珠、妻木全員縛り上げて。」
「ロープがありません。」
「だったらこいつらの着物の帯で後ろ手に木に括りつけて。」
「珠、妻木、帰蝶から許しが出たぞ勝手にやっていいらしいぞ。」
「そういう意味じゃないから。やったらちょん切るわよ。」
「何を!」
「何を。」
「恐ろしぃ―、やっぱりお前が織田信長だろ!」
「珠、妻木、何であなた達、そいつらを素っ裸にしてから木に括り付けてるのよ。」
「いえ、頭にきたもので。」
珠と妻木が全員を素っ裸にして木に括り付けたので吉法師が尋問し始めた。辺りも暗く、五人組の顔だけが明るく照らされているだけだ。子供だとも気付かない。
「おい、お前らなぜこんなことをした。」
「そりゃ、若いお姉さんがこんなところで用を足していたらふつう襲うよな。」
「なぁ、そうだよな。」
「おい、お前ら反省してないだろ。襲われる女性の身になって考えた事はないのか。」
「女も喜んでるだろ。」
もう何を言ってもこいつらには無駄だなと思った吉法師は襲われる気持ちを分からせることにした。
「今からお前らに襲われる女性の気持ちを分からせることにした。ここに生えている竹をお前らのケツの穴に刺す。そうすれば女性の気持ちが分かるだろう。」
「止めろー、止めないとぶっ殺すぞ。お前を探して絶対にぶち殺す。」
「なぜ、殺せるんだ。」
「当り前だろ。絶対に見つけるからだよ。」
「俺をを殺そうとするやつを
「わ、分かった。も、もうしないから、許して下さい。」
「なぜ、俺がお前らの言う事を聞かなくちゃならないんだ。竹を刺してお前らが
「ちょっと、ダーリン。徳川家康って言ったらだめよ。」
「何言ってんだ。徳川家康は織田信長と組んで尾張を攻めるんだぞ。これで徳川家康の悪いうわさが広がったら、織田信長にも大打撃だろ。俺の天下は近いぞ。」
「いや、天下と言うより自分の罪を他人に転嫁してるだけじゃん。」
「さぁ、帰って寝るぞ。珠、妻木、むらむらしてても俺を襲うなよ。まだ子供だからな。大人になるまで待てよ。」
「こいつらどうするの?」
「朝には誰か助けてくれるだろう。放っとけ。」
車まで帰って来ると吉法師は先程の続きの風呂作りをし始めた。
「帰蝶出来たぞ。お湯入れてくれ。」
「自分で入れて私もう眠い・・・」
「鬼嫁が・・」
「はぁ?何か言ったぁ?」
「いえ、何も言ってません。」
仕方が無いから、吉法師は自分でお湯を入れて月を見ながら風呂に入るのであった。
暫くすると下の方から音が聞こえる。車を登ってくるようだ。
「ちょっとぉ!何自分だけ入ってるのよ。私も入るわよ。」
「帰蝶は眠いって言ってただろ。狭いって。ここ一人用だから。もう出るから。」
「何言ってるのよ。子供だから二人位入っても大丈夫でしょ。」
「もう出るから入っていいぞ。我儘だなぁ。」
「あなたに言われたらお仕舞よ。」
「お、何だ、帰蝶は人生終わってるのか。」
「終わってないわよ!お風呂入るから早く降りて。珠、妻木一緒に入っていいわよ。」
「それじゃ俺も一緒に。」
「あなたは入らないんでしょ。早く降りて。」
「わかったよ。鬼だな。」
「なんか言った?」
「美人だなって言ったの。」
「ありがとう。」
「いえいえ。」
吉法師が車から降りると珠と妻木が車の屋根へと登って行った。勿論壁で中は覗けない。
三河の春は夜になるとまだ寒い。特に海岸沿いは風が吹き、風呂上がりの体を冷ましていく。吉法師は焚火に向かい暖を取り月を見ながら考えた。
「なぁ、帰蝶。さっきの五人組に聞いたら神社が分かるんじゃないのか。ちょっと聞いて来るよ。」
「何言ってんの?今お風呂なんだから見張りがいなくなってどうするの。」
吉法師は考えた。飛行船を作ったら見張りが要らないな。でも、魔力を溜めておく物質って何か無いのだろうか。よし、神様に聞こう。
程なくして三人が風呂から上がって来た。
「聞きに行ってきていいわよ。」
「じゃ、行って来る。」
「ねぇ、ちょっと待って。」
「何ですか鬼蝶さん。」
「なんか、悪意が込められてる気がするんだけど。薪が落ちてたら拾ってきて。」
そして、吉法師は5人組の所へ向かうのであった。
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