第21話 お風呂

 既に日は落ちたというのに涼しい風さえ吹かない尾張の黄昏時の薄暗い明かりの下、庭で土に向かい手を当てる二人の姿があった。二人とはもちろん吉法師と帰蝶である。

 手に魔力を込め土を風呂の形にしていく。大きさは二メートル四方。出来上がると、魔力を込め固めて行く。勿論排水溝は忘れない。三十分も経たない内に浴槽が出来上がる。

 周りの囲いも土を固め作り上げる、勿論天井は作らない、露天風呂だ。最後に縁側から風呂へと続く廊下を作り上げる。

 風呂の底は地面の高さ、脱衣所と洗い場の高さは縁側の高さで、風呂の深さは縁側の高さになった。


「できたな。次は金庫だな。未だ魔力はあるか。」


「まだ半分以上あるわよ。」


「普通の金庫の様に外側作って、銃を立て掛ける枠を作る。最後に扉だな。」


「鍵はどうするの?」


「鍵は封印の魔法で良いかな。取り敢えず。普通の鍵だと開けられるかもしれないしな。」


「分かったわ。」


 こうして二人の初めての共同作業で風呂と金庫は出来上がった。


「まだ、お風呂にお湯溜める分の魔力残ってる?俺もう疲れたよ。」


「あのね、魔力は使えるだけ毎日使わないと伸びないわよ。常識よ。」


「それ何処の異世界の常識だよ。分かったよ。お湯溜めるよ。」


 十数分後お湯がたまった。


「先入っていいよ。」


「一緒に入らないの?夫婦だよね。」


「あのね、ロリ趣味無いし。大きくなるまで大事にとっとくよ。爺、爺はおらぬか。」


「は、ここに居りますぞ。」


 足音と共に政秀が小走りでやって来る。


「タオルを持って来い。」


「は?」


「タオルじゃ、タオル。あ、タオルとは言わないな。何か拭くもの持って来い。これからそれをタオルと呼ぶぞ。」


「はぁ?暫し、お待ち下され。しかし、そばに侍女が折りますれば、その者に言いつけてくださればよいものを。わしゃ家老ですぞ。これじゃ過労で死にますぞ。」


 そう言うと政秀はタオルを探しに行くのであった。

 十数分後政秀がタオルを持ってきたのでまず帰蝶が入浴する。


「あー気持ちいいわよ。この世界に来て初めてのお風呂よ。美濃には温泉があったから偶に入ってたけど。しかし、このお風呂広いわ。一緒に入らないの?あ、見られるのが恥ずかしいのね。DTね。」


「はずかしくないよ。DTはDTだろ。まだ八歳なんだから。」


 こうして平和な尾張の夜は暮れて行くのであった。


 お風呂の後は夕ご飯が待っている。夕ご飯は食堂で食べる事になっている。


「なぁ、偶には味噌カツ食べたくないか。」


「美味しいの、それ?私食べたこと無い。」


「名古屋名物味噌カツ、美味しいよ。ここ那古野なのに味噌カツないなんて理不尽だよな。五、六日前にいのしし捕ったんだけど冷凍庫ないだろ。あれば味噌は無いけど豚カツは出来たんだけどね。あ、猪カツね。」


「食べたい、肉足りないよね、成長できないよ、特におっぱいが。育ちざかりなのに。」


「だったら、明日訓練と称して、兵士に猪狩りに行ってもらおうか。動く獲物撃つ訓練にもなるし。動く獲物撃つのは楽しいし。誤射が心配だから少人数だな。居残り組は休みにするか。」


 その後、銃を金庫にしまい、魔法で鍵をかけ砂で作ったダミーを金庫の前に二個立て掛けて食堂へ行った。


 食堂には乳母の養徳院がいた。当然本当の名前は養徳院ではない。


「あら、いつも仲が宜しくて羨ましいですね。」


「当然だろ、新婚だぞ。ところで勝三郎は元気か?たまには遊びに来させろ。嫁を自慢するから。」


「えー、あんまり苛めないで下さいよ。でも、将来部下にしてくださいよ。」


「分かってるぞ。まぁ、俺が生き残っていればだがな。」

 

 最近、吉法師は四人で飯を食べている。他の二人は帰蝶に美濃から付いて来た侍女だ。名前は珠と妻木。それなりの美人で年齢は十五歳くらいだろうか。帰蝶の父の斎藤利政が趣味で選んだのだろう。


「珠、妻木、お前らも何か喋ろ。帰蝶はどういうやつだった。」


「はい。小さいころから何も教える必要が無いほど、色々とご存じで聡明な方でした。」


「それはそうだな。前世の知識があるからな。」


「それ秘密よ。」


尾張の夜は今日も平和であった。





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