第70話 奇跡
「それじゃあ、これで話し方の練習を終わりまーす。」
「おわりまーす。」
「おわりまー。」
終わりの挨拶をしたら、それまでリピートされてしまった。これは最初に繰り返したフレッドのせいか。
でものりとしてはこれでいいかと思い、
「ありがとうございました。」
と言うと。
「ありがと、ございました。」
「ありがと、ございまし。」
とわりとキレイに終われた。
去っていくヒトの中には、並んで何かを話してるのも見かけた。もともと言葉が理解できていたからか、話せるようになる速度は驚異的だ。
「フレッド、あなたすごいわねえ。」
アンナと一緒にいたエリとフレッドの世話をしている豚人の女性が感心したように言った。見た感じは何となくアンナさんよりは年上かなあと思った。
「フレッド、すごい。」
フレッドは少し自慢げに言う。
確かにフレッドは他のヒトに比べても一歩先をいっているだろう。発音もだんだんしっかりしてきている。
「フレッドやエリとお話できるようになってうれしいわ。」
「わたし、まだ少し。」
と言ったのはエリ。フレッドよりは遅くても、このくらいは話せるようになったのだ。
僕は親子の語らいを邪魔しないように少し離れていた。実の親子ではないのは見た目で明らかだけど、関係としてはそんな風に感じられる。
「これほどの変化があるとは、想像以上で驚きました。」
「ああ、アンナさん。皆すごいですよね。」
「いえ、すごいのは…。」
アンナさんが何か言いかけたところに、サラがやってきた。
「やっとおわった~。またあそんで~。」
「やあ、サラ。あとの二人は?」
「まだ字の練習してる。私は先に終わったの。」
「そうなんだ。サラは字を書くのが得意なのかな。」
「できるけど、あんまり好きじゃない。」
「好きじゃないけど早くできるのはすごいね。こっちも話し方の練習がちょうど終わったところだよ。」
「本当、じゃあフレッドも「あー」以外も話せるようになったの?」
サラは少し疑わしげな感じでこちらを見上げる。その後ろでフレッドがこっちをみている。
「さあ、どうかなあ。フレッド、何かサラに話してみてよ。」
サラがフレッドの方を振り返る。
フレッドは、
「サラ。僕、話せーようになったよ。」
と少し危なっかしい部分はあるものの、サラをびっくりさせるには充分な言葉を発した。
「えー、すごい。もしかしてエリも?」
サラがエリを見ると、
「えと、少しだけ。」
と先ほどと同じようにはにかんだ様子で、でもしっかりとした発音で言った。
「ダン、あなたすごいのね。」
こっちを向いてサラが言う。
「いや、フレッドとか皆がすごいんだよ。」
「そんなことないわ。だってダンが来るまでぜんぜん話せなかったんだから。」
「んー、僕がヒトのお手本だからわかりやすかったというのはあるのかも。」
「さすが災厄のヒトね。災厄のヒトの不思議な力。奇跡だわ。」
サラはその場でピョンピョン飛び跳ねている。まあ確かに半日やそこらで言葉が話せるようになるのはすごいし、僕だって驚いてるくらいだ。でも不思議な力が僕にないことはわかってる。
サラが騒いでるうちに、他の二人の豚人の子もやってきた。そういえばこの子たちの名前は聞いてなかったような。
「皆集まったからまた遊びましょ。」
「あー別にいいけど、何かサラはやりたいことはあるの?」
「何でもいいって言っても…。じゃあフレッドは何かあるかな。」
「カータ。」
「カータって、もしかしてカルタ? カードに絵や文字がかいてある。」
「そう、カールタ。」
「じゃあカルタでいいかな。」
と聞いたら特に反対はなく、そのままカルタ大会になった。
僕は何度も読み札を読まされて声がかれてしまい、途中から皆で交代しながら読むことにした。フレッドはまだ難しいみたいなので僕が補助についたけど、エリは自分だけでなんとか読んでいた。さすが年上というべきか、それでどうして今まで話せなかったんだと不思議になった。
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登場生物まとめ
ダン:僕の転生先のヒトの呼び名。本名は不明。
アンナ:信仰心が強い女性の豚人。
サラ:豚人の女の子。
フレッド:ヒトの男の子。言葉を覚えるのがはやい。
エリ:ヒトの女の子。字が読める。
アレク技官:警察に所属の豚人。鑑識みたいな仕事をしてるのか。
マックス:警察にいたヒト。返事などの片言の言葉は話せる。
マイ:最初に会った女の子の豚人。ダンの名付け親。
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