第14話 毎日が失恋記念日

 ああ、一応僕は就職したんだけど、その仕事風雲録は別の作品でもう十分すぎるほど詳細に書いてしまったのでここには書かないよ。同じことを二度も書くなんて、まるで写経だよ。単なる苦行ね。なので、僕がいかに惚れっぽくて、必ず撃墜される哀れなさまを読んで笑ってよ……


 正直に言おう。社会人になるまで、小六の時のアクシデント以外に、異性に告白をしたことがないから自ずから交際もしていなきゃ、交接(という難しい言葉でごまそう)も当然のごとく経験のない、生粋のチェリーボーイ(黄桃男子の意ではない)だった。近年の日本国産男子に中ではかなりの貴重種だと思うよ。だって風俗とか自己倫理の関係で絶対に行かないから。いっそ、環境保護団体に射殺されたかったよ。正直、自分の顔を鏡にうつして、とっぷりと眺める下劣な趣味がなかったので自分の美醜が今ひとつわかっていなかった。高校の修学旅行の時の集合写真に小さく自分が写っていたので久々に自分に顔を見てみたんだけど、そんなに悪くないというか、どちらかといえば、周りの男子よりイケているようにも感じるんだけど、それはあくまでも自分の感想なので信用度は低いんだよね。人間さ、みんな自分には甘くなりがち。


 客観的に考えると高校・大学を通じてちょっとでも近づいてきた女子は、申し訳ないがこちらサイドの事情でお断りだったので、冷たく接してたらそのうち消えてなくなった。あれはいびつにゆがんだ、しゃぼん玉だったのか?


 図書館の学生職員の時、三年時は別の部署で学生職員をしている一つ先輩、東北地方のどっかの県出身の、性格美人で今の言葉で言えば「ちょうどいいブス」的な人のことが急に好きになってしまって、どうしようもなくなって悶絶しちゃって、ちょっと危険な先輩(学年は一緒)に相談して酒席をともにしたまでは良かったんだけど、その頃、ガキだった僕は自分の酒量がわからず、結構、酒乱だったの。妙に気が大きくなってしまって、いつもは守っている倫理も崩れて、結構心象を害したんだろうね。それ以降はあんまり図書館に来なくなっちゃった。僕は未熟だね。でも彼女の卒業式の時、袴姿の2ショット写真に快く応じてくれた。もうそれで十分。彼女は田舎に帰っちゃたから、次に会えるのは来世があればだね。


 四年時の大失恋は、いつも図書館のカウンターからよく見える席に座ってる二人組のうちの一人。最初は特になんとも思ってなかったけど、じっくり眺めてると白い肌に黒目がちの瞳、この二つ僕の大好物。髪型は弱い天パーなのか、ちょっとふくらみ気味だった。見てないふりしてじっくり見るという変態の特技で毎日彼女を見ているうち、あることに気がついた。どうも、チラチラとカウンターを見てる! ここで、またしても火がついてしまった。だが、今回はあくまで図書館グループの外部の人だから、先輩方の援助は期待できない。もちろん口頭での告白などは無理だ。だって、一回も喋ったことないもん。なので超美文かつ美しい文字で彩られた恋文を書くまでは書いたのだけど、渡す勇気がどうしても出ず、他人に見つかる前に細かくちぎって捨てた。

 そんなある日、同僚から電話がかかって来て「前に借りてたままだったCDを返しに行きたい」というので快諾したけど、よくよく考えると東京の彼の家と我が貧乏借家までって結構遠いんだよね。不思議。

 それでも、来たから、実姉が結婚していなくなり、ようやく手に入れた僕の部屋で意味のないおしゃべりをしてたんだけど、何かの潮に彼が突然、正座になって「あの人に告白されました」だって。一瞬ぽかーんとした後、いろいろと考えた。そして謎は全てわかったよ。なんの謎だって? 決まってるよ。彼女がチラチラカウンターを見ていた理由がさ。これ以上喋らせないで。


 バカ書店に入社が内定し、なんか豪華な中華料理をご馳走してくれると言われたんだけど、僕を担当していた人が藤沢店の店長だったんで藤沢まで来いと言うのよ。僕を乗せるのかよ。あの悪魔のごとき湘南カラー東海道線に。東海道線の湘南カラーって、もろに川崎球場時代のホエールズのユニフォームだよね。しかし、諸説あり。その他にはかつてプリンス、今はつるっ禿げの山下大ちゃんが静岡県の人だから、当時の秋山登監督のアイデアで、名産のみかんとお茶の色にしたとか、メジャー・リーグ、オークランドアスレティックスのユニフォームのデザインをパクったというものもあるよ。なんにしても奇抜すぎるわ。


 実は僕、藤沢が正確にはどこにあるだかとか、所要時間がどのくらいなのかとかなど何一つ知らず、いまみたいに簡単に乗車時刻と到着時刻がわかるわけでもないので、適当に家を出たら、無茶苦茶早くJR藤沢駅に着いちゃって、かといって時間までブラブラとかは心の制限上イヤだし元々そういう時間つぶしは性格上出来ないから、すごく早く店を訪れてしまった。向こうさんも面食らったようだ。でもお呼ばれしたのはそちら様、されたのは僕。なんの引け目があるだろう。なので、そこの事務所の椅子に座り、他のメンバーをじっくりと見てやるのだ。一人目はまあまあ可愛らしい女子。とりあえずキープ。そしたら、彼女も僕と同じ港北高校出身だったんだけど、残念ながらお互いに当時の記憶なし。シャイとシャイなのかな。あとに来る男どもとニッチェのでかい方みたいのはスルー。そのあとちょいといい感じの女子が来たので二人目のキープなんて心の中で遊んでいたら、大トリにね、光り輝く女神が降臨して、キープが全て消滅。いや、一瞬、この世界には女神と僕だけの世界だったかもしれないね。

 キリがいいから、完全入社後のギリシア悲劇の雨あられは次回に。

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