第2話「最初の電話」

 平野のデスクの電話が鳴った。

「社長。」

 秘書の声が響く。

 いつもの通り、はっきりと聞きやすい声だ。無駄なことを一切話さない社長秘書の成田からだった。もう少しくだけても良いと思うが、一切スタンスは変えない。もう秘書になってから5年は経つのではなかったか。

「マンション事業本部の真中常務からのお電話ですが、取り次いでよろしいでしょうか。」

「ああ、繋いでくれ。」

 一瞬の間の後、少しハスキーな初老の男の声が聞こえた。

「真中ですが、少しご相談したいことがあります。今、お時間を頂いてもよろしいでしょうか。」

「こうして電話に出ているんだから問題ないですよ。どうしました?」

「前向きに購入を検討したい大型物件がありまして、社長にご相談したかったんです。場所は五反田。海猫館という名前をご存知でしょうか。」

「海猫館。どこかで聞いた名だな。」

(続く)

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