第16話 怒られる姉と怒る姉

 顔の赤さが抜けないまま香菜は千代に電話をしていた。


「そんな感じでさ。お姉ちゃんから連絡してないでしょ?」

「うん。何も聞いてない……」

「やっぱりね。こんな話を聞いていたら千代姉ちゃんが止めないわけないもん」


 電話の向こうから反応が無い。

 できるだけ軽く話すつもりだった香菜。


「もしかして、凄いこと言っちゃったかな。千代姉ちゃん大丈夫?」

「あたし、今からそっち行くわ」

「え!?」


 香菜は思わず起き上がり、ソファーの上で割座になった。


「ち、ちょっと千代姉ちゃん!?」


 すでに電話は切れていた。

 片掌をおでこに当てて母の方を向く。


「お母さん、千代姉ちゃんが来るって」

「あらら。まあ、あの子なら何を伝えても飛んでくるだろうから。香菜は悪くないわよ」

「そうかな」

「いいんじゃない? 直接会って話した方が悪いムードになりにくくて」

「……拗れにくいよね。千代姉ちゃんもお姉ちゃん大好きだし」

「ただいま!」


 母と娘が話していると、二人目の姉が帰ってきた。


「千代姉ちゃん!」

「時子お母さんども! 香菜ちゃんありがと。部屋?」


 天井を指差しながら香菜に問う。


「うん」


 確認するとそのまま早貴の部屋へと駆けていった。


「お母さんって言われちゃった。嬉しいわね」

「本当にお姉ちゃんになっちゃったね」


 事は千代にバトンが渡った。

 それを感じた二人はお任せモード。

 笑い合う程に緊張は解けていた。

 二階からはドアのノック音が聞こえてくる。


「千代!?」

「もお、バカ!」


 ガシッと早貴を抱きしめる。

 そのままつま先を立ててゲンコツを脳天に落とす。


「痛い! 痛いよお」

「理由は分かる?」

「はい……ごめんなさい」


 千代は背伸びをしたまま早貴の頭を撫でる。


「あの人は気を付けてって言ったのに」

「そうなんだけど」

「はあ、大丈夫だと思った理由を早貴の口から聞かせて」


 部屋に入り、鎮座しているミニテーブルを前に座る。

 千代はジッと睨む寸前な目で早貴を見ている。

 その圧は必要無いのにと言いたそうな表情の早貴。

 覚悟はしていたようで、事の内容を全て話した。


「護衛が付いていたってのは凄いね。あの人を悪く思えない理由の一つってわけか」


 両手を後ろに回して床につく。

 脚を伸ばして早貴を突いた。


「なんで心配させるかなあ。もう、ずっと付いて回るぞ」

「嬉しい」

「喜ぶ所じゃないの! 監禁にするか」

「そ、それはちょっと」

「これからどうするのよ」


 突いてくる千代の脚。

 足首を掴んで突きを止めた。

 脛を撫でながら話す。


「とりあえず話しをするとか、たまにどこかへ遊びに行くぐらいはいいよって答えたよ」


 撫でられていない脚でこちらもと要求する千代。

 説教しながらも構ってもらいたいらしい。


「そうしちゃったのなら仕方ない。こっちで監視するか」

「監視!?」

「そうです。そうしないとあたしがおかしくなっちゃう」

「はあ……」

「あの人みたいにガードマンってわけにはいかないけど。出来る限り、み・て・る・ね!」

「なんか、怖いよお」


 両脚をゴシゴシと摩る。


「もっと優しく! あっちに優しくしてあたしに優しくしないのはイヤ!」

「……千代からの愛圧が強くなっている気がする」

「気がする程度か。大丈夫だよ、もっと分かるようになるから」

「そこまで攻めなくても好きだからさあ。安心してよお」

「安心させてよお」

「真似しないでよお」


 一階にいる母と妹の思っていた通りになった。

 しばらくすると、仲の良い二人の娘が降りてくることだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る