第125話:何かがおかしい

雨梨目線___

 黒軍は白軍を迎え撃った。黒軍優勢みたい。白軍はいつもより弱い気がする。

「おらっ!お前ら弱すぎだろ!!いつもの武器はどうしたんだよ!!」手榴弾を的確に投げながら煽り散らしている奇龍の言う通りだ。何だか白軍の言いがかりから始まった戦いかと思ったけど違うみたい。白軍はいつも先制攻撃をする側だったのに、今回攻撃されて統率が乱れているみたいな。

「雨梨。どう思う?」 蒼桜先輩が左前方の敵を切りながら横に馬を近づけ聞いてきた。

「赤軍の仕業だと思います。正直白軍がここまで混乱したのは初めてみました。白軍も混乱したということは本当に奇襲に合ったということだと思います。赤軍が黒軍に扮してこの状態を作ったと思います。ただ…狙いは両軍の弱体化だけだとは思えなくて。」おかしい。両軍の弱体化だけなら攻め慣れていない黒軍施設を攻撃し、報復として黒軍に事を起こさせればいい。それに白軍関連施設にどうやって入った。スパイがいたのかな。両軍が衝突したところで赤軍が両軍を相手に出来るほどの戦力は持っていないだろうし。意図が読めない。

「とりあえず赤軍の戦闘乱入も警戒しよう。」

「赤軍!?」

「白軍がおかしいのは赤軍に仕掛けられたって事ね。」

「頑張ります。」

 蒼桜先輩の判断のままとりあえずやるしかない。どうする。すると耳に不安を助長させるようなノイズが入る。電波障害にしてはいつものように音が乱れる予兆がなかった。白軍が新たな機械を発明した?それとも…。

「司令塔で何かあった…?」

「っ!騎馬兵団神咲です。司令部聞こえますか?」ノイズが変わらず聞こえてくるだけだ。

「神咲です。兵団長聞こえる?」

「こちら九条だ。どうした?全体チャンネルのノイズが酷かったが騎馬兵団のチャンネルは大丈夫そうだな。」兵団のチャンネルが無事で全体チャンネルがやられることは電波障害では有り得ない。電波障害の機械は戦場で司令部の情報を遮断するためにある機械だ。やはり…。

「兵団長、一旦退却しよう。」

「何言ってる。ここは好機だぞ!」

「全体チャンネルが途絶えたのは司令部に何か起きたとは考えられない?敵がもし司令部に居たら挟み撃ちにされる。」

「司令部で何かあったとは報告が来てない!」

「何かあったら報告に来られないよ。」

「久邇宮だ。神咲の言う通りだ。だが、今は退却するべきではない。挟み撃ちにされるような事になるなら諜報部隊が動くだろ。それに司令部がやられることなど有り得ない。司令部は最も安全な場所にあるだろ。」正論すぎる。だけど、司令部がやられていたら挟み撃ちにされなくてもこの後攻めた時に各部でバラバラの動きをすることになり、統率が乱れるのは必須。黒軍はその時こそピンチだ。白軍を追い詰める機会なんて今まで無かった。そのチャンスを捨ててまで引き返したり停戦する必要性を感じないのか。

「分かった。」

「なんだよ!!好機とは言っても司令部やられてたらやべえじゃん!」

「あんた落ち着きなさいよ。騒いでも方針は変わらないんだから。赤軍が仕向けたなんて証拠もなくて進言出来ないでしょ。」と目の前の敵を的確に刺し、次の敵を難なく斬り殺して淡々と答える。司令部と通信が出来ない黒軍の混乱は徐々に目に見える形となって現れた。

「かなり混乱してるわね。…あんた達、こっちが相手よ!!!」羅希先輩が凄い勢いで切り倒していくが、隊列も全て崩れ、乱戦と言うのが正しい様子だ。

「くっ!」

「蒼桜にい!」

 蒼桜先輩と白軍の巨体が刀で打ち合っている。どう考えても体格的に蒼桜先輩は敵わない。僕のバズーカや奇龍の手榴弾だと先輩ごと吹き飛ばしてしまう。羅希先輩も凛音も直ぐには近づけない!

「あっ!」

「先輩っ!」

 落馬し受け身は取れたみたいだが痛みで動けない先輩の元に行こうとする。しかし右の視界の端から敵が来る。

「雨梨先輩!取りこぼしました!」凛音の声が響く。どうしてもバズーカの間合いが足りない。護身用の銃を抜き撃とうとするが相手の刀が早かった。拳銃で刀を受け、刀はその拳銃の表面を滑り―――

「うぐっあ!」僕の右手首に深くめり込んだ。ひどい痛みが右手の感覚を奪う。二振り目が来る。拳銃は地面にある。左手で無理矢理馬のたずなを引き距離を取ろうとするが刀の先が馬の脇をかすった。驚いた馬は後脚で立ち上がり、片手しか使えない僕を振り落とすことは難しくなかった。

 背中と手首が痛い。拳銃をとりあえず拾っても右手に力が入らない。

「ゔっ!」持っていた布で血だらけの手首と拳銃を縛り付け、切りつけてきた相手へ発砲する。弾は相手の左目に当たった。

「雨梨先輩!」

「凛音…ごめん。」駆けつけてくれた凛音が周囲を斬りなんとか安全地帯を確保してくれる。

「手大丈夫ですか?」

「ごめん、馬には乗れなそう。」手首は白い布を赤く染め上げ、今にも布から血が滴り落ちそうなほど出血していた。視界まで歪んで見える。

「とりあえず乗ってください。」凛音の手を掴み凛音の後ろに乗る。痛みで声が漏れてしまう。

「大丈夫ですか?」

「っ…ごめん…大丈夫。」


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