第10話 長所と短所が顔を出す

 朝。

 部屋の扉が叩かれる。


「お二人共、朝だよ? ご飯出来たけど」


 結局紅茶を飲み切ってからそのまま眠りについた。

 電話が鳴る前のスタイルと同じく、手を握り合っていて。

 香菜の声がするまで。


「起きますか」

「そうしますか」


 むっくりと二人同時に起きる。

 お互いのくしゃくしゃな髪の毛を見てくすりと笑った。

 早貴が治癒されたことを見届けて、千代は家に戻っていった。


 ◇


 食事後に自室に戻った早貴。

 机に置いたままの携帯が点滅しているのが目に入った。


「誰だろ」


 画面を確認すると、チャットの通知マークが出ていた。


「木ノ崎君か。朝から何だろ。……ああ、この前話が出来なかったからかな」


 先日の事を思い出して、返信をする。


「え、電話?」


 返信するとすぐに木ノ崎からの電話が掛かってきた。


「もしもし」

『おはよう。ごめん、話せると分かったら思わず電話にしちまった』

「びっくりはしたけど、大丈夫だよ。ちょうど今時間空いたとこだし」

『良かった。話したいことがあるから会いたいんだ』

「話? 何かあるの?」

『あるからこうして電話をしているんだけど』

「電話で済む話ではないと?」

『……もしかして俺、嫌われている?』

「そういうわけじゃないんだけど、何を話すのかが想像できなくて」

『怪我の件は終わったし、それまでと言えばそうなんだけどさ。それ以外で話すのはまずいか?』

「うーん。簡単に動ける状況じゃない事って話したよね。だから……」

『今度さ、こっちの家の方だけど小さな夏祭りがあって、そこで話せないかなと思って』

「夏祭り? 外出を注意するように言われているから。映画は特別だったのよ」

『それを解消する案はある。こっちから車を出すから、それで送迎するよ。』

「車!?」

『ああ。それなら祭りと家の往復は車だから安全だろ?』


 木ノ崎の勢いにたじろぎ気味の早貴。


「えっと。なんだか分からなくなっているけど、家の前はまずいかな」

『駅の方ならどう?』

「……それなら、いいかな」

『家から駅までの間も心配だろうから、少し離れて身内の人に見張っててもらうようにするよ』

「そこまで……」

『そこまでが必要な状況なんだろ? 話させてくれるならそれぐらいするよ』

「……わかった。お話聞くのも出来ないなんて嫌だしね。それにお祭りに行けるのは嬉しい」

『そう言ってくれて良かった。また連絡する』


 結局木ノ崎の勢いに負けて承諾してしまった早貴。

 電話を切った後も、そのまま立ち尽くしている。


「気を使ってくれているし、大丈夫だよね。何の話か分からないけど気になるし。随分必死だったもんなあ」


 祭りに行ける楽しみも付加された。

 それがどれほどの影響力があったかは分からない。

 しかし、木ノ崎に対しては注意をしろと千代に言われている。

 でも、早貴は注意をする必要性を感じることはできなかったようだ。

 一度一緒に映画を見に行ったことも会うハードルを下げているのかも。

 どちらにしても、千代の注意を振り切る結果を選んでしまった。

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