第92話:何が正解か

桐谷目線――

「お前、後で処分があると思えよ。」

「はい。」

「まさか、見つからないと思ったら桐谷の家に居たとはな…。ひどく弱っているし、なんですぐ連れてこなかったんだ?」

「申し訳ございません。」

「教員にもいろいろいるが、お前はそんな反逆行為なんてするような人間ではなかっただろ?優等生だったお前がな…。」

 優等生…か。中等部から大和に入り、高等部時代も何度も戦場で結果を残し、そのまま大学に行き、卒業後大和の教員になった。今まで黒軍のために生きてきたといって過言ではない。息子の晴人も黒軍に入り結果を残していたこともあり、こんなことするなんて意外だと思われるのも分かっている。

 酸素マスクと何本かの点滴に繋がれ、治療されている凛音ちゃんを見ていると、本当に匿っていたことは、自分のエゴだったのではないかと思ってしまう。羅希ちゃんと凛音ちゃんを重ねた自分は、私欲によってこの子を殺そうとしてしまったのか?

「神咲!お前は立ち入り禁止だ!」

「自分の班員が危険だと言うのに、班長である俺は何故側に行かせてもらえないのですか?」

「蒼桜君…。」

「桐谷…先生。」

「本当にお前らは…!」

 高等部の教員の声を無視し、蒼桜君に近づく。

「久しぶりだね、聞いたよ。災難だったね。」

「お久しぶりです。俺も聞きました。桐谷先生だったんですね、凛音を助けてくれたのは。」

 助けた?

「桐谷先生?」

「あ、いや。こんな状態にさせてしまって、助けたのか危険に晒したのか分からないな。」

「桐谷先生、ありがとうございました。俺の大切な班員を助けてくださって。多分先生が匿っていなければ凛音は死んでいたと思います。」

「なんでそう思う?」

「凛音はきっと殺されかけたと思うのです。」

「殺されかけた…?」

「凛音は純粋でいい子です。それ故に味方も多くいますが、無意識のうちに僻まれることはよくありました。今回の件は、凛音が起こしたことではないと思います。凛音は戦場以外で引き金を引けません。なので…。」

 言ってしまっていいのかと言葉が出ず、こちらを伺うような蒼桜君に

「今回は彼女のことを僻んだ一条猫音が仕組んだことと?生き残っていると聞いたら誰かがまた彼女を狙うと?」

「桐谷!神咲!一条家を疑うのか!?」

「班長!」

「九万里!百鬼!お前ら何しに…!!!」

 羅希ちゃんと雨梨くん。

「凛音!」

 羅希ちゃんが涙目で後輩を呼ぶ姿に、追い返した時は悪いことをしたなと思った。涙目の羅希ちゃんは俺を見て、

「桐谷先生!!凛音のことちゃんと匿ってくれていたんじゃなかったのですか!?」と掴みかかってきた。なんとか雨梨君に押さえられた彼女は

「先生のこと信じていたのに…!」

 あぁ彼女をまた傷つけてしまったのか。

「羅希、先生が匿っていなかったら、今頃凛音は死んでた。だから、先生を責めるな。」

「だって、凛音は…!」

「まだ生きてる!!!」

 その蒼桜君の一言で羅希ちゃんは動きを止める

「凛音は、まだ、生きてるよ、大丈夫。どこにもまだ行っていない。ちゃんとそこにいる。」

 静かに諭すように言う蒼桜君は、あの時に羅希が目を覚まさないと泣いていた蒼桜君ではなかった。

「神咲君だね。君が。」

「一条さん!!」

 そこには一条厳九郎が立っていた。

「凛音。」と一瞬凛音ちゃんを見た後に

「神咲君の考えを聞かせて貰いたい。猫音が凛音を嵌めたということかい?」

「っ…猫音さんのことは分かりませんが、少なからず俺が班長として凛音を見ていた限りでは、彼女は戦場以外で殺生はしません。虫すら殺さないような子です。そして彼女は家族をいつも求めていました。その彼女がもしかしたら新しく家族になれるかもしれない一条家でこのような事件を起こすとは考えにくいです。」

「それは君の私情でしかないな。」

「っ…。」

「証拠がない内は凛音が犯人だ。」

 言い返せないな。その通りだ。だから連れてきてしまえば彼女は容疑者として扱われてしまうから避けたかったのに。

「今日のうちは帰りなさい。君らが居たところで凛音が無罪になる訳でもない。凛音の病室にも入れないし、やることはないだろ?」

「っ!」

「羅希やめろ。分かりました。今日の所は失礼します。羅希、雨梨…帰るよ。」と今すぐにでも飛び出しそうな羅希ちゃんを止める。

「了解しました。羅希先輩行きましょう。僕らは今ここにいるべきでは無い。」

「分かった。」

 3人が帰る姿を見て、

「自分は、ここにいてもいいでしょうか?例え数日だとしても面倒を見ていたので。」

「お前ってやつは!」

「君は中等部の桐谷君だね。息子君は確か以前戦争で亡くなっていたな。桐谷班は先程いた神咲君と九万里君がいたな。」

「はい。」

 よく知ってるな。高等部の教員を無視し、話しかけてきた一条厳九郎は鋭い目で私を見た後に

「とりあえずお礼を言う。ありがとう。凛音が生きていなければきちんと真相が解明できない所だった。」

 真相解明…孫が生きている事より真相解明が大切なのか。

「いえ、自分が人間として成すべきことをしたまでです。」

「人間としてか。君は好きなだけ残ればいい。私はこれで失礼するよ。玄!」

「はっ。」

「君は今から猫音のお付に戻す。猫音の所に居なさい。」

「分かりました。」

 2人が去っていき、監視役の高等部の教員と二人きりになる。

 夜は長そうだ。

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