堕ちていく 僕 それからチカラ

よろしくま・ぺこり

第1話 かくも長き彷徨

 光に満たされて、僕は生まれたようだ。


 太陽は輝きを増し、風は口笛を鳴らし、小鳥たちはそれに合わせて唄う。木々や草花はダンスをしていた。


 だが。


 一ヶ月もそんなことをしているほど、ヒマなものはいなかったようで、太陽は雲に隠れ、やがて雨模様となり、風は暴風に変わって、暴れ出す。小鳥たちの姿も見えず、木々や草花は自分の姿勢を守るのに必死だった。台風が来たんだろう。


 大口病院という、今となっては恐怖の連続殺人看護師が逮捕されたことしか話題のないところで、僕は生まれた。かなり肥満児だったようだ。正確なデータをすべて実父に捨てられてしまったので(別に仲違いしたのではない。単に引越しの邪魔だったという、普通の親では考えられない理由である)、わからないのだが、五千とか六千くらいあったようだ。だが、肥満児イコール健康優良児ではなく、僕は死にかけて生まれていた。かなり危なかったようだ。実母も産後の肥立ちが悪くて入院継続。もしかしたら二人ともここで死んでいたかもしれない。僕は一ヶ月間、保育器に入れられた状態だ。実母は母乳が出なかったらしく、飲むのは粉ミルクだ。出産して最初の母乳を飲むと丈夫になるという。もう、この時点で僕の人生の三分の一くらいは決まったようなものである。


 一ヶ月後、ようやく母子揃って退院したのだが、当時の母親の日記をちらっと見たときに、今日は嘔吐、明日は発熱、明後日は下痢と淡々と書かれている。マジでやばかったんだなと思う。


 実母が一ヶ月不在で、実父と二人で暮らしていた実姉はそうとうストレスを感じていたようで、僕に物心がつくと、その頃のことを散々言って、僕を責めていた。別に、不摂生で病気になったわけじゃない。言っちゃあ悪いが、これは、産むことに決めた両親が悪いと思う。だって、おいらの前に二回流産しているのだ。それに高齢出産だし、やめといてくれれば、僕は生まれずに済んだし、生き地獄を味合わなかったのになあとも思うが、これは絶対に言ってはいけない言葉だな。ああ、ここで言っちゃっているけど。


 実姉とは五歳離れている。しかも彼女は早生まれなので、同じ学校に通ったことはない。幼い頃は、そんなに不仲ではなかった。かと言って仲がいいわけでもなかった。不仲になったのは彼女が結婚してからかなあ? いや、幼少時もしょっちゅう喧嘩はしていたから仲が悪いというか、相性が悪かったんだろう。「五歳も歳が離れていると喧嘩なんかしないでしょう?」ってよく他人に言われたが、そんなことは幻想にすぎなかったな。


 幼少時は、体が弱いせいもあって、室内での一人遊びが好きだった。幼稚園に行く前の頃、「誰々くんのお家に遊びに行きなさい」と実母になぜか言われたのだが、それがとっても嫌で、近所の家の石垣で、ミニカーを転がして一人で遊んでいた。別にその子が嫌いなわけじゃないが、他人の家に入るのが怖かった。そして、一人で行くという行為も恐ろしかった。やがて、実母に見つかって、家に連れ帰された。怒られたというより、なぜ行かなかったのかを問われた気がする。人付き合いの上手な実母には、僕の気持ちは理解できないのだ。生涯にわたって実母と僕の考えの根本的な違いは解消されなかった。


 初回は試運転ということで。続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます