第84話「3月6日もう一つのプレスリリース①」

分譲マンション用地の取引事故に関する経緯概要等のご報告


 8月2日付で発表いたしました『分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして』(以下、「本件」といいます。)に関し、社外役員による『調査対策委員会』の1月24日付調査報告書を受領いたしました。これを受けまして、当社としての本件に関する経緯概要並びに再発防止に向けた取組み等を以下の通りご報告いたします。なお、事件経緯のご報告につきましては、捜査上の機密保持への配慮のため、これ以上の詳細説明は差し控えさせていただきます。


1. 事件の経緯概要

 東京マンション事業部が担当する業務のなかで、東京都品川区西五反田の土地建物(以下、「本件不動産」といいます。)につき、その所有者と称するA氏(後に、偽者と判明しました。) から、その知人の仲介者が実質的に経営する会社(以下、「X社」といいます。)を中間の売買当事者とし、X社から転売される形式で、当社がこれを買い受けることとなりました。4月24日、A氏とX社の間の売買契約、X社と当社との間の売買契約という2件の売買契約を同時に締結するとともに、所有権移転の仮登記申請手続を行った上で、手付金を支払い、仮登記が完了しました。 売買契約締結後、本件不動産の取引に関連した複数のリスク情報が、当社の複数の部署に、訪問、電話、文書通知等の形で届くようになりましたが、当社の関係部署は、これらのリスク情報を取引妨害の嫌がらせの類であると判断していました。そのため、本件不動産の所有権移転登記を完全に履行することによって、これらが鎮静化することもあるだろうと考え、6月1日に残代金支払いを実施し、所有権移転登記申請手続を進めましたが、6月9日に、登記申請却下の通知が届き、A氏の詐称が判明しました。当社は、直ちにA氏との間での留保金の相殺手続を実施し、実質的被害額は約55億5千万円となりました。


2.本件の被害を防止できなかった原因について

①購入決定までの問題点

 3月末頃に、本件不動産の売却情報を入手した担当部署は、直ちに購入に動き出しました が、A氏のパスポートや公正証書等による書面での本人確認を過度に信頼し切って、調査が不十分な状況で契約を進めてしまいました。また、不動産購入稟議では、起案した東京マンション事業部に対して、マンション事業本部が一線を画し、リスク感覚を発揮すべきところ、その役割が果たされませんでした。さらに、本社のリスク管理部門においても、ほとんど牽制機能が果たせなかったと考えられます。 稟議審査時に、リスク管理の側面から内容をもっと吟味し、追加調査を指示する等の対応が必要であったと考えます。本社から地面師詐欺を意識した特別な対応を要求することは非常に困難ですが、本件不動産の取引内容を勘案すれば、審査期間の確保とリスクの洗い出しを指摘すべきでありました。


②残代金支払いまでの問題点

 売買契約締結後、本件不動産の取引に関する複数のリスク情報が、当社の複数の部署に、 訪問、電話、文書通知等の形で届きました。しかし、本社のリスク管理部門は、マンション事業本部の判断に追従する形で、これらのリスク情報を取引妨害の類と判断し、十分な情報共有も行われませんでした。その結果、本社からの牽制機能が働かず、現場は契約の履行に邁進することとなりました。個々のリスク情報を一歩引いた目線で分析すれば、本人確認に対する考え方も違っていた可能性は高く、リスク情報の分析と共有を現場と本社関係部署が一体となって実施する必要があったのではないかと考えます。

 本件の経緯概要は以上の通りですが、調査報告書には、事件の調査結果に加えて、調査対策委員会としての本件の責任に関する意見及び対策提言が示されており、その概要は以下3に記載の通りであります。


3. 本件の責任に関する調査対策委員会の意見及び対策提言

 マンション事業本部は、取引の全貌を把握し、正しい判断をすべき立場にありましたが、 その責務を果たしていません。法務部は、重要なリスク情報を関連部署及び社長に報告せず、 本来持つべき牽制機能を果たしていません。不動産部は、取引金額等を勘案し、より慎重な判断が必要であったにもかかわらず、管轄部署としてのリスク管理が不十分でした。 本件不動産の取引に関する稟議回付を受けた取締役を含む取締役会及び監査役会においては、上述の各部の業務運営に不完全な部分があったことについて、職務執行の監督機関並びに監査機関としての結果責任があると考えます。また、社長には業務執行責任者として、取引の全体像を把握せず、重大なリスクを認識できなかったことは、経営上、重い責任があります。会長も、このような事態が発生したことに責任があります。人事及び制度の責任者として、速やかにリーダーシップを持って、再発を防止するために、人事及び制度の運用について、不完全な部分を是正する責務があります。 本件は、制度の隙間をついて発生しており、病巣が隠れて育っている可能性もありますので、トップのリーダーシップのもと、プロジェクトチームを設置し、人事及び制度の根本的な見直しを進める必要があります。


4. 再発防止に向けて

 本件を防げなかった直接の原因は、管轄部署が本件不動産の所有者に関して書面での本人 確認に頼ったことにあります。ただ、司法書士も本物と信じたという偽造パスポートや公正証書等の真正な書類が含まれていたという地面師側の巧妙さもあり、また、売買契約締結時には所有権移転請求権の仮登記も実現しているといった事情もあって、初期段階で地面師詐欺を見破ることには、困難な点もありました。 しかしながら、その後に判明した複数のリスク情報への対応は非常に拙劣であったと評価せざるを得ず、地面師側の犯行が狡猾で大胆であったこともあり、本社のリスク管理部門までもが、現場の先入観に左右されてしまいました。その結果、本社のリスク管理部門においてリスク情報の分析・検証を十分に行わず、十分な情報共有も行われないままで、残代金支払いを進めることとなったために、このような痛恨の事態に至ったものと考えております。

上記3の調査対策委員会の意見も加味した上で、当社は、再発防止という観点から、以下 の課題に取り組んでまいります。


1)重要な投資案件に関し、その審議や検証活動を機動的に行うための経営会議を設置する。また、必要に応じて、組織改善の各課題に関するプロジェクトチームを設置する。


2)取引の中での異常事態の発生時に対応するレポートラインを明確にし、部署間の連携を徹底して、リスク管理上の情報共有を実現する。


3)中間の当事者が介在する取引、一定金額以上の取引等を中心に、稟議制度の運用等を根本的に改善する。


以上の課題に対する具体的な活動については、順次、実施しているところであり、ガバナ ンス体制強化の一環として、今後も継続して取り組んでまいります。 なお、補足事項といたしまして、本件に関連して、9月7日付で取締役の減俸処分を決定のうえ実施済でありますこと、加えて、11月20日開催の取締役会における調査対策委員会からの事件経緯及び問題点の口頭報告を受けて、12月8日付で、 マンション事業本部長(常務執行役員)が辞任いたしましたこと、並びに、同日付の人事措置として、法務部長(常務執行役員)及び不動産部長(執行役員)の職を解きましたことをご報告させていただきます。 経営幹部自らが本件の問題点を肝に銘じて、部署間連携の更なる推進を図り、リスク対応 への意識改革を企業グループ全体で強力に推し進めてまいりますので、何卒ご理解を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。 以上


(続く)

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