第107話:たこ焼き


羅希目線____

「凛音!奇龍!班長!退院おめでとう!!」

 パーンと雨梨と私が持っているクラッカーの音が響き、3人はびっくりした表情を見せた。

「羅希…!」

「班長のお祝いもまだだったでしょ?」

「そうだけど…ありがとう!」

「いいえ、どういたしまして!」

 退院したての後輩2人は、雨梨にいつ準備してたのかって、テンションが高すぎて病み上がりなのに大丈夫か心配になるくらいの勢いで詰め寄っていた。バレそうだからこっそり買ってきて雨梨の部屋に隠しておいて良かったと後輩達が騒いでいるのを眺める。

「じゃあやるわよ!念願のタコパ!」

「よっしゃあ!焼くぞ!!」

「不器用なあんたが焼いたら丸にならないわよ!」

「は?なるしー!ちゃんと丸になるしー!!」

「まあまあ、とりあえず奇龍座って。雨梨、飲み物とって。」と笑いながら嬉しそうに蒼桜君が言う

「雨梨先輩!手伝います!!羅希先輩何がいいですか?」

 ぶーぶー言いながら座る弟の横で凛音が紙コップに名前を書いて振り向く。

「私オレンジジュース!」

「凛音!俺はコーラな!!」

「奇龍、油ひいて!」

「はーい!!」

「賑やかだね。」

「そうだね、班長。」

 本当に良かった。


「いただきます!!」

「あっちっ!!!」

「奇龍先輩大丈夫ですか?」

「奇龍、これ。」

 雨梨がすかさずコーラを渡す。いいバディになったなと彼らが1年生の時を思い出す。

「ねーちゃん!なんだよ、ニヤニヤして!」

「ん?つくづくあんたバカねって。」

「はぁ?」

「いいから落ち着いて食べなさいよ!私と凛音と雨梨が焼いてもその勢いだと追いつかないじゃない。」

「はーい。」

 不満そうながらもふーふーとして嬉しそうに食べるもんだからたこ焼きパーティーをして正解だったと思う。うまく焼けなくて雨梨に教えて貰っている弟、弟がとにかく下手すぎて困惑という文字が見えるような顔をしている雨梨。班長の横で寝ている凛音を眺めながら班長が

「いいチームになったな。」と呟いた。

「そうね。最初はどうなるかと思ったけど。」

 あの二人が入ってきた時、私たちの班は期待なんてちっともされていなかった。軍の中では大人しめの蒼桜くん、トラウマ持ちの私たち姉弟、なるべく技術開発に行ってほしいと思われている雨梨。なるべく活躍せずに、前線に行かせないようにという意図で組まれたこの班は、夏までは班として機能していなかった。雨梨は心を開かない。それに奇龍は腹を立てていた。元気すぎる後輩と静かすぎる後輩という両極端の後輩を持つことになって、初めての後輩、班長としての仕事として3年生と渡り合うことへの大変さで蒼桜くんもとにかく自分を出せていないようだった。初めての戦場は5月。規模もそこまで大きくないこともあり、無事帰還した。だけど、奇龍は雨梨の動きに腹を立てていたみたいで

「百鬼!お前さ、バズーカでぼんぼん倒せねぇんだよ!」

「ごめん。」

「何か言いたいことあるなら言えよ!」

「奇龍。」

「姉ちゃんはだまってろ!」

「…じゃあ言うけど、バズーカは近距離の対人戦には向かないんだ。」

「言い訳かよ!」

「違うっ…!」

「奇龍、いい加減に―――」

「わかった。九万里、百鬼。ずっと考えていたことだけど、2人を群馬合宿に行かせることにする。今の2人はチームの足でまといだ。」

「群馬…合宿…。」

「なんで!足でまといなのはこいつだけだろ!」

「もっとちゃんと見てくること。」

「なんだよそれ!」

「奇龍、先輩は上官よ。」

「っ!」

「僕は大丈夫です。」

「くっそ!」

 そうやって蒼桜くんは厳しいと有名な群馬合宿に2人を送り込んだ。蒼桜くんの考えは成功して、私たちが驚くほど仲良くなって帰ってきた2人はチームワークという面では足でまといから少しは戦力になっていた。訓練も順調に進み、ズレていたものや欠けているものがハマっていくような感覚がした。私も休む回数も減ってきて少しずつ回復してきた中、夏休み大きめの戦闘が連続して起こった。私たちの班はたまたま戦場の流れから前線として戦うことになり、そこで戦績を上げてきた。それにより班自体は上のレベルとして認められ、翌年新学期まで戦闘の度に前線で戦ってきた。


「凛音も含めてちゃんとチームらしくなってきて、そろそろ引退なんだなって思うよな。」

「そうね。」

 引退ね…。3月1日の卒業式で私たちは引退する。この3人を残して。

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