第106話 初詣に行くなら上川神社
「いえ、クロハ部長からは、何でもいいから栄養調整できるサプリメント的なもの、とだけ言われていました。マズい青汁は、ウチのおじいちゃんが飲んでいるので、それをもらって来ました」
恵水の判断かよ!
「ああ、そうだったんだ。でもそれじゃ、おじいさんに悪いから、これは返すわ」
俺は、そっと、マズい青汁の入った紙袋を突き返した。ウマイ青汁だったらもらっておいても良かったんだけどな。チョイスが悪かったよ。
「クロハ部長からは、たとえばマズい青汁あたりがいい、とは言われていましたけど」
やっぱりクロハの誘導なんじゃん。
どっちにせよ、マズい青汁は、飲まんわ。どうせ持ってくるならウマイ青汁にしてほしかった。
「そうですか、受け取ってもらえませんか。青汁が苦手っていうなら、しょうがないですね。持って帰ります」
恵水は素直だった。「どうしても受け取れ」と言い張って押し問答になるんじゃないかと一瞬思っていたけど、平和に済んだ。
「でも、本当に、いらないんですか? クロハ部長から監督への伝言も預かっていて、このマズい青汁を持って神社の土俵に来るように、って言われていますけど」
は?
なんじゃその伝言は?
だったら、青汁の受け取りを拒否したら、ダメってことになるじゃん。
でも、その青汁を持って来い、だと?
「どうしますか監督。青汁、いりますか? いらないですか?」
改めて恵水に青汁をもらうかどうか尋ねられたけど……一度不要だって言ってしまったものを、今更やっぱりもらうとは言いにくい。そしてやっぱり、マズい青汁をわざわざもらいたいとは思わない。マズいからこそ健康に良いと思っている恵水のおじいちゃんにこそ飲んでもらいたいわ。
「いやだから、マズい青汁は俺は飲まないから。いらないよ。せっかく持ってきてくれたのに申し訳ないけど」
「そうですか……でも、伝言はちゃんと伝えましたよ」
最後にそれだけを念押しして、恵水は持参してきた紙袋をそのまま持って帰宅の途に就いた。
大柄な二階堂さんと違って普通の女子高生の体格である恵水だから、もうすっかり暗くなっているのだし、送った方が良かったかな、と一瞬思った。
が、俺にはそれよりも、対処すべきことがあった。
「クロハの奴、神社に来いって言っていた、だと? しかも土俵?」
まず、こんなすっかり暗くなってしまった時間帯に呼び出しというのも非常識きわまりない。
そもそも女子高生が、監督を呼びつけるなんて、失礼じゃないのか。
……あ、いや、待てよ。確かに表面的には失礼だけど、あいつは女神でもあるしな。失礼だとかなんとかという考えは不要かもしれない。
それに、こんな暗くなった時間帯に、恐らくは人気の無さそうな場所を指定しての呼び出しって、もしかして、色気のある、むっふーん、あっはーん、な展開があるかも?
それになんでマズい青汁を持っていく必要があるのかどうかは分からないが。そもそも本当に青汁が必要なら、クロハが自分で持って来ればいいだろ、という話だ。
だから、行くか、行かないか、で考えると、……行く、だろうな、やっぱ。
呼び出しに応じる義理は無い。だが、俺が行かなければ、クロハは神社の土俵でこんな暗闇の中で一人で待ちぼうけになってしまう。それはさすがに申し訳ないというか、いくら正体が女神とはいっても女子高生を一人で置いておくわけにはいかない。それに、行けば、ワンチャン、春 (意味深) な展開が発生するかもしれないし。
もう決定だな。行くのは行く。
でも、神社とだけ言われても、どこの神社だ?
旭川で一番大きな神社、旭川市民が主に初詣の時などに訪れる神社は、上川神社だ。俺も上川神社に初詣に行ったことがある。
けど、あそこに土俵なんてあったっけ?
冬だから雪で埋まっていたのかもしれない。
でも、俺にとって神社といえば、旭川市の中でも地元といえる神居神社だ。
でもでも、神居神社にも土俵あったっけ?
俺が知る限り、土俵があるといえば、台場神社かな。あそこの土俵では毎年子ども相撲大会なんかが開催されているらしいし。
だけど、神社、と言っただけではどこだか分からないのが普通だろう。青汁を持って来いとかヘンな指示は忘れない割には、肝心な情報が欠落していて、ポンコツ女神だぞなクロハは。
土俵のある神社。……せめて神社の名前だけでも言ってくれていれば良かったのに。
そもそも俺は、こっちの旭川人ではない。あっちの旭川であっても、市内の全部の神社を知っているというわけではないけど、こっちの神社なんて分からないぞ。
俺が元居た旭川には無かったけど、こちらの旭川だけにはある神社、なんてものが存在していたら、もうお手上げだ。
……あれ?
そのパターン、どこかで聞いたことがあるような。
旭川西魔法学園の隣には神社があって、そこに土俵があるという。そこでなら、男であっても土俵に入って大丈夫、という話をしたよな?
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