第132話 魔女と最後の晩餐

夕食はレイク家のナタリアさんにアリシアとノーランの3人と、訪問客のメリンダさんとマリアそして僕ミルアの合計6人でテーブルを囲んだ。メインは湖でとれた魚の料理で、この地方の伝統的な料理らしい。


食事をしながら沢山のことが話題になった。例えばメリンダさんとナタリアさんの出会いについて。見た目からは同じ位の年に見える二人だけどメリンダさんの方がずっと年上で、初めて会った時はナタリアさんがまだ小さい頃だったとか。あとはアリシアと同じくらいの年のナタリアさんのは今のアリシアとそっくりで、ただもっと気は強かったということが語られた。


「そういえば、今日は珍しく普通に食事をめしあがるのですね。」


話題を変えようとしたのか、ナタリアさんがそんなことを言う。


「そうね、食べなくても生きていけるようになってからは特別な時くらいしか食事をしなくなったけど、今日は特別な時になるのかしらね。」


メリンダさんが答える。そういえば魔女は魔力だけで身体を維持することができるのだと言っていた。僕がお腹がすかないのも、ミルアが魔女だからなのだろう。


「食事をしなくてもいいということは、魔法を使う時の魔力も食べ物以外から得ていることになるのですか。」


せっかくなので僕も質問する。アリシアが魔法を使った後に大量に食べていたのは、魔力の源が食べ物だからなのだろう。しかし食事をしない魔女だと違う魔力源みたいなのがあるのか。


「普通の人の場合は食べた物が魔力のもとになってるというのはいいわよね。」


「はい、身体を動かすのと同じように、食物の栄養が魔力になっているということですね。」


ナタリアさんの言葉に答える。隣のマリアは気にせず食事をしてるけど、他の人達はこちらに注目している。


「そうなの。身体を動かすための力は体中に運ばれた栄養によって細胞で作られているのだけど、魔力もこれと同じように体中の細胞で作られているのね。」


「その細胞というのは何でしょう。」


ノーランが聞いてくる。メリンダさんは自分で答えようとせずにこちらを見るので僕から説明する。


「ええと、生き物の体は目に見えないくらい小さく分けられた部屋みたいなもので出来ていて、それを細胞といいます。たとえば卵は大きいですが一つの細胞です。」


「なるほど。ありがとう。」


「ミルアちゃんは物知りね。その細胞の卵で言うと白身の部分にある物が、栄養を身体を動かす力に変えたり魔力にしたりしてるのね。」


「そうなんですか。」


細胞の核が卵でいう黄身だから、白身は細胞質になるはずだ。栄養を身体を動かす力に変えているというのは細胞質の中にあるミトコンドリアのことだろう。この辺は、地球に帰還後にネットで調べた。植物だと葉緑体もあって光合成によって太陽の光からエネルギーを作り出しているのだけど、そんな感じで魔力を作り出す魔力体みたいなものが細胞にあるから魔力が使えるのかも、といったことも帰還後に考えた話。

このときは、あまりよくわからずにうなずいていただけだ。


「魔女が食べ物以外から魔力を得る仕組みというのは、残念ながらわかっていないの。魔女は数も少ないし、私の身体なら調べてもらってもいいのだけど、何かできない理由があるみたい。」


たとえば魔女からとった細胞を顕微鏡で見れば、他の人には無い何かがあったりする、というものでもないのかな。


「もともとの魔力が強いというのが条件だったりするのではないのですか?」


と聞いてみる。


「そうね、魔力が弱いよりは強いほうが魔女になる可能性は高いでしょうね。でも魔力が強いから魔女になれるというものでもないの。」


メリンダさんはここで言葉を切って、続ける。


「それに魔女ではなくても強力な魔力を持つ人もいるの。今ではそういう人も含めて魔女と呼ばれることが多いかしら。たとえばグーちゃんは魔女でも不思議はないくらいの魔力を持ってるわ。」


ノーランとアリシアが母親の方をちらりと見たのは、ナタリアさんもまた強い魔力を持つからだろう。

メリンダさんの話は続く。


「でも魔法を使う時の魔力を自分自身からだけでまかなうのは、身体に負担がかかることでもあるの。アリシアさん。」


「は、はい。」


急に呼びかけられたアリシアが、驚いた感じの応答をする。


「あなたもお母様と同じくらい強い魔力を持つようですが、無理はよくありませんよ。」


「わ、わかりました。ありがとうございます。」


もう驚いてはいないのだろうけど、いつもと違う口調のアリシア。メリンダさんも貴族みたいなので、貴族同士の会話になるからだろうか。


「そうそう、ミルアちゃん。」


「なんでしょうか。」


「あなたはもっとご飯を食べないとダメよ。ちゃんと食べないと大きくなれないわよ。」


と、小さい子にお母さんが言うようなことを言われてしまった。まあ確かに今のミルアの身体は子供といえばその通りなのだけど。


「あー、わかりました。心にとめておきます。」


いちおうそんなふうに答えておいた。僕はそのうち地球に戻るけど、記憶にとどめておけばミルアが対応することも出来るだろうという意味で、心にとめておくというように言った。この時は知る由もなかったけど、意外なほど早く帰還することになってしまうのだった。



食後のデザートはプリンで、それを食べてから部屋にもどる。翌日はメリンダさんとマリア、僕の3人で聖堂を訪問する。この3人だけなのはメリンダさんの希望だ。




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登場生物まとめ


ミルア:僕が一時転生している女の子。魔力は強いけど、中身が僕では魔法はほとんど使えない。ボール型使い魔があれば少しは使えるようになった。

マリア:謎の女の子。自分の名前も覚えていないので、僕が名前を付けた。魔法は使えて魔力も多い。甘い物好き。

メリンダ:眠りの魔女。一年の大半を眠ってすごしている。使い魔にセブンとアイちゃんがいる。お菓子好き。

グリンダ:メリンダの妹だけど、見た目は年上。メリンダはグーちゃんと呼ぶ。

ナイン:使い魔。身体の大半が魔力なので、魔法は使えるけど使うと身体が減るらしい。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。湖の街を治めるレイク家の当主夫人。

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