第4話 姉と弟の格差

 僕は生きて小学校へ入学出来た。


 貧乏ながらも、子供用のスーツのようなものを着させて貰った気がするのだが、いわゆる入学式の集合写真も何もかも、実父に捨てられてしまったので確認のしようがない。実姉にはそんな仕打ちをしたという記憶はないので、実父が姉弟のどちらを愛していたかは一目瞭然である。後々の事で恐縮であるが、実姉が結婚するときはきちんと結納の儀が行われ、実姉の婚約者である男性のご両親がわざわざ遠方からいらっしゃり、堅苦しい雰囲気で儀式が執り行われたのを覚えている。さらに両親は娘の結婚式や披露宴のために結構な金額を拠出したこともしっかりと覚えている。挙式披露宴は、昔の名前で言うところの椿山荘で行われた。超一流の会場である。そのときはよく知らなかったので、特に何も感じなかったが、お相手の家柄はともかく、僕の家の身の丈に合うような場所ではない。実父はおそらく、会社の重役をしていた自分の弟に金を借りたのだと思う。実父の頼れる人物はその弟、僕からすれば叔父であるが、その人くらいしかいなかった。実父は狷介なところが多分にあり、僕はしっかりとその性格を受け継いでいた。嫌なところだけが似ているのだ。まあ、そのことは後述する。


 ここで僕が強く言いたいのは、両親、というより実父の我々姉弟に対する対応の違いである。ちょっと話がずれてしまうが、最終的には繋がるので聞いて欲しい。僕はたった十年という短い期間だけ結婚生活を送ったのだが、僕は正直、結婚などする気もなく、出来るとも思ってはいなかった。女性に対して奥手であったし、精神年齢が十二歳くらいから全くもって前に進まなくなってしまったからだ。それでも、肉体のというか戸籍上の年齢は進むので、それに従って中学、高等学校、大学、就職とまさに急なエレベーターに無理やり乗せられて上っていった。もちろん、多少の紆余曲折はあったけれど、大きな問題は起きなかった。一番、危険だったのは就職だったね。僕は周りの人たちがせっせと活動をしているのに、完全に出遅れてしまっていたんだ。アルバイトの経験はなく、たまたま大学図書館でが学生職員を募集していると大学の図書館司書の講義の中で教授がおっしゃったので、一念発起、学生課というところに行き、その後、図書館の職員の面接を受けたら、どういうわけか採用されてしまった。そこで約二年間働いたのだが、ここで働くことで自分を少し変えられた。なんと言っても、接客応対が出来るようになったのだ。もともと、対人関係におかしなところがあったわけではないが、小心と人嫌いの虫を心中に飼っていたので、応対は無理かなと考えていた。それが出来るようになったのがかなりの自信にはなった。あとは、学生職員の同僚たちと一緒に働いて、次第に慣れて来るにつれて、彼らが友人の補完作用となり、気安く接し合うことが出来たのもたいへんによい効果を生んだと思う。当然、同僚の中には奇人もいたが、その圧力を受け流す術を覚えたことで、逆にその奇人に好かれてしまうというありがた迷惑なこともあった。ただ、それなりの企業(であったと過去形がつく)に就職が出来たのはいわゆるバブル景気の最終年度だったという、すれすれの幸運のおかげで、もし一浪などしていたら、二十代のうちに今で言うところのニートになっていたかもしれない。当時はコンピューターやファミコンでひたすらシミュレーションゲームをするのが好きで、休みの日は飽きもせずにやっていた。稀に高校時代の友人が来訪してきても、することはシミュレーションゲームでの対戦だけだった。就職したら実生活がゲームのような綱渡りの日々で、せっかく購入したSHARPのX68000というパソコンも宝の持ち腐れとなった。

 実はここで、僕はミスを犯していた。当時、パソコンは本体とディスプレイを別々に購入するのが基本だったのだが、僕はそれが面倒だったので、オールインタイプのX68000を購入したのだ。人生で初めての月賦での買い物だった。ところが、X68000というパソコンはいわゆるシューティングゲームやアクションゲームを得意としたパソコンだったのだ。なので、シミュレーションゲームの移植は全てのデバイスの中でいつも一番最後だった。本来だったら王道のNECのPC98シリーズを買うべきだったのだ。僕は二者択一で、必ず間違った方を選ぶ男だった。この時点での被害はそれほどなかったが、年齢を重ねるにつれ、どんどん悪い方向へ進むことになる。


 余談が過ぎた。僕は三十二歳で結婚したのだが、今時の男性の結婚の平均年齢から見て、あまり遅過ぎはしなかったと思う。ちょうどいいくらいだ。妻となった女性は三十六歳。これはもう明らかな晩婚さんだね。四つ年上だ。特に美人でもなく、胸が大きいわけでもなく、あえて言えば、細身で背が高く、脚のラインが割と素敵だった。そうした容姿よりも僕が好きだったのは、男のような気風の良さ、メンタルの強さだった。最終的にはこれらが離婚の原因となるのだが、彼女の性格は現在も変わらず、なぜか離婚したいまも僕が一番頼りにしている人間だ。肉親など、全く信用できない。逆に彼女とは前世からの宿縁があったとしか考えられない。


 ああ、最後に最も言っておきたかったことを話そう。この僕たちの結婚式披露宴は完全なる自前だった。つまりはお互いの両親は一銭も出していないということ。思い出してほしい。実姉の結婚の時にはおそらく借金までした実父が祝儀一つよこさなかったんだ。ちなみに妻の両親は後で相当な額の祝儀を彼女に渡していた。僕は他の列席者の皆さんのご祝儀だけを頂いたんだ。

 実姉と違って、僕にはそのときある程度の貯金があったから一概には言えないけれど、姉弟の扱いの格差がすごすぎる。実母はともかく、実父に対しては、いろいろと思うところがある。だが、悔しいことに尊敬の念を捨てられないのだ。

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