第26話:痛みと気持ち

羅希目線_____

 眩しい光が差し込み目をゆっくりあける。戦場じゃないってことは…。

「やっと起きたかい?」

「っ!」

 身体は縛られ、口にももちろん縄をかまされている。そして隣には…凛音!!

「まぁここなら大声だしても大丈夫だし、外してあげるよ。」

「なんで後輩も連れてきてるの!?」

「抵抗されたからかなー!それに顔見られてるしー、会話聞かれたしー、その場で殺しても良かったけど、人質というか尋問対象は一人じゃなくてもいいからさー!」とまだ意識の戻らない凛音に触る。

「汚い手で触るな!」

 自分でも驚くほどの大声が出た。

「んっ…?」

「大丈夫?」

「こいつも取ってやれ。」

 凛音も口の縄をとられ自由になる。

「大丈夫?どこもケガしていない?」

「大丈夫ですよ。」

「…ごめんね。」

「なんで謝るんですか?」

「私のせいで…。」

「謝らないでください!羅希先輩のせいではないですよ!それにすぐに蒼桜にいが助けに来てくれますよ!」と笑う凛音に驚く。始めての戦場で誘拐されて怖くないの?

「健気な後輩だねぇー!」

 嘲笑うかのような気色悪い笑い声が響く。

「じゃあそんな後輩ちゃんに黒軍の昔話を聞かせてあげよう。昔白軍と黒軍が衝突した戦で一人の女の子がいました。中学生の時から戦争に出ていた女の子は高校生になり、先輩達と共にその時も戦争にいました。

 しかし退却の命令があり退却する時に爆破に巻き込まれ落馬しました。落馬の衝撃で武器を手放し丸腰になった少女は殺されかけました。」

 それって…。

「その時先輩達が助けに戻って来ました。同じ1年の男の子に女の子を任せ先輩達は勇猛果敢に白軍に攻めていきます。退却命令があった男の子は仕方なく女の子を連れて退却します。」

「やめて…」

「羅希先輩?」

「その時大きな爆発によって先輩達はみんな死んでしまいまーす!」

「やめてってば!」

 悲鳴に近い声を出し噛みつこうとするけど、

「ゔっ!」

「羅希先輩!」

 身体中に電気が走り、そのまま地面に転がりこむ。凛音が横で心配そうに見ているのが見えた。

「言い忘れてたけど一、定距離を離れると身体中を縛っている縄に電気が走るようになっているから!

 そしてその女の子と男の子は大きくなり今3年生として後輩を率いるまでになりました。その男の子の名前は神咲蒼桜、女の子は九万里羅希。」


「蒼桜にいと羅希先輩…?」

 あの時の記憶は自分の中でなるべく思い出さないようにしていた。後輩にも蒼桜君にも心配かけたくないから…。なのに…。体の震えが止まらない。

「これから女の子の新しい話が始まりまーす!」

「凛音に触れないでっ!」

「それは無理だなぁーだってこの子尋問対象だからねぇー。まぁ1年だしいい証言出ないかもしれないけどね!」と凛音を別の部屋に連れていく奴を睨む。

「おっと怖い怖い!ちょっといじめるだけだよ。女の子だし 顔には傷はつけないようにするよ!」

 隣の部屋から凛音の苦しそうな声…。

「もうやめてっ!お願いっ!私はどうなってもいいからやめてっ!」

「その顔を見たかったんだよ!でもね、あの子には可哀想だけど逃がすことは出来ないなー!だって本当は君を攫うつもりが、予想外のおまけとして来ちゃったからねぇー!殺すしか解放方法はないなぁー!」

「私は何でもするから!お願いっ!!」

 脳裏には凛音の笑顔。守りたい。それが私ができることだから!

「ごめんねぇー!それは俺求めてないんだよねぇ!まぁそのまま苦しんでてよ!」

「ごめん…凛音っ…。」

 凛音はもっと辛いはずなのに…。私のせいで…巻き込んでごめん…。


「はぁっ…はぁっ…。」

 ボロボロになり放り出させる凛音。

「凛音!!!」

 むせて咳をして苦しそうな凛音の元になんとか寄る。

「羅希先輩…?なんで…泣いているんですか?」

 私…泣いてる?

「凛音っ…ごめんっ!」

「なんで謝るん…ですか?」

「っ…。」

「泣かないでください…。きっと、大丈夫です…。蒼桜にいが助けに来てくれますから!」

 班長のこと信頼しているんだ…。

「そうだね。班長も奇龍も雨梨も助けに来てくれるよね…。」

「先輩…?でもその時は一緒に先輩も戻りましょうね!」

 そうだね。絶対戻らないとね。

 疲れたのかそのまま寝る凛音。いつも部屋で見ているのと変わらない寝顔。

「ねぇあんた。後輩の縄をといてよ。武器もないし、この施設からどうせ逃げられないからいいでしょ?」

「そうだねー!それぐらい許してあげようか。後輩ちゃんはそこまで君みたいに強くなさそうだし、いいかな!まぁ君もついでに解いてあげるよ。でも変なことしたら君も後輩ちゃんも身の安全は保証できないよ?いい?」

「分かってる。」

 私の縄が外された瞬間、凛音に駆け寄り縄を外す。

「凛音。」

 抱きしめたら重みも温かみもあって安心する。

 凛音。弱気になってごめんね、もし班長達が来なくても、私がちゃんと連れて帰るからね。

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