第178話:今が続けばいいのに
雨梨目線
「蒼桜先輩…?」
貧血とかなりの無理をしたことで先輩は相当やばい状態だったらしい。それもあってかよく魘されている。
先輩のベッドに行くと綺麗な金色の前髪がおでこにピッタリと張り付いている。
「雨梨…。」
うっすらと開けた目は潤んでいた。
「看護師さん呼びますか…?」
「大丈夫…。起こしてごめんね。起こしちゃった?」
ここでも僕の心配だ。
「大丈夫です。」
「雨梨…班のこと頼んだよ。」
先輩はこういう時いつもこれを言う。そしてこう続けるのだ。
「困ったら呼んでね。羅希も俺も出来るだけ早く駆けつけるから。出来るだけのことをするから。」
大切なものに触れるように僕の頭を撫でる。2年間蒼桜先輩はずっと僕と奇龍を大切にしてくれていた。本当はボロボロだった奇龍も僕も先輩の優しさに救われ、傷を乗り越えられた。僕もそんな先輩になれるのかな?
「どうした?」
「僕で本当に良かったと思っていますか?…奇龍の方が強くて人を引っ張っていける。凛音の方が技術面はきっと上になる。」
「雨梨じゃないとだめなんだ。雨梨は雨梨の班を3人で作っていけばいいよ。沢山傷ついて泣いた3人なら、それを乗り越えようと諦めなかった3人なら大丈夫。」
僕達を信頼し見守り育ててくれた先輩に僕は何が返せたのだろう。
「先輩…僕は2人に何が返せますか?僕はまだ何も返せてないままです…。」
「何言ってるのさ。沢山返してもらったよ。」
「え…。」
「きっと羅希も同じことを言うと思うけど、後輩の成長は他に勝る喜びだよ。雨梨は初めてあった時に俺の手を取らなかったの覚えてる?」
「いいえ…。」
「ひどく怯えた顔をしてこっちを見ていたんだよ。そのあともとにかく怖がっているように見えた。」
「あの時は僕は誰を信じてどこにいけばいいか分からなかった…。それでも先輩方の後ろに着いてきたらいつの間にか明るいところにいた。そんな感じです。」
「それなら嬉しいよ。奇龍も酷く怯えてそれを攻撃性として他者に向けていたけど、みんな大きくなったね。」
「お父さんみたいなこと言ってますよ、先輩。」
「お父さん呼ばわりは心外だな。」とにこやかに笑う。卒業が決まったからか最近3年生の2人はなんだか切なく見えて、桜が散ると同時に消えていってしまいそうだ。これは寂しいと言えばいいのだろうか。とにかく胸が締め付けられる。僕にとって家族よりも濃いもので繋がっている人が遠くに行く。酷く悲しい。うとうとし始めた先輩におやすみなさいと伝えてベッドに戻る。卒業式なんて一生来なければいいのに、今がずっと続けばいいのに。
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