第30話 駿府旅行

 尾張の春の心地よい日の早朝、訓練は偶の休みで何もすることが無く先日の事を考えていた。帰蝶には次は今川だとは言ったものの別に今川が何もしてこなければ、こちらから何かしていく利益が無い。京の都とは反対の田舎の方向であり、攻めて行くのなら京の方向だろう。しかし、京に行ったとして何になるのだろうか。京に行ったからといっても日本は自分の物にはならない。将軍家を倒したとしても何十もある国が従うとは思えない。そもそも将軍家にその力が無いから応仁の乱がおこったわけだ。結局は一国一国を力でねじ伏せるしかないのだろうか。だとしたらなぜ歴史は織田信長に京へと向かわせたのだろうか。分からない事が多すぎる。もっと歴史を勉強していればよかったと吉法師は考えていた。

 しかし、この世界でも織田信長は勝手に今川を倒し、勝手に京へと向かい、勝手に日本を統一しようとするだろう。だったら日本の統一は織田信長に任せて、俺は織田信長とは会う事のない場所で好きに生きれば良いのではないか。しかし、それでは日本を纏めて、日本の兵でチンギスハーンのように国土を広げて行くことは出来ないだろう。やはり信長に任せてしまっては俺の夢が叶わない。俺が日本を統一して国を広げて行かないと夢は叶わない。夢をかなえる為にも打倒織田信長だ。織田信長を倒す。織田信長何するものぞ。先手を打ってやる。今日も吉法師は打倒織田信長に燃え、決意を新たにするのであった。


「帰蝶、今川義元が来るまで待ってられないぞ。来たら手柄を織田信長に取られてしまう。そんなことになったら日本は織田信長のものだ。だからこっちから攻めるぞ。うかうかしてたら、織田信長に俺の夢を潰されてしまうぞ。」


「分かったけど、夢って何よ、日本の統一?」


「いや、ヨーロッパでハーレム生活だよ。」


「は?ハーレム?私が許すと思ってるの?あなたは黙って日本の統一を目指していればいいの。」


「何のために?」小声で文句を言う吉法師であった。吉法師のハーレムの夢は鬼嫁の所為せいで国土の拡大と言う大義名分で隠さざるを得なくなったのだった。


「という事でこれから駿府の城下町へと旅行に行くぞ。」


「どうやって行くの?流石に車ではいけないでしょ。」


「そうだな、珠と妻木に馬を運転してもらって駿府まで行くか、それとも、車で近くまで行って、車を隠して徒歩だな。」


「でも車で行けば途中で見つかり駿府城へ通報されるかもしれないわよ。」


「でも150キロもあるぞ。馬で行くのか。そう言えばテレポート使えるだろ?」


「でも言ったこと無いと無理じゃない?怖いわよ。岩の中に閉じ込められたりしたら大変。だけど帰りは大丈夫だね。」


隠蔽いんぺい魔法使えないのか?それで車の存在を隠蔽いんぺいして駿府まで行く。」


「そうね。それが安全かもね。馬で行ったら途中に野伏のぶせりいたら襲われちゃうわ、貞操の危機よ。」


「そんな奴ら、あっという間に真っ黒こげだろ。」


「何にしろ、珠と妻木は連れて行った方が良いわね、子供だけだと大変だろうし。料理とかも。」


「肉とキャンプ用品とジュースと水とお茶とお米も忘れない様に。でもこんなに遠いと魔力持つかな。こうなると魔力を溜める魔石の様なものが作れないか試したいな。あれば、珠と妻木にも運転させられるだろうし。さ、荷物積み込め。肉持って行くなら冷凍庫車に作らないと。スチロールとか無いからケース二重にして間を真空にすればいいかな冷却装置は屋上に作るか。ところで、珠と妻木も銃撃てるだろ。」


「はい、若様。訓練を積んでます。」


「何かあれば屋上から攻撃な。」


 既に屋上にはブローニングM2を模して作った重機関銃を2基積んでる。未だ訓練でしか使用した事はない。先日の信行事件で撃てる人間を限定してある。車は防弾ガラスにしてあるが日本には二年前に鉄砲が伝来したばかりでやっと出回り始めたばかりだが用心に越したことはないと考えている。当然吉法師も帰蝶も漠然と出回り始めた種子島の火縄銃を見て最近伝来したのだという事は分かっている。


「荷物積んだか?それじゃ出発するぞ。おやつは300円までです。」


「先生!バナナはおやつに入りますか?」


「はい。入ります。注意して下さい。」


「若様、帰蝶様。会話の意味が分かりません。」


「気にするな。故郷のスラングだ。」


「今度はスラングが分かりません。」


 尾張の春の心地よい日の早朝、一台の車が駿府を目指し那古野城を出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る